第434話 物好きな仲間達

 会場は大きくざわついていた。


 当然である。


 今日は、タウロという養子にした嫡男のお披露目会という事で招待されているのだ。


 そこへ、新たに先代の遺児が現れ、そちらも養子にするという。


「これはとんだサプライズだな……」


「先代の遺児……、噂話ではよく聞く事もあったが、本当に実在したという事か……」


「その遺児を養子に迎えるという事は、嫡男はどちらだ?」


「確かにそうだな。やはり、先に養子にしたタウロ殿か?」


「待て、待て。先代の遺児という事は、正当な血筋。平民出身の子とは比べようが無いだろう?」


 招待客同士が無遠慮にそんなやり取り始めると、その会話を止めさせる様に一人の招待された貴族が拍手してみせた。


 誰もがざわついて困惑している中、その拍手に注目が集まる。


 その拍手している人物はヴァンダイン侯爵であった。


「これはめでたい!わが親愛なる友であるグラウニュート伯爵に子供が同時に二人も出来るとは!みなさん、そう思いませんか?」


 みんなを代表する様にそう告げると、一緒にいたその娘も拍手を送る。


 それはエアリスであった。


 二人が、拍手を送るとそれに追従する様に周囲の者も拍手を始め、それは伝播して会場全体で拍手が鳴り響き始めた。


「確かに、これはとてもめでたい事だ!」


「ヴァンダイン侯爵の言う通り!」


「グラウニュート伯爵殿、おめでとうございます!」


 ヴァンダイン侯爵の言葉のお陰で会場は、祝福する雰囲気になるのであった。



「あ、あの、先生。俺、何が何だか……」


 ハクは剣の先生であるタウロに舞台へ上げられ、列席している招待客に拍手を送られるのだから、困惑から抜け出せずにいた。


 ましてや、先代の遺児などと言われている。


 領主様の歳の離れた弟とまで紹介されただけでも驚きなのに、それが養子になると言われては、混乱しても仕方が無い事だった。


 もちろん、ハクを担ぎ上げて混乱を引き起こそうとしていた村長一派も混乱していた。


 そして、計画を実施するのかどうか困惑していると、お披露目会の裏方スタッフとして各所で待機していた仲間達は竜人族と、グラウニュート伯爵の信用する兵士によって制圧されていった。


 会場の裏で各部署を押さえる為に待機していた村長一派に従う兵士達も同様に竜人族とラグーネ、アンク、シオンによって倒されていた。


 そんな事が起きているとは思わない村長は、正気に戻るとクロスに命令する。


「クロス!早く、ハクの安全を確保せよ……!それからグラウニュート伯爵を人質に取るのだ……!」


 だが、クロスは動かない。


 それどころか、村長一派の手によって机の下に隠してあった短剣を懐に回収していたのだが、それを地面に放り投げて降参して見せたのだ。


「な、何をしているクロス!?」


 村長が、慌ててクロスを咎めた。


 そこへ、使用人の姿をした領兵二人が村長を両方から挟む様に捕らえた。


「な、何をする……!?」


 村長は、抵抗しようとしたが、その力には抗えず、会場の外に連れ出されるのであった。


 そして、クロスもそれに後ろから従う様について行くのであった。



 タウロはハクと控室に一旦移動すると、これまでの経緯を簡単に説明した。


「お、俺が、領主様の弟で、養子……ですか?」


「うん。だから僕とは、これで兄弟になるね」


「えぇ!?」


「そして、グラウニュート伯爵家の嫡男として、君がこの領地を受け継ぐ事にもなるよ」


「えぇ!?ちょ、ちょっと待って下さい、先生!先生が嫡男になるのではないんですか!?」


 ハクは、その利口さからすぐに状況を理解して、そう指摘した。


「ハク。この領地には現在、父グラウニュート伯爵派と、その正当な血筋を持つハクを継がせたい反対派が存在するんだ。その状況で、今、僕が嫡男として発表されるとどうなる?」


「……領地が二分される可能性があります……」


「そういう事だよ。父グラウニュート伯爵は、それを危惧して一番両者が納得できる落としどころとして、君を養子として迎え、次代のグラウニュート伯爵家を継いでもらう判断をしたんだ」


 本当は、タウロが父グラウニュート伯爵をその様に説得したというのが正しかったが、最終的な判断は伯爵なので、そう説明するのであった。


 当初、グラウニュート伯爵夫妻は、タウロを嫡男として譲らない姿勢を見せていた。


 だが、タウロが、許される事なら冒険者としての道を歩みたい、と申し出た為、


「タウロは冒険している時が一番、生き生きしているかもしれないな……」


「そうね。私達の息子は、活発だから……」


 と言うと、夫妻は深い溜息を吐いて、理解してくれたのだった。


「父は、クロスは、どうなるのでしょうか?」


 ハクの育ての親であるクロスの処遇を気にした。


「クロスさんは、抵抗するどころか僕にも協力してくれたので、このままいけば、グラウニュート伯爵家で召し抱える事になると思う」


「……そうですか。罪には問われないのですね?良かった……」


 ハクはホッとした。


「僕からもクロスさんの事は父に推薦しておいたから、悪いようにはならないはずだよ。それと、生まれた年は一緒だけど、これからは、僕が君のお兄ちゃんになるからよろしくね」


「先生が俺の兄ですか……。兄弟が出来るとは思わなかったです。よろしくお願いします」


 ハクは照れながら笑うとタウロと握手を交わすのであった。



「やれやれ……。まさか、リーダーが伯爵家嫡男の座を簡単に譲るとはな」


 アンクが、呆れた様に会場の裏でそうぼやいた。


「仕方あるまい。今回はそれが一番、最適な判断だったのだ。タウロ当人がそう決断したのだから仕方がないだろう」


ラグーネが、タウロの判断に理解を示した。


「そうですよ。タウロ様の判断はいつでも正しいです!」


 シオンは、タウロのイエスマンらしくアンクのぼやきを非難する様に答えるのだった。


「……へいへい。こうなると俺の引退後の悠々自適な就職先は失われたか……!」


 アンクは苦笑いすると、その場に座り込む。


「まぁ、良いではないか。これでまた、私達の冒険は続くという事だ!」


 ラグーネは楽しそうに答える。


「そうですよ。ボクもまだ、みなさんと冒険したかったですし!」


 シオンも嬉しそうである。


「……やれやれ。みんな物好きだな。わははっ!」


 その者好きの一人であるアンクが指摘して笑うと、二人も釣られて笑うのであった。

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