第480話 急がば回れ
聖女一行のハラグーラ侯爵領までの旅二日目。
タウロ達は、一行の先頭集団の馬車に乗っていた。
進む道は少し起伏があり遠くまで見渡すのは難しい。
道の傍には森もある。
そして何より、あまり道が整備されていなかった。
聖女一行はハラグーラ侯爵領を目指す為、一番近い道を、道案内でもあるサート王国側の責任者王太子が選択した結果であった。
整備された道を選んで進むなら遠回りだが街道に出る道を選び、それからハラグーラ侯爵領に向かえばいいのだが、それだと二週間ほどかかる。それなら遅れた日程を取り戻す為の策として、王太子が取り巻きから近道と聞いて今の道を選んだのだ。
さすがに聖女一行はサート王国が誇る近衛騎士団が護衛した大人数の一団ではあるから、それを襲う賊の類はいなかったが、それとは関係なく襲う連中もいる。
それが、魔物だ。
大人数である聖女一行が森の中の道を進むと森の獣がその気配にざわつくから、それに反応して魔物が刺激される。
「あ……。こっちに向かってくる魔物がいる……。──近衛騎士さん、左前方より、八十メートル先から人狼五体がこちらへ真っ直ぐ接近中です。警戒して下さい」
タウロは馬車の横を馬で進む近衛騎士に馬車の窓から声を掛けた。
「……確かに、確認した。人狼か。夜行性の魔物のはずだが……。近衛隊停止して周囲を警戒!左前方より人狼五体、迎え撃つぞ!」
索敵系能力を持つ近衛騎士はタウロの声に、同じく魔物に気づくと、仲間に声を掛ける。
すると後列にもそれは伝令され、聖女一行の馬車は次々に停車していく。
「右後方からもオーガの群れ二十がこちらに来ています。そちらも警戒を」
「後方からも!?……確認した!伝令!右後方からオーガの群れ二十、四番隊、五番隊、迎撃態勢を取れ!」
近衛騎士の隊長が王太子の確認を取らずに指示する。
その時間が勿体ないと思ったのだろう。
現場の指揮官としては正しい判断だ。
その間にタウロは馬車の上に登って弓を構える。
人狼は森の中を高速でこちらに木をかわし、ジグザグに進んできているから、狙い撃つのは難しい。
だがタウロはそれを気にする事無く矢に魔力を込めると、白い光が矢を包み込む。
そしてその矢を放った。
タウロの放った矢は、木々の間を綺麗に針の穴を通すように飛んでいく。
狙いはもちろん先頭を走っている人狼の一体だ。
タウロの放った光の矢は、一本の木に吸い込まれて行く。
次の瞬間、木の幹の端を矢が砕く。
だが、矢の勢いは削がれる事無く真っ直ぐと飛んでいく。
そこへ丁度、先頭の人狼が顔を出した。
光の矢はその人狼の眉間に突き刺さる。
いや、貫通していた。
貫通した矢は、光を失ったがその背後を走っていたもう一体の人狼ののどに突き刺さって止まった。
「ギャウン!」
一瞬で二体を仕留められた三体の人狼は、それでも勢いを止める事無くこちらに向かってくる。
タウロはすでに二射目を構えると、今度は通常の矢を放つ。
だがそれは、タウロの装備する力を上昇させる盾や革鎧によって補正された強弓から放たれた矢だ。
茂みの奥で、また、「ギャウン!」という声と共に、人狼が絶命した。
残りの二体は茂みを抜けると近くにいた近衛騎士に飛び掛かる。
近衛騎士は盾を構えて迎撃しようとすると、人狼の攻撃を目に見えない障壁が弾き、さらにその脇を目に見える風の斬撃が高速で通過した。
ラグーネの能力による『範囲防御』と、アンクの大魔剣による飛ぶ斬撃だ。
近衛騎士を襲おうとした人狼はその風の斬撃を袈裟切りに食らい「キャイン!」と、悲鳴を上げて絶命した。
そこでやっと最後に残った人狼は近衛騎士を襲うのを止めて、踵を返そうとする。
そこへエアリスの『麻痺』魔法が放たれた。
人狼は痺れて動きを止める。
そこに、黒い影が近衛騎士を傍を高速で駆け抜けていき、動きがままならない人狼に正拳突きを放つ。
背中を見せる人狼の背骨に叩き込まれると「ゴキッ!」という鈍い音と共に人狼は木に叩きつけられて即死するのであった。
「冒険者で言うところのCランク帯討伐対象の人狼をこうもあっさり!?」
その場に居合わせた近衛騎士達は驚愕した。
近衛騎士は必ずしも魔物専門ではない。
どちらかというと対人戦闘が得意なくらいだ。
その代わり、自分達の強さの基準になる魔物についてはよく理解していた。
それが、C、Bランク帯の魔物である。
つまり、人狼をあっさり倒したこの少年をリーダーとする貴族の子息子女で構成された冒険者達はそれ以上の強さを持つ事になる。
それは、自分達近衛騎士と同等、もしくはそれ以上に戦えるかもしれないという事だ。
「……世の中は広いというが、まだ若いのにこれ程とは……」
護衛役をまとめる近衛騎士の隊長は、タウロ達の強さに感心する。
「近衛騎士さん、右後方のオーガの集団の迎撃を援護した方が良いです」
タウロが、馬車の上から感心する近衛騎士隊長に声を掛けた。
「おお、そうだった。──一番隊は待機。二番隊は四番隊、五番隊の援護へ!」
タウロも馬車から飛び降りると、エアリス達に頷き、急行する近衛騎士達の後を追うのであった。
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