第441話 お礼も兼ねて

 ヴァンダイン侯爵とエアリスはタウロとラグーネの能力で侯爵領に送り届ける事になった。


 エアリスも侯爵領でやり残した事や旅の準備をしたいというからだ。


 タウロ自身もグラウニュート領でやる事はいっぱいある。


 ハクに嫡男として全てを任せるにしても、義理の兄としての義務もある。


 まずは、ハクを正式に養子として迎える手続きも必要だったし、グラウニュート家の子息として最低限の知識も求められた。


 タウロは嫡男ではなくなったとはいえ、立派な伯爵家の子供の一人であるからだ。


 そして、タウロが提案した領内の農業に関する改革についても、提案者のタウロが会議に出席しなければいけない事も度々あった。


 数日後、そんな忙しい日々の合間を縫って、いよいよグラウニュート伯爵がハクを連れて王都に向かう事になった。


 タウロの時と同様、貴族の養子になる為の手続きをする為である。


 ここで、タウロも同行する事になった。


 本来なら、タウロは必要のない事だが、王都には当然ながらフルーエ王子がいる。


 贈り物のお礼も言いたいと思っていたので、久し振りに王都に行こうと思ったのである。


 ラグーネとアンク、シオンも賛成してくれた。


 ヴァンダイン侯爵領にいるエアリスはラグーネの『次元回廊』でいつでも呼びに行けるので、到着後に呼ぶ手筈にしておいた。


 こうして、タウロ達『黒金の翼』一行は、父グラウニュート伯爵とハクと共に、王都へとまた向かうのであった。



「兄上、王都はどんなところなんでしょうか?」


 馬車に揺られながら、一緒に乗車しているハクが、タウロに質問してきた。


「領都も大きくて立派なところだけど、王都はそれよりも大きい。そして何より、人が圧倒的に多いよ」


 タウロは初めて王都を目にした時を思い出しながら説明した。


「大きいですか……。俺は村で育ちましたから、領都に来た時も驚きました。それよりも大きいのは想像できないです」


「はっはっはっ!私も子供の頃、王都へ来た時は圧倒されたものだ。自分の領都が一番素晴らしいと思っていたからな。誰しも王都を初めて見る時は驚くぞ」


 グラウニュート伯爵はハクの驚く姿が楽しみなようであった。


 タウロも初めて見た時は呆気に取られて城壁を下から眺めていたから、父グラウニュート伯爵の気持ちがよくわかる。


 ハクはどういうリアクションするのかタウロも楽しみであった。



 領都を出てから数日。


 王都を目前に一つ前の街で宿泊する事になった。


 そこで、王都から来たらしい商人同士の話が耳に入って来た。


「──同盟国であるルワン王国からの訪問?」


「なんでも訪問団にはあの『聖女』が同行しているらしいぞ……!」


「待て。それは、本当か?『聖女』なんて、ここ百年くらい現れていないはずだが?」


「それが、ルワン王国に現れたらしいから、この国の宰相閣下様に詳しい鑑定を依頼しにやって来たのだとよ」


「それが本当なら、ルワン王国の株はグンと上がるな……」


「だろ?儲けの匂いがプンプンしやがる」


 その噂話を聞いて、タウロは少し興味を持った。


 だが、そうなるとフルーエ王子も忙しいかもしれない。


 今回は面会できないかもしれないと、残念に思うタウロであった。


 街で一夜を過ごした一行は、王都に到着した。


 父グラウニュート伯爵が気を利かせて城門前に馬車を止めさせて、ハクにその王都の姿を確認させてやった。


 ハクは、横には遠くまで続き、頭上には途轍もなく高い城壁と城門に口をあんぐりと空けて呆気に取られていた。


 自分が初めて王都に来た時と同じリアクションにタウロは、くすっと笑う。


「あ、兄上!笑わないで下さい!でも、領都も十分立派だと思いますよ?」


 ハクはタウロに笑われて恥ずかしそうにすると、答えるのであった。


「そうだね。領都も十分立派だし、素晴らしいところだよ。ハクはこの王都滞在中に良いところを学んでおくといいかもね」


「はい!」


 ハクは尊敬する義兄タウロの言葉に素直に頷くのであった。


 グラウニュート伯爵はそんな二人を見て笑顔が漏れる。


 立派な息子が二人も出来た事を改めて嬉しく思ったのだ。


「それでは手続きも終わったし、王都入りするか」


 父グラウニュート伯爵が言うと、一行は馬車にまた乗り込むのであった。



 王都入りした一行はグラウニュート伯爵屋敷に直行したのだが、その道中、王都内は『聖女』来訪に盛り上がっていた。


「簡単な似顔絵が各所で売られてるなぁ」


 タウロが馬車内から外を眺めて気になった事を口にした。


「そうだな。百年以上ぶりの『聖女』降臨だから騒ぐのも仕方が無いかもしれない」


 グラウニュート伯爵も、王都の騒ぎ様に理解を示した。


「『聖女』が現れた国には大きな祝福がもたらされるらしいですよ?」


 ハクは、どこで学んだのか知識を披露した。


「そうなの?僕は『真聖女』知ってるから……、いまさら感が凄いんだよなぁ」


 タウロは独り言をぼそっとつぶやいた。


「え?」


 ハクは、タウロの独り言を聞き取れず聞き返した。


「なんでもないよ。でも、わざわざ鑑定して貰いに同盟国にやってくるとか自慢しに来た感じの方が強い気がするなぁ」


 タウロは国家間の駆け引きを感じてそれを口にした。


「うむ……。それはあるかもしれんな。ルワン王国がこのタイミングで『聖女』が国内に現れた事を公表した事がそもそも、不思議な事だ。それを同盟国とはいえ、確認と称して鑑定をよその国の宰相にお願いするというのだから、外交カードとして利用しているのかもしれない」


 タウロの鋭い感想にグラウニュート伯爵も賛同した。


「ルワン王国は自慢以外に何か目的があるのでしょうか?」


 ハクが、疑問を口にした。


「具体的にはわからないけどね。ひとつは宰相閣下のお墨付きをもらって、ルワン王国の名を国際的に高める事だろうけど。そして高めたあとは、他の国々との外交交渉に『聖女』というカードをチラつかせる事くらいしか今は思いつかないなぁ」


 タウロの意見は十分それだけで的を射ていたが、もちろん当人は想像でしかなく、自分とは全く関りが無い事と思っているのであった。

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