第444話 問題がある出会い

 王宮で友人との親交を深めたタウロは、日も落ちてきたので王宮を後にする事にした。


 王宮内の兵士の案内で城門まで先導されていたタウロの前に高価そうなフードを被った(シルエット的には女性だろうか?)人物が、タウロに声を掛けてきた。


「ちょっと、待った?置いて行かないでよ!」


 その声色からして女性とわかったが、聞き覚えがない相手だった。


「?」


 タウロは誰だろうかと、日も落ちた暗がりを自らが開発した魔道具『ランタン』の改造版である照明が周囲を明るく照らしているものの、陰影が強く顔が見えない。


「あら?あんた誰よ?──まあ、いいわ。とっとと行くわよ」


 タウロの腕を掴むと王宮の方を気にしながら城門の方へ引っ張っていく。


 先導していた兵士もタウロも「?」という感じであったが、城門に立っている門番も出て行く者を無闇に止めたりはしない。


 それに相手は王家の紋章入りの小剣を提示していたタウロである。


 その同行者であるから、兵士も門番もタウロに一礼すると見送るのであった。


「あの……。君は誰?」


「はぁ?あなた、それでよくアタシの取り巻きの一人になれたわね!──まぁ、いいわ。早く夜の王都を案内しなさいな」


 その女性は、よく顔を覗き込むと中々綺麗であった。


 歳はエアリスと同じくらいだろうか?


 エアリスと比べると容姿もスタイルも劣るだろうが、化粧を施し大人の女性を演じる事で自分を美しく見せる努力は感じる。


 それにしてもこの既視感はなんだろう?


 タウロは頭に「?」マークを浮かべながら答えた。


「先程からどうやら誰かと間違えているようですが、僕はあなたの取り巻き?とやらではないですよ」


 と、タウロは答えながら、内心で「あっ!」となった。


 もしかしてこの人……、王子殿下が言っていた『聖女』様という人?


 まさかの『聖女?』を王宮の外に連れ出した事に気づいたタウロであった。


「はぁ?城門前で待ってなさい、って言ったでしょ!?」


 『聖女?』はまだ、自分が待ち合わせをした人物の関係者だと思っている様だ。


「もしかして、別の城門ではないですか?あの城門は、位が低い者が通る事が多いところです。あなたの待ち合わせの人物はそれとは逆の城門にいるのではないかと」


 タウロは勘違いされていた事に溜息を吐きながら丁寧に答えた。


「!?……仕方ないわね。あなたがアタシを案内しなさいな。名誉な事なのだから喜びなさい」


 『聖女?』は偉そうにタウロに命令した。


 絶対この人、『聖女』だ!……これは厄介な事になるぞ……。王宮に戻って貰うしかない。


 タウロはそう考えると唯々諾々と従う素振りを見せながら、位の高い人達が通る城門の方にこの『聖女』を誘導した。


「……ちょっとあなた。私を王宮に戻そうとしてるわよね?」


『聖女』は、勘が鋭いのか歩みを止めると、タウロの背中に向かって声を掛けた。


 くっ、バレた。……勘がいい子は嫌いだよ!


 タウロはどこかで聞いた事がある台詞を内心で口にするのであったが、実際に口を開くと別の事を告げた。


「あなたが誰かは存じ上げませんが、高貴な方のご様子。僕の様な下々の人間が道案内をするなど恐れ多い事です。一度、王宮に戻り、待ち合わせをしている方と改めてお出かけする事をご提案します」


 タウロはそれっぽい事を言って城門に向かってまた、歩き出そうとした。


「今、戻ると二度と外出できないわよ!せっかく他所の国に来たのにパーティーばかりで私は嫌なの!私が誰だかわかっているのなら、黙って道案内しなさいよ!」


 だ・か・ら、それが嫌なの!


 タウロは、おそらく現在、国内で一番の重要人物である『聖女』と、必要以上に関わりたくなかった。


 義理の弟であるハクに同世代の交流関係を作らせる為にフルーエ王子の提案飲んだ身であったからなおさらである。


「敢えて名前はお聞きしません。僕がもし、怪しい人物であったらこれ以上は危険な事です。大人しく王宮にお戻り下さい」


 タウロも譲る気はない。


 これ以上、『聖女』といて問題を起こしたくないだから、当然だろう。


 それは、グラウニュート家への迷惑にもなりかねないからだ。


「あなた、何もわかってないわね。アタシはあなたの言う通り高貴な人間よ。それもあなたの想像以上にね!アタシはお忍びで出かけているの、わかる?まぁ、下々の人間にはわからないか……。この『聖女』様の気持ちなんて上流階級の一部の人間にしかわからないかもね」


 『聖女』は自分でその正体を明かしてしまった。


 言わないでよ!何の為に名前は聞かないと言ったと思うのさ!万が一の時に、知らぬ存ぜぬが言えるようにだよ!


 タウロは内心で悲鳴を上げていた。


 このままだと、どんどん巻き込まれて行く気がする。


 それに、フルーエ王子の言う通りなら数日後にはこの『聖女』の取り巻きとして王都滞在の間は一緒に同行する事になるはず。


 これ以上は、顔を覚えられると気まずい思いしかしないだろう。


 どうやってでも、城門の門番に引き渡したい。


 だが、その思いにも気づいたのか、『聖女』は城門から離れる様に歩き始めた。


 門番を声を掛けるには距離が遠い。


 それに呼んでいる間に『聖女』を見失ってしまったら、『聖女』である事を知ってしまった今、大問題になる。


 タウロは『聖女』を追いかけるしかないのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る