第442話 商人と久しぶりの再会

 タウロはハクの養子縁組の手続きの間にお披露目会の時のプレゼントの感謝をするべく、各方面に面会予約をとって、回る事にした。


 王都では同盟国であるルワン王国からやってきた外交使節団の聖女についての話でもちきりで、お礼を言うべき相手も外交使節団の歓迎パーティーが連日行われ、それに参加する準備の為に忙しくしている者が多かったので、面会予約も取りにくい状態であった。


 そんな忙しい代表格がフルーエ王子や、宰相であったからこの二人に関してタウロは、落ち着いてから面会予約を申し込もうと控える事にした。


「なるほど、では私が意外に最初でしたか!わははっ!」


 豪快な笑いでタウロと面会しているのは、マーダイ・ガーフィッシュ。


 ガーフィッシュ商会の会長であった。


 タウロとはこれまでも色々とお互いにウインウインの関係ではあるが、タウロが思っている以上にマーダイ・ガーフィッシュは、タウロに対して恩を感じている。


 なにしろ今やガーフィッシュ商会は王国全土に展開する勢いで大きくなっている。


 タウロが開発した魔道具ランタンや、雨具などが王都のみならず、全土に広がりつつあったのだ。


「お久し振りです。ガーフィッシュさん。他の街で売り上げの一部を少し下ろさせて貰いましたが、凄い額でした」


 タウロが、グラウニュート領のカクザートの街での一件を伝えた。


「報告は聞いてますよ。タウロ殿はマジック収納持ちですから、沢山のお金も邪魔にならずに収納できますからね、そういう問題もおきますな。よければ前もってお知らせして貰えると支店の者も助かります」


 ガーフィッシュは、相変わらずの豪胆さでタウロに物怖じせず言う。


 タウロは今や、王都全土に名が知られる『ジーロ・シュガー』その人である。


 リバーシの特別盤を彫る芸術家、そして、稀代の発明家として有名になっているのだ。


 幸いタウロは、自分が『ジーロ・シュガー』だと宣言していないから、この目の前のガーフィッシュ以外はほとんど知る者がいなかった。


 他は、ジーロ・シュガーという人物を実在させる事に協力した宰相や、友人であるフルーエ王子などくらいだろう。


「今日は、お披露目会での贈り物にお礼を言いに、参りました。ありがとうございました。『変化蜥蜴製革マント』はどこで入手されたのですか?製作者は僕の知り合いでもありまして、一般的には知られてない方なので、入手も難しいと思うのですが……」


「お?製作者を知っておられるのですが!?あの贈らせて貰ったマントは、偶然入手する事が出来た代物なのですよ。最近、暗殺ギルドの首領捕縛の報が王都を駆け巡りましてな。その時、護送の警備で任を果たした謎の冒険者の一団が持っていたのを譲って貰ったのですよ」


 ガーフィッシュの言葉にすぐピンときた。


 あ、竜人族のみなさんだ!……なるほど、装備していたものを譲って貰ったからガーフィッシュさんの手許にあったのか。


 タウロは理解すると頷いた。


「なるほど、そういう事でしたか。ガーフィッシュさんが、遠い北部地方にまで商売の範囲を広げたのかと思いました」


「製作者の方は北部地方の人物という事ですか。うちはあっちはまだ、大きな街にしか支店を置いてませんからな。タウロ殿に教えて貰えたらその製作者のいる街にも支店を出してみたいのですが?」


 ガーフィッシュは目利きであるからマントの出来をかなり評価していたのだろう。


 それはつまりお金の匂いがするという事だから、商人として知りたいのも当然であった。


「支店をそこに出すのは、中々大変だと思います。なにしろ人の身で辿り着くのは難しいらしいので」


 タウロが苦笑すると答えた。


「まさか……、前人未到域の場所と言えば、国内のどこかにあると言われている、竜人族の村の事ですか?──確かにそれならうちの者では辿り着くのは難しいかもしれないですな。わははっ!」


 そこにどうやってタウロが行けたのかまではガーフィッシュも聞かない。


「そういう事です。実際のところ僕達も自分達の足で辿り着くのは中々難しいと思います」


 タウロも笑って本音を答えるのであった。


「そう言えば、今話題の聖女についてはご存じですかな?」


 ガーフィッシュは商人である、何か情報を持っていそうだ。


「いえ、僕達も王都には来たばかりなので詳しい事は……。何か商売になりそうな情報でも掴んだんですか?」


「まぁ、いくつか掴んではいるんですが、ルワン王国は聖女の『祝福』を使って各国と外交しようとしているみたいです」


「『祝福』?」


「ええ。『祝福』とは、聖女のみが使える能力でして。土地でその『祝福』を使用する事によって、数年は豊穣が約束されるそうです。国や地域によっては不作で飢饉になりかけているところもありますから土地を豊かにしてくれるこの能力は喉から手が出るほど欲しいところ。まぁ、あくまでも伝説や言い伝えのレベルではありますけどね。それに聖女を前面に押し出して宗教まがいの事もやろうとする動きもあるみたいです。ルワン王国は聖女を使った大きな商いをするつもりですな」


 ガーフィッシュの言う通りなら、『祝福』を受けた土地の者といち早く契約できれば数年は豊作に恵まれるだろうから安定した収入が約束される事になる。


 商人としては確かに興味深いところだろう。


 タウロの後ろで、ラグーネが何か言いたそうにしていたが、我慢している。


 シオンは目を輝かせて聖女の逸話を聞いている。


 アンクは、興味がなさそうだ。


「それが事実なら、ルワン王国に対する待遇はどこもよくなりますね」


「ええ。今、この国に駐在している各国の大使が目の色を変えてルワン王国と我が国の宰相閣下の鑑定結果を待っているところです」


「それで、鑑定はいつ?」


「近々行われるとか。──ルワン王国も独自に鑑定して確認しているはずでしょうから、お墨付きを貰って大々的に世間に公表する形でしょうな」


「そうなると、フルーエ王子や、宰相閣下には忙しくて会えないですよね?」


 タウロはガーフィッシュの話を聞いて、いよいよ会える機会がなさそうだと思うのであった。


「フルーエ王子なら、タウロ殿に会いたがってましたよ?数日前にもルワン王国の外交団の出迎えの準備の一部をうちも手伝ったのですが偶然会いまして、その時に『タウロが王都に来た時はすぐに報告してくれ』と、仰っていましたから」


 そうなの?


 意外に時間を作ってくれそうだと、安堵するタウロであった。

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