第458話 実力差
村の広場での腕自慢は、エアリスの大魔法による轟音で一時中断となった。
さすがにこの音には、関係者が止めに入る事になったのだ。
サート王国側である王太子を責任者とする一同は、明日以降の旅程について食事をしながら会合が行っていたのだが、真っ昼間の雷光と轟音に、飲み物を吹きだす者もいて大いに肝を冷やした。
かくいう王太子本人も、「ひゃっ!」という変な悲鳴を上げて椅子を後ろに倒して転倒した為、周囲の者は見ていない、聞いていないフリをするのが大変であった。
「な、な、な、にゃに事だ!?」
王太子は動揺を隠して部下に聞こうとしたが、失敗した。
しばらくすると近衛騎士の一人が報告に入って来た。
「広場の隅で『聖女』様の取り巻きの一部の者達が腕自慢をしていたところ、一人が大魔法を使用してしまい、騒ぎになったようです!」
「先程のは魔法の音なのか!?わ、分かった。その者達にはあまり周囲を驚かせることが無きよう控えめにせよ、と注意しておけ」
王太子は原因がわかって少し落ち着くと近衛騎士に注意するのであった。
「きっと平民出で今回の取り巻きの一人として同行させている雷系を得意とする女性魔法使いでしょう。その者は私が推薦しました。将来、魔法士団の一翼を担ってくれると思っていましたが、この分なら即戦力かもしれませんな!」
王太子の部下は、推薦した自分をアピールしようと申し出た。
「光と音ばかりの魔法かもしれんが、インパクトだけは強いですな!」
他の部下が素直に認めては面白くないと思ったのか少し茶々を入れて評価した。
「何を!貴様のところが推薦した体術使いはあまりに地味で全く目立っていないではないか!」
失礼な指摘に怒った女性魔法使い推薦者の部下は言い返す。
「ふん!言っておくが、儂が推薦した体術使いはすでに実績を残している。前回の王都で行われたの体術大会若年層の部で圧倒的優勝を飾っておるからな!」
王太子の部下同士が、推薦した者達を自慢して言い合いをしている頃、村の広場の片隅にいるタウロ達は近衛騎士からエアリスに苦情を言っていた。
「やりすぎですよ、エアリス嬢。幸い王太子様のところからの注意は、控えめにせよ、とだけ言われているので大丈夫そうですが……」
「あはは……、ごめんなさい。私もやり過ぎたと反省しているから」
エアリスも全力の最大魔法がここまでの威力になるとは思っていなかったので、注意に来た知っている顔の近衛騎士に謝るのであった。
「今度はボクの番ですよね、タウロ様!」
今度はフードを被って大人しくしていたシオンが、前に出た。
「シオンもやるの?──誰か体術に自信がある人いるかな?」
平民出の取り巻き達は完全にこの場を仕切る事になっているタウロの言葉に目を見合わせる。
そこに、一人手を上げた青年がいた。
「自分、自信がありますよ?」
と、いかにも体力自慢と思われる背の高い筋肉質の青年が前に出た。
「大丈夫?体術系は負傷した時、治癒系ポーションの効き目が悪いから、治癒魔法と併用した治療しないといけないから治るの時間掛かるけど?」
タウロが体術使いの青年が怪我する前提で、質問した。
「これでも、自分、去年の王都の体術大会で優勝経験があるので、どちらかというと、そっちの小さい半獣人族を心配した方がいいですよ?」
体術使いの青年は、挑発による駆け引きだと思ったのか、ぐっと我慢すると、こちらからも挑発するように言い返した。
「大丈夫って事でいいね?──それじゃあ、シオン。『狂戦士』能力は使わないで多少は手加減して上げて」
タウロは体術使いの青年の実力をある程度値踏みして、シオンの方が強いと判断したから加減を促した。
「自分は全力でいきますよ?元々手加減できない質なので」
体術使いの青年はタウロの言葉、再度の挑発と受け止めると、こめかみをピクピクさせながら、我慢しながら答える。
「じゃあ、始めようか。──両者、前へ。──それでは、始め!」
タウロの仕切りで両者は対峙すると、組手が開始された。
体術使いの青年は開始と同時に、驚くほどの俊敏さでシオンに接近するとその顔面に正拳を繰り出した。
シオンは、その正拳に合わせるように左手で捌くと同時に、右の拳を青年の鳩尾に軽く入れる。
「ぐはっ!」
青年はシオンの綺麗な攻防一体の反撃に苦悶の表情を浮かべるが、そこは大会優勝者、ひるまず、今度は左手でシオンのフードの部分を掴んで投げにいこうとした。
シオンはその青年の左手首を左手で掴むと軽く捻る。
すると、青年は捻られた手首に激痛と共に体勢が維持できずに、その場に簡単に膝を突いて転がった。
そこへ、シオンが、右正拳突きを青年の顎に軽く入れる。
すると、青年は脳震盪で失神して白目を剥くのであった。
「勝負あり。──鳩尾へのカウンターで内臓損傷、左手首の重い捻挫、顎にヒビ、というところだね。治癒魔法を使える人、治療を手伝って下さい」
タウロは淡々と怪我の分析をすると、急いで駆け寄る治癒魔法使いの若者と一緒に、治癒ポーションで体術使いの青年の治療にあたるのであった。
「貴族組のメンバーはこんなにも凄いのか……」
「俺、ここのメンバーに入ったの自慢してたけど、自信失った……」
「私もアピールしようと思ってたけど、止めとくわ……」
平民出の取り巻きのメンバーは、同年代のタウロ達との圧倒的な実力差に、大きな衝撃を受けて自信喪失するのであった。
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