第435話 友人との再会

 タウロのお披露目になるはずであった当日のパーティーは、ハクという先代の遺児であり、現当主であるグラウニュート伯爵の歳の離れた弟の養子縁組発表と、嫡男として扱われるサプライズに招待客は度肝を抜かれる形になった。


 そして、それは、現当主からハクに挿げ替えようとしていた反対派の思惑を未然に防ぐ事にもなった。


 なにしろそのハクが養子入りして嫡男として扱われるのだ。


 それを無視して現当主を今の地位から引き吊り落とす理由が無くなってしまった。


 パーティーに参加した招待客の中にも先代の遺児を密かに支持する者もいたが、このサプライズで同じように理由は無くなった。


 問題を起こそうとした者達も、タウロ達によって未然に取り押さえられ、未遂に終わった。


 この事によって領地を二分する様な争いは防がれたのであった。


 タウロとハクは、表面上は何も無かった様に、再度パーティーに参加すると村長や、街長、地方の有力者、近隣の貴族に挨拶をして回る事になった。


 その中で、ハクはもちろんだが、タウロも注目の的であった。


 各地方の村長や街長は、タウロを冒険者や、領内巡検使として知っている者も多く、それだけでも大きなサプライズであったから、話題が尽きなかったのである。


「わははっ!まさかあの時雇った冒険者が、領主様のご子息であったとは!これも何かの縁、ゼンユの村をこれからもよろしくお願いしますよ」


 ゼンユ村の村長は、娘をワーサンの街長の息子に嫁に出した事で、近隣の村からも一目置かれていたから、タウロと縁があった事にさらに自慢しそうな勢いであった。


「師匠、あの時、なぜ言ってくれなかったんですか!」


 ワーサンの街長のドラ息子が、涙目でタウロの手を取って、感動していた。


 こんな形で再会できると思っていなかったのだろう。


 というかなぜ師匠?


 ドラ息子はどうやら、こってり絞られて改心できた事を恩に感じている様だ。


「タウロ様のお陰でうちの息子も心を入れ替える事が出来ました」


 グラウニュート伯爵と、談笑していたワーサン魔法士爵もその輪に合流して来た。


 ポンと自分のところのドラ息子の頭を叩くと、そこで頭を下げて続ける。


「そして、あの時は、知らないとはいえ、失礼な態度の数々、申し訳ありませんでした」


「いえ、ご子息が改心されたのは、このグラウニュート伯爵家の財産です。これからは父や、弟のハクを支えて上げて下さい」


 そう言うとタウロも頭を下げた。


「タウロ様、頭をお上げ下さい。もちろん、グラウニュート伯爵家への忠誠はこれからも変わりません。よろしくお願い致します」


 タウロの態度に感じ入ったワーサン魔法士爵は、ドラ息子と一緒に深々と頭を下げるのであった。


 その他にもタウロが冒険者として、領内巡検使として巡った村々の村長達が、


「実はあの時、只者ではないと思っていたのですよ。はっはっはっ!」


「悪党を懲らしめたその腕前、改めて流石ですな!」


「一介の冒険者ではないと、私は見抜いておりましたぞ!」


 などと、褒めたり、讃えりとご機嫌をとるのであった。


「僕は、嫡男ではないので嫡男のハクに言って上げて下さい」


 タウロは苦笑すると、同じ様に人に囲まれているハクの方に行ってくれる様に勧めるのであった。


 そこに、領地を接する近隣の貴族の一人が近づいて来た。


 さすがに村長達は、それに気づいて道を開ける。


「タウロ殿、久し振りだな」


 話しかけてきたのは、ヴァンダイン侯爵であった。


 傍にはエアリスもいる。


「やっとのお披露目パーティーだと、娘も喜んでいたのに、こんなサプライズが用意されているとは驚かせられたよ」


 ヴァンダイン侯爵も、この展開は想像していなかった様だ。


「お久し振りです。ヴァンダイン侯爵。エアリスも久し振り、元気にしてた?」


 タウロは、笑顔でそれに応じると、傍で大人しくしている綺麗になったエアリスにも声を掛けた。


「……タウロ。色々と言いたい事はあるけれど、それはまた、あとにするわ。今は、改めてグラウニュート伯爵家の一員としてお披露目できた事をお祝いする」


 エアリスは少し、不満そうな顔をしていたが、最後は笑顔でタウロを祝福した。


「ありがとう!」


 タウロは淑女として磨きがかかったエアリスに感心しながら、お礼を言うのであった。


「そうだ、あとで、ラグーネやアンクに会って上げて。そこで、新たな仲間のシオンも紹介するよ。ぺらは今、擬態してベルトになってるけど」


 タウロはベルトを擦ると、擬態したぺらが、プルンと震える。


 そして、擬態を解くとエアリスの肩に飛び乗った。


「ぺらもエアリスに会えて嬉しいみたいだね」


 ぺらは、エアリスに頬ずりすると、タウロのベルトにまた戻って、擬態するのであった。


「ぺらって、本当に頭が良いわね」


 エアリスは笑顔で褒める。


「うん、エアリスと別れてからも、ぺらには色々助けられているよ」


 タウロもエアリスの笑顔に釣られる様に笑顔を浮かべる。


 本当に懐かしいな。一緒に冒険した事が遠い昔の事みたいだ。


 タウロはそう感慨深く思いを馳せると、エアリスと過去の冒険談に花を咲かせるのであった。


 そこに、裏方に回っていたラグーネとアンク、シオンが、正装してパーティーに参加して来た。


 ラグーネがエアリスのドレス姿を褒めれば、アンクが綺麗になったエアリスを褒める。


 そして、もじもじしているシオンをエアリスに紹介すると、エアリスは遠慮する事無く、


「あなた、半獣人族なのね? 珍しいわ。そして、とても可愛らしいわね」


 と、シオンの珍しい姿を差別する事無く、褒め称えた。


 シオンは、その言葉が嬉しかったのか笑顔になるとエアリスが美人である事を褒めるのであった。


 四人は、共通の話題であるタウロについて盛り上がる中、タウロもその会話に参加したかったが、他の招待客もいるのでその対応に追われるのであった。

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