第481話 活躍の場
聖女一行の隊列の右後方から襲い掛かるオーガの一団二十体はオーガが森の中からの襲撃とあって、迎え撃つ近衛騎士は魔法の使用に苦慮していた。
特に魔法攻撃に火魔法を使用する者達は周囲への引火を恐れて使用するのを迷った。
中には風魔法、土魔法、水魔法を使用できる者もいるがオーガレベルの相手だと攻撃特化の火魔法が有利だ。
他の魔法でも代用は効くが威力に関すると火魔法よりは劣るからより高位な魔法を使用しないといけない。
近衛騎士は、基本、物理攻撃である剣術などが得意な者が多かったから火魔法以外でより高位な魔法となると専門外の者が多かった。
だから、近衛騎士達はオーガの群れを魔法以外で迎え撃つ事にしたのだが、このオーガという魔物は物理耐性を持ち、魔法以外で倒すとなると冒険者でもBランク程度の実力を求められるほどだから、近衛騎士のような強者集団でも中々骨が折れる相手であった。
「な、何をやっている!近衛騎士達、私の馬車にオーガが肉薄しているではないか、迎え撃て!」
聖女の信用を失いつつあった王太子が汚名返上して、聖女に良いところを見せようと、陣頭指揮を執り始めた。
その取り巻きも上級貴族の面々である。
ああでもない、こうでもないと近衛騎士に命令をし始める。
これが最悪であった。
近衛騎士は、隊単位で陣形をとり、迎え撃つ体制を取ろうとしていたが、王太子達の命令で戦わずに王太子と上級貴族の守りに待機させられる隊と迎撃する隊、いまさらオーガの背後に回って退路を断つようにと命令される隊などがあって混乱を極めた。
本来なら、近衛騎士隊長に指揮を委任しておけば、他の隊の援軍まで全体で迎え撃つ事が出来たはずだ。それならいくら物理戦に強いオーガ相手でも互角以上に戦えただろう。だが、王太子が兵法家気取りで隊を三分するという愚策を行ったものだから、戦闘狂で戦い方を分かっているオーガは一団になって各個撃破する為に戦い始めた。
近衛騎士の迎撃命令を受けている隊が数で劣った為に押され始めた。
「くっ!王太子殿下、聖女様のいる前の隊列に一旦お下がりになり、陣形を整え直してください!」
近衛騎士が王太子の指揮があっては不利と悟って、余計な命令をする王太子を現場から離れさせようとした。
「ば、馬鹿を言うな!ここで私が引いたら聖女殿の信用がまた下がってしまうだろう!近衛騎士達は下がるな、身をもってここを死守せよ!」
これは、近衛騎士達に死ねと命じたようなものだ。
「殿下、ここは私達にお任せ下さい!」
そこへ取り巻きのハラグーラ侯爵の孫スグローが取り巻き達を率いて前に出た。
その中には平民出のテイマーの姿もある。
「魔物相手には魔物を当たらせればよいのです。テイマーのマホド、行け!」
オーガ20体近くに対してテイマーのマホドの召喚魔物はスパイクウルフ二体、ダークウルフ二体、投石猿一体の計五体である。
マホドは意気揚々とその五体をオーガに放った。
だが、それは一瞬であった。
ダークウルフ達がオーガの手や足に噛みつくのだが、さほど痛痒を感じない様に手にした剣で簡単に仕留められてしまった。
スパイクウルフは、その容姿通り、前面から生えている角の様な棘をオーガに向けて放つ。
これもオーガの物理耐性には微々たるもので、すぐに返り討ちに遭った。
ダークウルフに跨っていた投石猿もそれは一緒である。
呆気なく自慢の魔物達を失ったテイマーのマホドは、「そ、そんなー!」と、その場に膝を突いてうなだれるのであった。
「くっ!平民出のテイマー如きには荷が重かったか……!──お前達、上級貴族の子息としてその才を発揮し、魔物を返り討ちにするんだ!」
ハラグーラ侯爵の孫スグローは自分の取り巻き達に命令する。
「わ、私達ですか……?」
「当然だろう!将来を期待される才能に溢れた若者として集められたのが私達だぞ!今こそ、聖女様や王太子殿下にその才を見せる時であろう!」
「わ、私は頭脳派なのでこういう事には……」
「自分も同じく研究職をめざしているので……」
「僕も武芸スキルはからっきしです……」
もちろん、中には武芸関係のスキルを持つ者も数人いた。
だが近衛騎士より強い自信はない。
その近衛騎士が圧されているのだ、自分達の出る幕ではないと怖気づくのであった。
「ええい!このままでは、王太子殿下に良いところが見せられないではいないか!」
焦りでスグローが語気を強めた時であった。
風を鋭く切る音と共に光の矢がスグロー達の視線の先を高速で通り過ぎ、オーガに吸い込まれて行く。
その光の矢はオーガを一体、二体と容易に仕留めていった。
さらにオーガの頭上でバチバチと稲光が起きたかと思うと派手な音と共に雷が落ちる。
オーガはその雷魔法に一網打尽になる。
エアリスの『雷撃驟雨』の高威力バージョンである。
それと同時に戦っている近衛騎士の前に光の障壁が現れオーガの攻撃を弾く。
ラグーネの『範囲防御』だ。
さらにそこへ、黒い二つの人影がオーガに襲い掛かる。
黒い影はアンクとシオンである。
アンクは風属性の飛ぶ斬撃と、シオンは聖属性と闇属性をそれぞれ持つ籠手でオーガに襲い掛かった。
その間もタウロによる光の矢で狙撃は続いていたし、エアリスは駆け付けたラグーネとアンク、シオンに身体強化魔法を唱える。
『黒金の翼』のいち早い援軍でオーガはあっという間に全滅した。
近衛騎士の名誉の為に言うが、指揮系統で混乱しなければ、正攻法でオーガも返り討ちに出来ていた事を弁明しておく。
そこに他の近衛騎士隊が駆け付けたのだが、『黒金の翼』に後れを取ったのはその重厚な装備が足枷になり、タウロ達程早く動けなかっただけであるが、その為に活躍の場は無かったのであった。
戦闘が終了して、王太子とスグローは驚きのあまり呆然自失状態だったが、ようやく正気に戻った。
「……わ、私の指揮があって何とか危機的な状況から粘れたのだ。だからこそ、駆け付けるのが遅かったお前達に活躍の場があっただけ。それを勘違いしてもらっては困るぞ!」
王太子はそう言ってその場を取り繕うと馬車内に戻るのであった。
スグローは、テイムした魔物を失い、凹んでいるテイマー・マホドのケツを蹴り上げる。
「この役立たず!お前は他の平民出の者達の馬車に戻れ!」
ついさっきまで重用を約束されていたテイマー・マホドは、後続の平民出の馬車に追いやられるのであった。
「あらら……。よくわからないけど、何かあったみたいだね」
タウロは王太子の態度もさることながら、スグローの態度を見て、自分達がなにやらタイミングが悪かったらしい事に気づくのであった。
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