第438話 贈り物の数々
夜の庭園での騒ぎは、エアリスの派手な魔法もあって騒ぎになった。
グラウニュート伯爵がすぐに出てその収拾に当たり、その日の夜は騒ぎもすぐに沈静化するのであった。
その翌朝、改めてグラウニュート伯爵から、お披露目会の主役の一人であったタウロが、王都でも騒がせていたあの暗殺ギルドの生き残りである副首領を倒した事を伝えると、改めて城館に宿泊していた関係者達は驚き、グラウニュート伯爵家の安泰を祝福するのであった。
そんな招待客達は数日間、グラウニュート伯爵家に滞在して観光を楽しむ者もいれば、すぐに帰郷する者、残った者同士で仲良くなり交友関係を広げる者など色々な目的の元で日々を過ごしていた。
タウロはそういった招待客をハクと一緒に接客し、今後の人脈作りとしていたのだが、嫡男の座をハクに譲ったタウロにはあまり必要性の無い事ではあった。しかし、弟になったハクにだけ任せるわけにもいかないし、グラウニュート伯爵家の面子にも拘るから一緒に応対するのであった。
こうして忙しい日々を送っていたがタウロも十四歳を迎えていた。
誕生日を祝う習慣がほとんどないこの世界ではどうでもいい事であったが、お披露目会と誕生日を祝う贈り物が城館に届けられていた。
「タウロ、お前にいくつかお披露目会のものとは別にプレゼントが届いているぞ」
父グラウニュート伯爵が、執務室にタウロを呼ぶと、そう告げた。
「プレゼントですか?」
この世界ではほとんど貰う事がないので、誰がくれたのか不思議に思い聞き返した。
「一つはフルーエ王子から。もう一つは宰相閣下、他にもダレーダー伯爵やガーフィッシュ商会からも来ているな」
それを聞いてタウロは納得した。いずれもタウロの関係者だ。
それぞれプレゼントに添えて手紙が入っている。
それを確認する為に自分の部屋に全てを運んで貰った。
「じゃあ、まずはガーフィッシュさんから──」
手紙を開いて確認すると、当日行けない事の謝罪から始まり、ジーロ・シュガー印の商品の売れ行きが留まる事を知らない嬉しい報告、それへの感謝とお披露目への祝福の言葉が書かれていた。そして、最後にプレゼントの目録が書かれていた。
「マント?」
ただ短くそう書かれていたので、タウロはプレゼントの中身を確認した。
確かに拡げると大き目のマントである。
「まるでこれからも冒険するんでしょ?的な、プレゼントだなぁ。あははっ。──でも、これ大き過ぎるかな……」
タウロは確認の為に、自分に纏わせてみた。
するとタウロのサイズまで縮んで丁度良い大きさになった。
「魔法加工しているマント!? こんな技術のもの見た事ないよ!?」
タウロは驚いて広げ、改めて『真眼』で確認する。
『変化蜥蜴製革マント』
・一流職人ランガス作。
・装備する者に合わせて伸縮するマント。
・耐火、耐毒性がある。
「え? ランガスさん!? なんで、竜人族の村にいるはずのランガスさんの作品をガーフィッシュさんが入手しているの!?」
鑑定結果に驚くタウロであったが、入手経路がわからないのでそれは謎のままであった。
気持ちを切り替えて今度はタウロが一時期、拠点としていたダンサスの村を領地としているダレーダー伯爵の手紙を確認する事にした。
内容は今回の嫡男になる事を祝福すると共に、改めて命の恩人であるタウロへの感謝の言葉が並んだ内容となっている。
嫡男じゃなくてごめんなさい。
タウロは手紙にお詫びをして、大きなプレゼントを開けてみた。
中には、大量に新調された服が入っていて、それこそタウロの成長を考えてか、色々なサイズの貴族の子弟が着そうなものばかりであった。
目録を見ると王都での流行りを押さえ、デザインは新進気鋭のデザイナーに任せたものなのだから安心して着てくれるようにと書いてある。
「……これは、数着だけ貰って、あとはハクに上げよう」
タウロは今後も冒険をする予定だ。ハクの方が着る機会は多いだろうとの判断だ。
「じゃあ、次は宰相閣下──」
タウロは手紙を取り出して内容を確認した。
形式的な文章に始まり、祝福と国への貢献を願う一方で、いつかまた、リバーシの手合わせを願うというものだ。
「リバーシ好きは変わらずだね。はははっ!」
タウロは、あの子供に容赦のない宰相の顔を思い出すと思わず笑いが漏れた。
そして、プレゼントの中身は、複雑な紋章の入った高そうなペンであった。
「これは宰相閣下の家の紋章かな? 宝石も付いてるし、絶対高いよねこれ? 使う機会なさそうだけど、一応貰っておこう」
タウロは、箱に戻すとそのまま、マジック収納に入れるのであった。
「最後はフルーエ王子殿下──」
手紙を確認すると、祝福の言葉よりも、こちらの世界に友人であるタウロが来るとは未だに信じられない、と綴ってあった。
さすが、ぼくの友人。わかってるなぁ。
タウロは、フルーエ王子の鋭い言葉に苦笑いを浮かべる。
他には、最近、良い物を入手したと綴ってあり、それをお祝いの代わりに送ると書いてあった。
タウロは、友人から送られたプレゼントの中身を確認した。
そこには、一振りの小剣が入っていた。
デザインは質素で、自分が持つ小剣『タウロ』に似たものを感じた。
「……もしかして?」
タウロは『真眼』で、この小剣を確認してみた。
『小剣・タウロ改』
・名匠アンガス作。
・ミスリル製の魔法剣。
・魔力を込める事で刀身が伸び、その切れ味は通常の剣とは比較にならない。
・敏捷+3付与、剣技+3付与、光属性付与、耐久値上昇付与。
「やっぱり、アンガスさんの作品だ! 付与能力は下がっているけど、刀身が伸びる?」
タウロは鞘から剣を抜いてみた。
一見すると普通の金属製の刀身に見えた。
だが、それはそう見える様に加工してあるのだ。
「ミスリル製だとわからない様に『カタナ』の鍛え方でアンガスさんが二重構造で加工したのか……。また、腕を上げているなぁ」
タウロは、その出来に感心すると、試しに魔力を込めてみた。
すると淡い光が刀身に広がり小剣を包む。
その光は通常の剣の形にまで広がり伸びた。
「重さは小剣と変わらないけど、これで物が斬れるのかな?」
タウロは、首を傾げると自室の燭台のロウソクの先端を試しに伸びた光の部分で軽く斬ってみた。
……
斬れてない?
タウロは込めていた魔力を止めて光を消すと、小剣を鞘に戻して、空いた手でロウソクの先を軽く触ってみた。
するとロウソクの先端にスッと切れ目が現れ、その先端は地面に落ちるのであった。
「斬れてる! というか切れ味が凄すぎない!?」
タウロは、アンガスがまた、とんでもない剣を作った、と驚嘆するのであった。
「それにしても、アンガスさん。出来が良かった小剣にタウロと付けるの止めてよ、恥ずかしいから……」
タウロは、フルーエ王子からの贈り物はとても嬉しかったが、それのみが気になるところであった。
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