第455話 テイマー

 タウロ達の思いも虚しく、サート王国内を巡る『聖女』一団が王都を出発する日がやって来た。


 フルーエ王子はギリギリまで、サート王国側の責任者である王太子にタウロ達を外す様に願い出ていた様だが、却下された様だ。


 そこでフルーエ王子は、ならばとアンクとラグーネを旅に同行出来るように、一計を案じた。


 まさか王太子側も反対しているフルーエ王子が、二人を追加で旅に参加させるとは思っておらず、警戒していなかった。


 だから、アンクとラグーネは、そのエアリス達の監視役の冒険者として最後尾の一団に参加できたのであった。


 タウロ達はもちろん、『聖女』と近いと問題になり易い為、後列の食料を運ぶ馬車隊と一緒に進む扱いであった。


「(ここまでして同行させるって、王太子殿下もあんまり性格良くないわね)」


 特別製の大きな馬車内でエアリスは、口元を隠してタウロの耳元で囁くように伝えると、ヴァンダイン侯爵家への扱いに対して呆れるのであった。


「(……他の人もいるから、あんまりそういう事言っちゃ駄目だって)」


 タウロもエアリスに小声で声を掛ける。


「(大丈夫よ。声自体は小さい結界で私達以外には聞こえない様にしているから。口元さえ隠せば何を話しているかわからないわ)」


 エアリスは、得意げにまた、口元を隠してタウロに伝えた。


「(いつの間にそんな凄い事出来るようになったの?これも、『真聖女』マリアさんのお陰?)」


 タウロもエアリスに習って口元を隠して話しかける。


「そうよ。今、タウロの顔を中心に両脇のシオンと私だけに小さい結界を張ってみたの、マリアに習った事の応用」


 エアリスは会わないうちに、かなり成長しているのはわかっていたが、タウロの想像以上に魔法の腕も上げている様であった。


 そこへ、


「ねぇ君。君もテイマーだよね?」


 と向かいの席に座る青年が声を掛けてきた。


「え?僕?」


 タウロは言われ慣れていない指摘に戸惑った。


「そう、君だよ。そのベルトの部分にテイムした従魔がいるよね?僕もテイマーだからわかるんだ。何の擬態系の従魔なんだい?僕は、自慢じゃないが狼系を中心に現在四体を召喚できるんだ」


 テイマーの青年は同種の珍しい職業を持つ旅の仲間がいたと嬉しかったのだろう、タウロに好奇心を抱いたようだ。


「僕は、大した事ないよ。テイム自体はこの一体だけだから」


「でも、ここのメンバーに入っているんだ。その一体がとんでもない従魔なんだよね?擬態系だと変幻蜥蜴系かな?それとも、まさか……!?高位の幻霧系の魔物かい!?」


「そのどっちでも違うよ、系統で言ったら僕の従魔は珍しくないから」


 タウロの言う通り、系統で言えば、スライム使いという初歩の初歩であるから、自慢できるものではない。


 だが、スライムエンペラーという種類は、地上での目撃例は多分無い事から、詳しく言うわけにもいかなかった。


 嘘を吐くにしても、擬態する擬態スライムは、地上でも目撃例はあるが、非常に珍しく狂暴である。


 だからテイムに成功した例は地上ではほぼないはずだ。


 そんな貴重なスライムはお金にもなるから、どちらにせよあまり知られたくないところであった。


「安心しなよ。『聖女』様の傍は貴族の子息を中心に取り巻きが完成されているけど、この馬車内は平民ばかりで、能力に優れた人間が集まっているみたいだからね。能力自慢は多いよ」


 テイマーの青年はそのうちの一人が自分だと誇っている様子であった。


「……僕はそもそもテイマーとして参加していないんだ。強いて言ったら、こっちかな?」


 タウロは話を逸らそうと弓矢を引く素振りを見せた。


「ああ!弓矢の方かい。なるほど、テイマーは従魔に戦わせてそれを支援する為に遠距離攻撃や支援魔法などを覚えるのが基本だからね。僕も支援魔法を少し使うよ。それで、どんな従魔だい?」


 テイマーの青年は、話を逸らされず、本題である従魔の種類を相変わらず聞いてきた。


「ちょっとあなた。同じテイマーなら、知らない相手に手の内を晒す事が良くない事だとわかっているでしょう?それに私達は冒険者でもあるから、そういう事には敏感なの」


 エアリスが横やりを入れてしつこいテイマーの青年に注意した。


「確かに僕の紹介もまだだった。僕は、テイマーのマホドだ。今は、主である侯爵の元で護衛を務めている。僕自慢の従魔はスパイクウルフ二体かな。テイマーの君ならよく知っていると思うけど、珍しい種類だしテイム自体がかなり難しいからね。主が他所の国から大金を払って入手してくれて、それをテイムできたのは幸運だったよ!」


 紹介を理由にテイマーの青年マホドの自慢が始まった。


 さらに自慢は続く。


「他にも二体いるけど、こちらは、少し見劣りするんだよな。一体はダークウルフ、もう一体は投石猿。こいつらはセットで戦わせているんだ。ほとんど、スパイクウルフが敵を片付けるんだけど、連携させたらその辺の冒険者なら太刀打ちできないだろうな」


 最後は馬車内の同席している者達にもはっきり聞こえるように言うのであった。


 そして、


「さあ、君の番だよ?」


 と、促してきた。


 タウロは、溜息を吐くと、口を開いた。


「さっきも言ったけど、僕はテイマーではないから自分の従魔を自慢する気はないんだ。でも、この雰囲気だと何か言わないと今後の旅に支障が出そうだから一応紹介しておくよ。僕の名は、タウロ・グラウニュート。伯爵家の長男で、今回、フルーエ第五王子の推薦でメンバーに入れてもらったんだ。得意なのは弓矢。そして、冒険者でもある。両側の二人はその仲間のエアリスとシオンだ。──これでいいかな?マホド君」


「は、伯爵家の!?──し、失礼しました!まさか、こちらの馬車に貴族の令息が乗り合わせているとは思わず……!」


 マホドは貴族に仕えているからこそ、その反応は早く、真っ先に謝罪した。


 周囲の者も、驚いて頭を下げる。


「いや、そこまで頭を下げる必要は無いから!長男ではあるけど、爵位は弟が継ぐから貴族とは名ばかりだよ。だから、みんな仲良くしてくれると助かるかな」


 タウロは、思った以上の周囲の反応に慌てて答えるのであった。

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