第427話 口約束
離れの空き家となっている宿泊先に戻ったタウロ一行は、四人で村長の依頼を受けるかどうかを話し合う事にした。
「みんなの意見を聞きたいのだけど……」
タウロは、そう言いながら、マジック収納から紙と筆、インクを取り出すと、話しながらさらさらと何か書き始めた。
「僕としては、ギルドの五倍の報酬は大きいかなと思ってちょっと迷ってるんだよね」
(この会話は盗聴系の能力を持つ村人に聞かれているみたいだから筆談で話すよ。みんな、話を合わせて)
タウロは、紙にそう書いて注意を促した。
「五倍か……。確かに魅力的な話だが、ギルドにバレたら降格やお使いクエスト数か月とかの罰があるかもしれないぜ?」
(盗聴か……。そんな能力持つ奴がこの村にいるとはな……)
と、アンク。
「そうだな……、降格や罰は確かに嫌だが、私達や依頼主の村長が言わなければバレないのではないか?」
(タウロはどうしたいのだ?やはり、引き受けて村長の思惑を知りたいのか?)
と、ラグーネ。
「私はタウロ様の判断に従いますよ!」
(私はタウロ様の判断に従いますよ!)
と、答えながら、読み書きが少し苦手なシオンは一生懸命書いた。
それに対し、
シオン、それ言ってる事と同じだから、書かなくても良いんだよ?
と、内心ツッコむ他の三人であった。
「……そうだなぁ。リスクもあるけど、黙っていればバレないかなっても思うんだよね。冒険者の中にはこういうお小遣い稼ぎみたいな事してる人も少なくないし」
(僕達が引き受けなかったら他の誰かが、引き受ける事になる。そうしたら、何を企んでいるのかも、当日何が起きるのかも、わからなくなるでしょ?)
と、タウロ。
「リスクは大いにあるが、それに見合う報酬なのは確かだな」
(リスクはあるが、調べてグラウニュート伯爵にも知らせるべきだな)
と、アンク。
「私はあまり乗り気ではないが、タウロの判断に任せるぞ」
(潜入して調べるのは良いが、それでみんなの身に何かあったら、私は後悔するぞ……。そう思うと……、くっ、殺せ!)
と、ラグーネ。
いや、君、それ口癖だけじゃなかったのかよ!
と、ツッコミを内心で入れるタウロ。
「それじゃあみなさん、賛成ですよね?ボクも大丈夫です!」
(その時は、ボクとぺらがタウロ様の身を、捨て身で守ります……!……くっ、生きる!)
と、シオン。
いや、シオン。ラグーネを真似して口癖入れるとかいいから!
と、シオンにも内心ツッコミを入れるタウロであった。
「じゃあ、みんな一致という事で、村長には引き受けると伝えるね」
タウロはそう決めると、村長宅に改めて向かうのであった。
村長はすでに盗聴していた村人から報告を受けているのか満面の笑みでタウロを迎えた。
「で、どうですかな?引き受けてくれますかな?」
「はい。ただし、条件があります」
「え?条件?」
村長は、傍にいる村人に「聞いてないぞ!?」という顔で視線を送った。
なるほど、その人が盗聴系の能力を持つ村人か。
タウロは、その視線の先の村人を確認した。
クロス、ハク親子の隣人である中年夫婦の妻の方であった。そして、言葉を続けた。
「村長の事情を聞かないとそう簡単にはお引き受けできません。もちろん、聞くからには秘密にします。調べるからにはある程度の事情を知っておかないと何が有益で何が不要な情報かもわからないですから」
タウロは早速、情報を引き出す駆け引きに出った。
「……五倍の報酬はそういった事情も踏まえてのものです。今言える事は、領都で行われる重要なパーティーの情報です。特に警備体制ですが、どのくらいの警戒規模か、また、こちらの人間を複数人潜入させられる隙があるかなどです」
「……わかりました。そこで何をみなさんがやろうとしているのかはわかりませんが、巻き込まれたくないので、ある程度の情報を貰えないと困ります。これは信用の問題ですよ。村長も僕達を信用して貰わないと、安心して情報を渡すわけにはいかないです」
「むむっ……」
村長は、盗聴していた村人に視線を送って苦虫を噛み潰した様な渋い表情を浮かべると続けた。
「ご理解頂きたいのは、我々は正義の元に集っているという事です。悪事を働こうとしているわけではありません。ただ、リスクもありますが、もし、タウロ殿が持ち帰る情報でこちらが満足するものだったら、さらに追加で成功報酬を支払いましょう。こちらの目的についてはその成功報酬を支払う時に、一緒にお教えします。期限はパーティーの一週間前ではどうでしょう?」
「そうですね……。わかりました!契約書を交わしたいところですが、形に残すと危険な気しかしないので、お互い信用するという事を前提に口約束のみでよろしいですか?」
タウロの言い分は、契約書を交わす事で、最後まで村長の陰謀に付き合う事になる可能性を避けての言い訳であった。
そう、契約書を交わすと内容次第では色々と縛られる事になる。
だから、こちらの行動を制限されてしまうのを避けたのだ。
「……わかりました。契約書は無しで結構です」
長い沈黙の後、村長は、タウロの提案に納得した。
きっと、村長側の考えとしては、情報の内容は自分達が正しいかどうか判断すればいいだけの事。
タウロが裏切る可能性もあるが、村長側が情報を得るまで自分達の目的を話さないのだからタウロは裏切りようがなく、裏切る可能性が高いこちらの目的を知るその前に口封じをすれば良いと思っているかもしれないと、タウロは推察した。
一見すると、契約書を交わさないで有利なのは村長側なのだ。
お互い自分に有利な口約束を取り付けたと思いながら、握手を交わすのであった。
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