第453話 噂の真相

 タウロが王子との面会で『聖女』マチルダと遭遇して少し揉めた翌日から、『聖女』を取り巻くルワン王国、サート王国両陣営で変な噂が囁かれ始めた。


 それは、『聖女』マチルダとフルーエ王子との恋仲についてであった。


 さらにサート王国側では、エアリスとフルーエ王子との婚約話があった事などと合わせて噂が広がった。


「フルーエ王子殿下とヴァンダイン侯爵令嬢の婚約の噂は王宮から流れて来てはいたが、『聖女』様が加わって三角関係……か」


「私はそれが原因でフルーエ王子とヴァンダイン侯爵令嬢の婚約話が流れたと、聞いたわよ?」


「おいおい、『聖女』様の噂はここ数日の話だろう?それで王子とヴァンダイン侯爵令嬢の婚約話が流れるのは早すぎるだろう」


「いや、王子が『聖女』様を選んですぐ昨日今日で、解消した可能性は否定できないぞ?」


「どちらにせよ。『聖女』様が、フルーエ王子にご執心なのは事実らしい。ルワン王国側の取り巻きから直接話を聞いたからな」


「そうなると、ヴァンダイン侯爵令嬢は心中穏やかではないだろうな……」


 などと、『聖女』とエアリスがフルーエ王子を取り合っているかのようなものであった。



「……何その噂?」


 耳が良いシオンが聞きつけてきた三角関係の噂話を、エアリスが知ると戸惑った。


「……あ。もしかしたらそれ──」


 タウロは、数日前にフルーエ王子の元で『聖女』マチルダに出会った時の事を話した。


「……それで、『聖女』とフルーエ王子、私が三角関係になっているのね?」


 エアリスはタウロの説明を受けて溜息を吐いた。


「道理でマチルダに挨拶しても無視されるわけね。──そうだわ、タウロ。もしかして私達、これで『聖女』の取り巻きを辞められるんじゃない?」


 エアリスはチャンスとばかりに提案した。


「……確かに。でも、今言うとハクまで巻き込んじゃうから、王都での活動が終了してからでいいんじゃないかな?」


 タウロが、残り数日で地方を回る事になる『聖女』の活動を考慮して指摘した。


「……そうね。ハク君は、他の貴族や優秀な人材の多いこの世代の子達と仲良くしておくに越した事ないものね」


 エアリスもタウロの指摘に納得した。


 タウロも実際この数日は、積極的に動いて周囲の若者達にハクと共に挨拶して回り親しくなった者もいたから、実感の籠ったものだったのだ。


「あとは、その変な噂の中心にいるエアリスの事を間違いだと否定しておかないといけないわけだけど……」


 タウロがそこで、困った顔をする。


「兄上、それなら噂には噂で対抗しましょう」


 ハクが、そう提案してきた。


「噂で?」


「はい。ここでエアリス嬢が否定すると同時に、俺達でそれが誤りである事を仲良くなった関係者に直接話して行けばいいんですよ」


「ハクの言う事もわかるけど、そんなに上手くいくかな?」


 タウロが疑問を呈した。


「やってみましょう、タウロ様!ボクも頑張って広めてみます!」


「……エアリスはどう?」


 シオンに押される形で、タウロはエアリスに確認した。


「私はどちらでもいいわ、だって当人だもの。正直に話しても嘘だと思われたら一緒だし……」


 エアリスはこの手の事はすでに貴族の令嬢として経験済みなのだろう。


 不毛な事だと思っている様だ。


「やれるだけやってみようか」


 こうして、タウロとハク、シオンはこの数日間で培った人脈を基に三角関係否定する噂を流す事にするのであった。



「……噂聞いたか?」


「三角関係のやつなら、もう、みんな知っているぜ?」


「違うよ。フルーエ王子とエアリス嬢は婚約自体していないって話さ」


「どういうことだ?」


「何でも、元々フルーエ王子とエアリス嬢はそういう関係ではないから、婚約自体なかったらしい。つまり、三角関係ではなく『聖女』とフルーエ王子の問題らしいぞ。王子はそれも否定しているらしいが」


「それは当人達はそう答えるだろう。だが、三角関係や、フルーエ王子とエアリス嬢の関係はルワン王国側からも流れてきている話だぜ?」


「ルワン王国側からも?」


「つまり、どっちが嘘かわからないが、否定する方が怪しいと思わないか?」


「そうなると、フルーエ王子とエアリス嬢の関係は本当って事か?」


「だからこそ、そこに『聖女』様が、加わって揉めているって事だろう」


「嘘ではないですよ?」


 取り巻き達の噂に介入する様にタウロが話に割って入って来た。


「わ!──グラウニュート伯爵のご子息タウロ殿でしたか?」


 噂をしていた者達は急に会話に入って来たタウロに驚くと名前を思い出して確認した。


「エアリス嬢はフルーエ王子とは友人関係なので、誰かそれを誤解した事から生まれたデマですよ。僕もその友人の一人なので二人の間に何も無い事を誓えますよ」


 タウロはそう答えると、マジック収納から王家の紋章の入った小剣を取り出して見せると続けた。


「これが、フルーエ王子との友人の証である贈り物です」


「お、王家の紋章……!」


「これが、一番の証拠です。──フルーエ王子の友人の一人として今回の噂には心を痛めています。『聖女』様側の一部の関係者が誤解しているようですが、今言った事が真実なので、あまりデマを信じないで下さいね?」


 タウロは念を押す。


「わ、わかりました、タウロ殿!王子殿下には『私達は信じていますよ』と、お伝え下さい!」


 噂話をしていた者達は、ここぞばかりにアピールする。


 相手は王家の紋章を授かっているのだ、ただの貴族の子息ではないから当然の行動である。


「わかりました。王子殿下も噂話にはうんざりしていたご様子なので、その言葉は喜ぶと思いますよ」


 タウロは笑顔で答えると、その場を後にするのであった。


「タウロ様、これならみんな信じますね!」


 後から付いてくるシオンがタウロに声を掛けた。


「こんな使い方はしたくないのだけど、今回は王子殿下の名誉にも関わるからね」


 タウロは苦笑いすると、シオンに他で噂をしている集団を見つけてもらって、また、突撃するのであった。

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