第426話 秘密の村

 隠れ村でのタウロ達の扱いが変更される様であった。


 当初、村長は、村での(ハクの)護衛役と、村人への武芸の指南役としてタウロ達を雇おうとしていたが、ハクの(偽りの)父親であるクロスの大怪我が治った事で、事情が変わって来た。


 村長の思惑はどこにあるのかはタウロにもわからなかった。


 そもそも、この村は何なのか?


 そして、ハクは何者なのか?


 クロスを雇ってまで十三年間もハクを守り続けていた理由がそもそもわからないのだ。


 一つ頭を過ぎってありそうなのは、先代グラウニュート伯爵の隠し子説であったが、ハクは黒髪の少年だし、先代グラウニュート伯爵は十四年前に亡くなっているからまず違うだろう。


 そうなると、別の誰かの高貴な血筋の可能性で、それをこの村が守っている事になるのだが、そうなると可能性が広がり過ぎて想像もつかない。


 それに、これまで村人は、ハクのお守りをクロス一人に任せていた事も気になる。


 最近のクロスの大怪我で村長が危機感を抱いて村人にも武芸を学ばせる事にしたのだろうか?


 タウロは、何か見落としている気もするのだが、今のところ限られた情報からは判断する事ができない。


 とりあえずクロスの怪我が治ったので現状維持は出来るから、ハクの身に危険が及ぶことはないだろう。


 だがしかし、その危険とやらも、気になるところだ。


 ハクは誰かに追われている、もしくは命を狙われている様だ。


 クロスは武芸に秀でた元王国騎士であるが、そんなクロスに大怪我を負わせるほどの刺客?を送り込んで来た者、または組織?がいるのだ。


 事情が分かれば、協力のしようもあるのであるが、村長は詳しい事情を話したがらない。


 クロスも詳しくは知らされていない様だ。


 そんな中、タウロ達は村長宅にいた。


「クロスの復帰により、みなさんにお願いした件ですが、無しという事で……」


 村長は、タウロ達に言いづらそうに話した。


「仕方ないです。でも、クロスさんの怪我からの回復は良かったです」


 タウロは、何事も無かったかのように笑顔で答えた。


「そこで、別の仕事を依頼したいのですが……」


「別の仕事……、ですか?」


 タウロは、次から次へと依頼を思いつく村長にある意味感心した。


 どうやら自分達はかなりこの村長に気に入られている様だ。


「ええ。簡単に言えば、監視というか偵察というか……」


 村長はまた言いづらそうにもごもごしている。


「冒険者ギルドを通して貰えれば、考慮した上でお返事しますよ」


 タウロが何を頼まれるか全く想像がつかないので、慎重に言葉を選んで答えた。


「……できれば、ギルドを通さず直接お願いしたいのです。報酬はその分、弾みますよ」


 村長は指でお金の形を作ると、笑顔でタウロの表情を窺った。


「……村長。僕達は冒険者です。ギルドを通さないで仕事を受けるわけにはいかないのはお分かりかと。それに内容を聞かない事には、そもそも引き受けようがありません」


 タウロは、どうやら村長が、よからぬ事を考えているのではないかと疑って探る事にした。


「……みなさんは口が堅いですか?こちらのお話を他所でべらべらと話されても困るのです」


 村長は、慎重にだが、タウロ達は人が良さそうだと思ったのか確認して来た。


「秘密にしたい事なのならば、僕達も秘密にしますよ。もちろん、仕事を引き受けるかは別ですが、内容によっては他の冒険者に口利きしても構いませんし」


「いえ、そこまでされるとこちらの情報が洩れる可能性もあるので、秘密にしてくれるだけで構いません」


「では、仕事の内容とは?」


「……これから数週間後、領都でとあるパーティーが開かれるらしいのですが、その詳しい内容と警備体制を調べてきて欲しいのです」


 数週間後に領都でパーティー?


 タウロは心当たりがあったので「もしかして?」と、思った。


「それはどの辺りで行われるものですか?」


 気のせいかもしれないと、タウロは詳しい情報を求めた。


「……領主の城館です」


 それって僕のお披露目をする事になっているパーティーって事じゃん!


「……なんでまた、そこのパーティーを調べるんですか?」


 タウロは当人だからいくらでもその関係の情報は調べて渡す事が出来るが、なぜ村長が自分関連のパーティーを知りたいのかがわからない。


「それは言えません……。ですが、調べて貰えたら冒険者ギルドを通した場合の報酬の三倍、いや、五倍を支払いましょう。みなさんの腕を見込んでの依頼です。引き受けて貰えませんか?」


 村長の目は真剣だが、内容が内容である。


 それに警備体制を調べる時点で何かしでかそうとしているのは確かだ。


 タウロには、この村に恨みを買われる覚えはない。


 というか目の前にその関係者がいるのだ、恨みがあるなら顔を知っていて襲って来そうなものだ。


 となると、父グラウニュート伯爵に対する怨恨か何か、か?


「……わかりました。検討させて下さい。今日中には答えを出しますよ」


 タウロは一旦可能性を見せる事にした。


 そして、タウロ一行は、村長宅を出る。


「リーダー。さすがにこれは怪しいだろ。それにグラウ──」


 アンクは、タウロが領主の息子である事を指摘しようとしたがタウロが制止した。


 それは、この村には盗聴が得意な能力を持つ村人がいるからだった。


 それを知らせる為に、タウロは口元に人差し指を立てると、そのまま、自分の耳を指した。


 それでアンクは、すぐに気づいた。


 ラグーネも気づいたのか黙って頷く。


「?」


 シオンは、まだ、わかっていなかったが、タウロ達の真剣な表情から察して、黙っておいた方が良いと思ったのか口を噤んで話さない。


「……そういう事だから、ちょっと考えようか」


 タウロはみんなに表向きな提案をすると、一旦離れの宿泊先に戻るのであった。

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