第445話 対応に困る
タウロは『聖女』に追いつくと呼び止めようと試みた。
「すみませんが、これからどうするのですか?」
もっともな質問だ。
これで確実に止まるはず。
「だから観光よ。この国は私のいたルワン王国より大きい国なのでしょう?あちらにはないものもいっぱいあると聞いたわ。それを見たくて王様のお願いを聞いてこの国に来たのだもの」
『聖女』は全く止まる事なくどんどんと歩いて王宮から離れていく。
タウロは止めるのには失敗したが、貴重な情報を知る事が出来た。
どうやらこの『聖女』は、ルワン王国の思惑とは関係のないところで動いている様だ。
いや、利用されているのはわかっているのかもしれないが、『聖女』としての自分の価値を最大限利用している可能性は強い。
「あなたが『聖女』とわかったからには、不本意ですがあなたの安全を確保しないと僕の首が飛びます。仲間のところにまずは寄って貰えませんか?」
タウロはこれ以上、危ない橋を渡れない。
『聖女』に何かあれば、国家間の問題に発展するからだ。
何かと理由をつけて『聖女』を保護する為にも理由を考え出すのであった。
「仲間?あなた、何者なの。まずは、名前を名乗りなさいな」
『聖女』は、終始偉そうである。
タウロは、ここで名乗って覚えられると厄介だと思ったがここまで来たら、もう逃げられないかもしれない。
どうせ数日後には王子からの推薦で『聖女』の取り巻きになるだろう。
腹を括るしかないのであった。
「……タウロです。タウロ・グラウニュート。(今日で)14歳です」
「14歳?歳の割にはしっかりしているじゃない。──最初から名乗らなかった無礼は見逃して上げるわ。アタシはルワン王国が誇る『聖女』マチルダよ!明日にはこの国の宰相に人物鑑定してもらって、世界で一番の有名人になるわ。今の内にアタシに気に入られておいた方が、いいわよ」
『聖女』マチルダは、やはり自分の価値を理解している様だ。
きっと、その能力も凄いのかもしれない。
だが、行動が軽率過ぎるのは、頂けない。
「それでマチルダさん。仲間と合流させてもらっていいですか?」
「……あなた、仲間ってどんな連中なの?アタシを誘拐するつもりじゃないでしょうね?」
「その可能性を防ぐ為に、仲間と合流したいのです。僕は冒険者をしているので仲間は同じ冒険者です」
「……わかったわ。その仲間のところに連れて行きなさい。でも、いい?悪さをしようとしたら『聖女』であるアタシの神の雷が落ちるわよ!」
マチルダは腰に差してあった小さい魔法棒をかざして威嚇するのであった。
「そうならないように、お願いしています」
タウロは理解を得て、王都のグラウニュート邸に『聖女』を連れて戻るのであった。
「ちょっとあなた、何者なの?冒険者だと名乗りながら、こんな大きな屋敷に住んでいるなんて」
『聖女』マチルダはタウロが当然の様に屋敷に入ろうとするので立ち止まった。
「ここが一応、王都での自宅なので」
タウロは詳しく答えず、中に案内する。
「タウロ様、お帰りなさい!──そちらの方は誰ですか?」
シオンが、タウロの帰りを待っていたのか、出迎えてくれた。
「えっと、こちらはちょっとした知り合いで、偉い人?かな。ラグーネとアンクはいる?」
「?──はい、みなさん帰って来てますよ」
答えるとシオンが、走って二人を呼びに行った。
「……あなた、貴族よね?」
「厳密には貴族の子息の一人です」
「まぁ、その身なりで王宮に出入りしているなら当然ね。さっきの子は?」
「彼女は僕の仲間の一人です。あ、来ましたよ」
タウロとマチルダが話していると、シオンがラグーネとアンクを連れて戻って来た。
「リーダー何かあったのか?うん?そっちの女性は誰だ?」
アンクが、マチルダに気づいて聞いてきた。
「こちらは、今、世間で話題になっている『聖女』のマチルダさんだよ」
「そうか、『聖女』か。まぁ、見る限りまだ卵程度みたいだが、これから修行すれば成長できるはずだぞ」
ラグーネは、全く驚く事なく答える。
「『聖女』ねぇ。エアリスのところのを見てるからパッとしないな」
アンクも同様の反応だ。
「みなさん、あちらと比べたら可哀想ですよ」
シオンが、庇うが、あまりフォローにはなっていない。
『聖女』マチルダは、世間を騒がせている自分に全く驚かない面々に、呆然とした。
初めての反応なのだ。
「あ、あんた達。私はこれから世界一の有名人になる『聖女』なのよ?その意味わかってる!?」
「「そうなのか?」」
ラグーネとアンクがタウロに聞き返す。
シオンもまるでピンとこない様子だ。
「まぁ、世間ではそんな感じだから。それよりラグーネ。エアリスにも会わせておきたいから、あっちに呼びにいけない?」
「エアリスにか?──了解した。では別室に行こう」
ラグーネはマチルダの前では、『次元回廊』を開くのは不味いと思ったのだろう、場所を移動する提案をした。
「じゃあ、マチルダ様。少々お待ち下さい」
「え?アタシを置いてどこに行く気?」
「もう一人の仲間を呼んでくるだけなので、少々お待ち下さい」
タウロは重ねて確認すると、ラグーネと他の部屋に移動する。
「マチルダさんは強いのですか?」
シオンが場を繋ごうと思ったのか、それとも純粋に確認したいのかマチルダに質問した。
「強い?アタシは、『聖女』よ?強いとかそういうレベルの人間じゃないわ。アタシの『祝福』を求めて世界の偉い人達が膝を屈する存在なのよ」
マチルダはそういうと鼻高々に言い放つ。
「……なるほど、タウロがエアリスを呼びに行ったのは、対応に困ったからか」
アンクは、この手の相手をするには、侯爵令嬢であるエアリスに任せるのが一番だとタウロが判断した事をようやく理解するのであった。
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