第479話 目的地の変更

 聖女一行の次の目的地が大幅に変更された。


 当初、バリエーラ公爵領の後は、その近くの有力貴族領に寄ってから、ハラグーラ侯爵領の予定であったが、大幅に日程がずれ込んだ為、ルワン王国側とサート王国側の協議により、次はハラグーラ侯爵領へと向かう事が決定したのであった。


 街道に乗っても片道十日、西への道程である。


「次がハラグーラ侯爵領って……!」


 タウロはルワン王国側の用意した移動する馬車の中で愚痴を漏らした。


 馬車内にはこの旅で、ようやく一緒に移動が可能になったラグーネとアンクも同乗している。


「本当なら四日後にはこの旅も終わりだったんだよな?」


 アンクが、タウロの愚痴に補足した。


「聖女一行の予定はこの先ぎっしりみたいだし、忙しいハラグーラ侯爵を現地で何日も待たせるわけにはいかないと、王太子殿下側が提案したらしいわ」


 直接、聖女マチルダから聞いたエアリスが、アンクの疑問に答えた。


「サート王国の貴族派閥の最大勢力を率いるハラグーラ侯爵かぁ。興味はあるけどあんまり関わりたくはないよね」


 タウロが率直な感想を漏らす。


「孫も嫌な感じだし、私も早く到着して『祝福の儀』が終わったらみんなと冒険に向かいたいな」


 ラグーネもタウロに賛同する。


「タウロ様が嫌がるなら、ボクも関わりたくないです」


 シオンは当然ながらタウロ大好きであったからラグーネに関係なく賛成であった。


「片道十日。そして到着翌日には、『祝福の儀』を行い、その後、そして数日滞在してから、次に移動で聖女一行とはおさらばね」


 エアリスが、頭の中で日数数えるようにして話をまとめた。


「そうだね。本当ならこれから一旦、王都に戻ってハクの養子縁組成立を祝いたいところだったけど、それはもう無理だろうなぁ」


 タウロは義理の兄弟の晴れの姿を祝えずに残念がった。


「それなら私の『次元回廊』は今、ヴァンダイン侯爵領領都のエアリスの部屋の前に出入り口を作ってあるから、そこから数日でグラウニュート伯爵領までいけるぞ?」


 ラグーネがそう教えてくれた。


「そうだった。それならグラウニュート領まで近くていいね。ハラグーラ侯爵領までは遠いけど、戻るのが近いのはいいよ。──ありがとうラグーネ!」


 タウロはラグーネの能力に改めて感謝するのであった。


「あ、でも、王都にも一度、顔を出さないといけないんじゃないの?」


 エアリスが何か思い出した様に、タウロに聞いた。


「え?王都に?王子には手紙を定期的に出しているし、特に行く用事はないよ?」


「やっぱり忘れてる。ムーサイ子爵が言ってたでしょう?タウロの叙爵を推薦するって」


「リーダー、そうなのか!?──痛っ!」


 アンクが驚いて席を立ちそうになり、馬車の天井に頭をぶつけた。


「ああ、でも、あれ、決定事項ではないんだよね?推薦だし、名誉貴族の称号だし……。でも、そうか……、王都にも一度戻った方がいいかもね?」


 タウロは少し考え込む。


「名誉貴族か。あれは領地もない本当に名誉だけだよな?それでも十分凄いけどな」


 アンクはやはり詳しいらしく納得する素振りを見せた。


「そうなの?それはめでたいじゃないか。それでその名誉貴族は詳しくは何ができるのだ?」


 ラグーネにとってはもっともな疑問だった。


 そこでエアリスが改めて名誉貴族について質問したラグーネと知らなそうなシオンに説明した。


「──なるほど!そんな事までか……!それは今後の冒険活動にかなり役に立ちそうだな!」


 ラグーネが感心した。


「さすがタウロ様です!」


 シオンもエアリスの説明に納得してタウロを褒めた。


「もし、名誉貴族になれたとして、それはみんなで勝ち取った事だからね?僕一人ならあの時、エアリスを守るどころか全滅していたと思うよ。ラグーネとアンク、シオンが外から敵に圧力をかけてくれたから、互角に戦えたんだよ」


「何言ってんだい、リーダー。二人はともかく、あの時の俺は負傷してすぐ退場してたからな。役には立っていないさ。情けないが、敵は相当な強さだった。俺は完全に舐めていたよ。反省こそすれ、褒められるような事はしてないぜ」


 アンクはあの時の事を結構気にしているようだ。


「それを言ったら私も同じだぞ、アンク。あの時、アンクが負傷したのを見て私も正直身が引き締まった。あれが無ければ、私がやられていたかもしれない」


 ラグーネもアンクと同じく少し慢心していた事を告白するのであった。


 シオンはあの時、獅子奮迅の活躍であったが、『狂戦士』を発動していたからあまり記憶が定かではない。


 だから、二人の告白を黙って聞いているのであった。


「二人共、それは僕達も一緒だよ。あれほどの強敵だとは誰も思っていなかった。世の中、それだけ広いって事だよ」


 タウロは二人を励ましつつ、自分にも言い聞かせるのであった。


「もう、みんな深刻に受け止め過ぎよ。私はみんなを信じていたし、それに十分応えてくれたと思うわ。みんな立派よ。──確かに、あれは運もあったかもしれないけど、結果的に私達は生き延びて敵も返り討ちにした。それで十分じゃない?これを糧にまた強くなりましょう」


 エアリスはみんなを鼓舞すると今後を見据えるのであった。


「……そうだね。僕達『黒金の翼』はこれからだよ!」


 タウロもエアリスの励ましに力を得ると改めてみんなを鼓舞した。


「そうですよ!ボクも頑張ります!」


 シオンも励ます。


「……やれやれ。俺はもう、おっさんなんだがな?まぁ、やれるだけやるさ」


 アンクは笑ってタウロとエアリス、シオンの励ましに答える。


「……そうだな!私もこれからもみんなを守れる様に頑張るよ!」


 ラグーネも気を取り直すのであった。



 チーム『黒金の翼』全員の乗る馬車から「おー!」という気合の声が漏れる。


 馬車はそのまま、ハラグーラ侯爵領を目指して、道を進むのであった。

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