第443話 再会と頼みごと
ガーフィッシュ商会での面会後、タウロは何人かの貴族との面会を済ませた。
大体はお礼とお詫びである。
貴族達は誰もがグラウニュート伯爵の嫡男になると思って祝福したというのが本音だろうと思ったのだ。
まさかお披露目会当日に、他に血統的にも正しい跡取りを養子にしますよ、と発表されるとは誰も思っていなかったから、タウロを祝福したのは誤算だった者は多いはずだ。
だからこそ、タウロはお詫びも兼ねてのあいさつ回りであった。
その中でタウロが嫡男ではなくなった事を残念がったのがダレーダー伯爵であった。
「タウロ殿が嫡男で無くなるのは非常に残念ですな」
と、正直に悲しんだ貴族も珍しかった。
ダレーダー伯爵はタウロを命の恩人として、ダレーダーの紋章の入った札を渡す程感謝していた人物であるから、本当にそう思っていた。
「ありがとうございます。僕は爵位を継ぎませんが、義理の弟であるハクが継ぐ予定ですので、よろしくお願いします」
タウロは笑顔でその言葉に謝意を伝えると、ハクをお願いするのであった。
「タウロ殿が、そうおっしゃるならば、もちろんですよ。そうなるとタウロ殿はこれからどうなされるのですか?我が領内のダンサスの村に戻って来られるなら大歓迎ですが」
ダレーダー伯爵よほど、タウロを気に入っている様子だ。
「あははっ。僕も冒険者の端くれですので、各地を回ってみたいと思っています。もし、機会があれば立ち寄る事はあるかもしれません」
「そうですか……、それは残念です。──そうだ、もし良ければ、今晩のパーティーに招待したいのですが!そのパーティーには同盟国であるルワン王国の『聖女』も訪れる予定ですよ?」
ダレーダー伯爵が今話題の『聖女』を口にした。
王都ではやはりこの話題で持ち切りだ。
多分そのパーティーは宰相派閥が催すものだろう。
そこでなら宰相閣下にお礼も兼ねて挨拶ができるかも?
タウロは、そう思ったが、父グラウニュート伯爵もどこからか誘いがあるかもしれない。
その状況で自分はダレーダー伯爵に同行するのは角が立つかもしれない。
少し考えたタウロは、丁寧に断るとダレーダー伯爵の屋敷を後にするのであった。
「おお。リーダー戻ったか。リーダーに伝言が届いてるぜ」
王都内のグラウニュート伯爵邸に戻って自室に戻る途中、タウロに気づいたアンクが声を掛けてきた。
「伝言?」
「ああ、フルーエ第五王子の使いから、すぐに王宮に来て欲しいとか言ってたな」
「え?この忙しそうな時に王子殿下から?」
「詳しくはわからないけどさ。そうらしいぜ」
「そっか。わかったよ。じゃあ、また、出かけてくる」
タウロは日が沈む前に会えるなら会っておこうと王宮へと急ぐのであった。
王宮に到着して、城門で兵士に王家の紋章の入った短剣を示す。
兵士は貴族の子息らしい服装のタウロが示す王家の紋章に驚くのだったが、面会予定者に入っている事に確認が取れると急いで中に通すのであった。
「よく来てくれた。久しぶりだな」
フルーエ王子は思ったより早くタウロに会えた事に喜んでいた。
「殿下には再び贈り物を頂き、ありがとうございました」
「よいのだ。それにしても聞いたぞ。嫡男として養子に入ったはずなのに、お披露目会ではその座を突然現れた者に譲ったというではないか」
フルーエ王子は不服そうな表情である。
「実は色々と事情がありまして──」
タウロは領内が二分される可能性があった事、義理の弟のハクが先代の血を引いている事など正統性の元に行われたものだという事などを伝えた。
「……そうか。そういう事情があったのか……。だが、タウロ。其方、すっきりした顔をしているぞ」
フルーエ王子は笑って指摘した。
そして続ける。
「私の友人はやはり冒険者なのだな。自由に生きる事の方が余程向いているらしい」
「そうですね。僕もそう思います」
タウロは友人の指摘に苦笑するのであったが、ふと王子の用件が気になった。
「殿下、僕に何か用事があったのでは?」
「本当はタウロに頼みたい事があったのだが……、止めておこう。いたずらに目立つだけだろうしな」
フルーエ王子は、そう言うと口を噤んだ。
「水臭いですよ殿下。僕は殿下から色々と貰ってばかりですから、頼みの一つや二つ、僕に出来る事なら承りますよ」
タウロはフルーエ王子が無理なお願いをするとは思えなかったので、申し出た。
「そうか?……実はな。王都にいる間、『聖女』の相手をして欲しいのだ。ルワン王国側は同年代の貴族や優秀な人材と『聖女』を親しくさせておきたいらしくてな。僕としては、これを機にタウロには同年代との人脈を作らせておこうと思ったのだが、それも必要なさそうだから、無理にとは言わないぞ。ついでに護衛も兼ねて一石二鳥だと思ったのだが……」
フルーエ王子は最後、言葉を濁した。
思ったよりとんでもない頼み事だった!
タウロはフルーエ王子のお願いにちょっと返答を躊躇った。
『聖女』の相手は、想像以上に大変そうな気がする。
同年代の貴族の子息達とは確かに繋がりもないが、嫡男の立場ではなくなった自分には確かに不要な事である。
だが、そこにハクを入れて貰えるなら話は別だ。
ハクにはこれから横の繋がりも必要だし、それは今後大きな財産にもなる。
「その『聖女』様は、おいくつなのですか?」
同年代という事はまだ、子供なのだろうか?
「実は、成人を迎えたばかりの16歳だ。先日、会ってみたが中々、ワガママな感じでな。僕をベタベタ触って来るから少し嫌だった」
フルーエ王子は溜息を吐いた。
王子は一時期ぽっちゃりしていたが、今は、痩せてすっきりした印象である。
それにハイエルフと人間のハーフだけあって容姿がとても良いから、『聖女』には、王子がタイプだったのかもしれない。
「あはは……。それは、大変でしたね。──そうですね。僕とハク、エアリスとシオンを入れる事は可能でしょうか?」
「シオンとは、『黒金の翼』の新メンバーだったな!わかった。僕が『聖女』の取り巻きにねじ込んでおこう!──うん?エアリス嬢もか?わかった!」
フルーエ王子はエアリスも復活したと解釈して嬉しそうに答える。
「……もしかして殿下。本当は自分がそのメンバーに入るのを嫌がって僕を推薦したわけじゃないですよね?」
「な、何を言うのだ友よ!僕は僕で忙しいから代わりになる、頼れる人物を探していただけだぞ?」
フルーエ王子の動揺する姿に、はめられたとも思うタウロであったが、友人の頼みである、引き受ける事にしたのであった。
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