第421話 少年との出会い
タウロ一行が訪れたその村は、ギルドでも言われた通り特徴の無い普通の村であった。
以前にもタウロ達は農作物の運搬クエストで訪れた村の一つであったが、その時の印象も「普通」であって印象にあまり残っていなかった。
この普通の村、マイン村村長も普通の中年の男性であった。
「ようこそおいで下さった!先日、ガーデとの取引でお見かけした時から、只者ではないと思っていたのですよ!はっはっはっ!──これから一週間ほど、うちの連中にみっちりと戦い方について色々と教えて下さい」
村長は、村人達を代表して挨拶するとお辞儀をした。
村長の背後には村人達が勢ぞろいしていたが、中には子供達も混じっている。
どうやら、大人だけでなく子供にも教えて欲しい様でその本気度が伺えた。
最初、どのくらい本気なのかと疑っていたのだが、村人の目も真剣だ。
タウロは何がそこまで村人を駆り立てるのか気になり、村長に直接聞く事にした。
「ところでなぜ、戦う術を学びたいと思ったのですか?普通なら職人を招いて技術の習得を行ったりするものでは?他所に優秀な村人を出して仕事を覚えさせる事も出来るかと思うのですが……」
「それは簡単な理由ですよ。みなさんを見て、まずは自分や家族を守れる強さが必要だと考えたのです。こう言っては何だが、子供が二人も冒険者としてこうして活躍されているのです。その現実を知ったら我々も刺激されるというものですよ」
村長は、タウロとシオンを見て、自分達にも出来る事はあるだろうと考えた様だ。
もちろん、そんなに甘いものではない。
ましてや、一週間という短い期限付きである。
村長の考えは立派だが、学ぶ期間が短い事を考えると、まだ、甘く考えていると思わざるを得なかった。
タウロはそこで、基礎をみっちり一週間教える事にした。
大人はラグーネとアンクに任せ、子供はタウロとシオンが担当する事にする。
数日も教えていると、彼らの真剣ぶりは十分伝わって来た。
よほど、今の村の状況に危機感を抱いているのだろうか?
みんな朝から晩まで農作業の傍ら、空き時間は全てこの特訓に参加する熱心さだ。
子供はさすがにすぐ飽きると思っていたのだが、そんな事はなく、遊ぶ時間を惜しんで木剣を振っているから、大人の真剣さを察したのかもしれない。
そんな数日を送っていると、新たに知らない子供が混ざっていた。
「子供が増えているよね?」
タウロは、真剣に木剣を振る子供の列が増えているから、首を傾げた。
「昨日に一人。今日、三人増えてますよ」
シオンが教えてくれた。
もしかしたら、予定になかった者も刺激されて参加したのだろうか?
と、思うタウロであったが、それに同伴して見物している大人はこの村の村民ではない事にタウロは気づいた。
子供こそ意識していなかったが、大人に関してはこのマイン村の村民を『気配察知』で確認している。
「もしかして、他所の村から来てない?」
タウロは、子供達に教えながら、口にすると、子供の一人がその疑問に答えてくれた。
「隣の村の子達も来ているよ!」
「やっぱり?」
どうやら、タウロの予想はあっていた様だ。
「……すみません。実は話を聞いてうちも参加させようと子供達を連れてきたんです」
同伴して来ていた大人が、タウロに謝るとそう告げ、続ける。
「もちろん、お代は支払いますよ」
このマイン村の行動に刺激を受けたのかもしれないが、みんなどこを目指しているの?
と、思うタウロであったが、途中から参加して来た子供達は、意外に最初から教えていた子供達よりも木剣が振れている。
どうやら、元々誰かに教えられていた様だ。
中でもタウロと同い年くらいの黒髪の少年は基礎がしっかり出来ていて筋が良さそうだった。
時折、タウロを意識してか基礎以外の素振りを見せている。
年齢が近いからタウロに対抗意識を燃やしたのかもしれない。
タウロはその負けん気を好ましく思うと、短い休憩時間に一人ずば抜けているその少年と練習試合を行う事にした。
「そこの子、僕と手合わせするかい?」
「もちろん!──冒険者がどの程度強いか試してみたかったんだ!」
少年はやる気満々だ。
そして──
タウロは少年をコテンパンにした。
少年は、タウロと自分との実力差がいかに大きいかを痛感したのか、
「参りました……。先生の様に強くなるにはどうしたらいいですか?」
と、タウロを先生として敬う姿勢を見せた。
少年は、ハクと名乗った。
隣の村では父親から剣を学んでいたそうだが、その父親が村を襲った魔物を退治する時に大怪我を負うと、直接学べなくなったので、それからは素振りばかりだったらしい。
「……道理で、途中参加の子供達も大人も剣が振れているわけだ」
タウロは感心すると、これまでみんなに教えていたその父親は今、どうしているのかと聞くと、家で細工仕事をしているらしい。
「お父さんはもしかして、以前どこかで貴族なんかに仕えていたとか?」
タウロは、この少年が礼節もわきまえているようなので、親の教育がかなり行き届いているなと感心して予想を立てた。
「自分もよく知らないです。父は、そういった事は話したがらないので。でも、怪我をして今の村に流れてきたって言ってました」
「元々、負傷していて魔物と戦ってまた、怪我をしたのか……。それは大変だったね」
タウロは聞き過ぎたとちょっと後悔した。
「自分の父は立派な人です。勉強は今でも教えてくれるし、他の村の人達も父に尊敬の念を持って接してくれています。自分にも父の息子だからと丁寧に接してくれるし」
ハクはタウロの質問に嫌な顔ひとつせず、答えてくれた。
もしかしたら、名のある人なのかもしれない。
タウロは、その父親とこの息子ハクに興味を持った。
それに、このハクに同伴して来た大人達のハクを見守る視線も気になっていた。
まるで護衛する騎士の様な面持ちである。
何かあるのかもしれない、とタウロは隣の村自体にも興味を持つのであった。
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