第457話 続・腕自慢
タウロはエアリスの煽りとも思える発言に苦笑しつつ、猟師の少年が射た場所からさらに後ろに下がっていく。
「おい、まだ、下がっていくぞ!?」
「さすがにそれ以上の距離は無理では?」
「あんな所から的を射抜くのか……?」
タウロが止まった場所は広場から出て家々が立ち並ぶ脇をすり抜け、タウロ自身が若者達から見えづらい場所まで移動してしまった。
そんな遠く離れた場所から風を引き裂いて白い一筋の弧を描いて的に矢が突き刺さった。
それも、猟師の少年が射た矢のお尻に当たる矢筈部分を射抜いて矢を両断して、的に突き刺さったのだ。
これには、誰もがまぐれかもしれないが、遠くから的を射た事に素直に驚き、感嘆の声が上がった。
そこへ二本目の矢がまたも風を裂く。
またもや猟師の少年が射た二本目の矢の矢筈部分に刺さって矢を両断して的に刺さった。
これには若者達も息を呑んで呆気にとられた。
一本目はまぐれかもしれなかったが、二本目となると別だ。
飛距離もあるから、的に当てるだけでもとんでもないのだが、その精密性、そして、よく見ると的が張ってある木に刺さった矢は深々と突き刺さっており、その威力の程が伺える。
これには近くで若者達の腕自慢を微笑ましく見ていた護衛を務める近衛騎士関係者もギョッとした。
誰もが声を失っているところに、タウロは三本目の矢を放った。
三本目は矢に光を纏わせており、文字通り光の尾を引いて的まで飛んでいく。
この三本目の光の矢は誰もが肉眼で捕らえる事が出来る程目立つもので、先程の二本同様、三本目の矢の矢筈を捕らえたが、その矢は今回は両断されずに消し飛ばして的と木を貫通し、背後の壁に深々と突き刺さるのであった。
「はっ!?」
「え?木に穴が空いてない?」
「嘘だろ……。こんなの見た事ないんだが……?」
見学していた誰しもが、この光景に目を疑い、呆然とした。
そして、次の瞬間、
「「「すげぇー!」」」
と、歓声が上がる。
タウロは何食わぬ顔で、歩いて戻って来た。
内心ではドヤっているのだが、そこはグラウニュート伯爵家の長男として恥ずかしくない様に、「このくらいは当然だよ?」という顔つきで的を確認するのであった。
タウロには『精密』という器用を大幅に上昇させる能力に、『
そして、装備するのはアルテミスの弓という能力を矢に伝える事ができる、底が知れない武器と、ベヒーモス製革鎧というタウロの各種能力を向上させる装備。
さらにしれっと矢を射る際は左手に守護人形製円盾を装備する事で腕力を大幅に上昇させ、その威力を上げているから反則も良いところである。
「ふふふっ。これが冒険者チーム『黒金の翼』を率いるリーダー、タウロの実力よ!」
エアリスはタウロが自慢しない様なので代わりに自慢する事にした。
「さすが、タウロ様です!」
シオンもエアリスに合わせてタウロに拍手を送る。
見物していた関係者からも拍手が起きる。
その大元は冒険者として同行してたアンクとラグーネであったが、周囲の者達はタウロの超絶技巧を見せられた後である。
一気につられる様に盛大な拍手が起きるのであった。
猟師の少年も格の違いを見せられた感じであったが、素直に拍手を送る。
そして、若者達もそれに習って歓声と賛辞を贈るのであった。
その後も若者達の腕自慢大会は続いた。
ちょっと、タウロの実力が凄すぎて、気落ちする者もいたが、アピールのチャンスには変わらない。
実力も伴っている上級貴族家に仕える事ができるかもしれないのだから若者達も必死である。
今度は、先程、光魔法をエアリスにアピールしていた女性が、みんなが見守る中、前に出る。
「私はすでに光魔法は『清潔』の上の『清浄』、攻撃魔法なら希少な中位の『雷撃の矢』を使えます」
と、前口上すると手にしていた杖を天に向けて魔法を詠唱すると、『雷撃の矢』を放った。
雷を帯びた矢が杖から天に放たれ、飛翔して飛んで消えた。
「おお!正しく『雷撃の矢』だ!」
「雷系はただでさえ特殊で貴重なのに、これは凄い!」
「もしかしたら、今回の参加している魔法使いの中で一番の才能では!?」
と、若者達もこの女性魔法使いに賛辞を贈るのだった。
「次は、私の番ね?」
エアリスは全く驚く事なくタウロと同じ様に淡々と前に出る。
そして、タウロから改めて貰った黒壇の魔法杖を天に掲げた。
その先には新たな魔石が付いている。
以前はグリフォンの魔石が付いていたが、タウロに返却後、タウロが魔石を交換していたのだ。
現在、装着されているのは、水色に輝く小さめの魔石。
エアリスはその魔石の価値を知らなかったが、実はこの魔石、竜人族の村のお店、『竜の息武具店』の一番の逸品であった『水竜の魔石』であった。
価格が30白金貨(約3億円)である事から、本人が知ったら卒倒する代物であるが、タウロは何食わぬ顔で購入して交換していたのであった。
その杖をエアリスが掲げて魔法を詠唱して『雷撃驟雨』とつぶやくと、先程の天才女性魔法使いの時とは全く違う大きさの雷が杖から放たれた。
それも大轟音で地上から天に向かって飛んでいく。
あまりの轟音に村人は雷が落ちたと思ったのか家から飛び出してくる者もいた。
そして肝心の若者達は固まっていた。
大轟音にはもちろんだが、『雷撃の矢』をはるかに上回るその威力に圧倒されたのだ。
その時エアリスも一瞬固まっていた。
そして我に返るとタウロを睨みつけ、近づいて行く。
すると小声でタウロに迫った。
「(タウロ……!あなたこの魔石、絶対高いでしょう……!?こんな威力になるのおかしいもの……!)」
エアリス自身も自分の使える現在の最大魔力での威力に驚くのであった。
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