第420話 組織の影

 有害な薬物の製造元になっていた倉庫の捕り物劇の翌日。


 タウロは、新たな実家であるグラウニュートの城館の一室で、そこで改めて捕らえたグラドの尋問の報告を父であるグラウニュート伯爵から知らされた。


「タウロのお陰で、この領都で出回ろうとしていた有害な薬物の製造工場を押さえる事が出来た、助かったよ」


「いえ、僕達も偶然でしたが、気づけて良かったです」


「それで、グラドという男を尋問してわかった事なのだがな……。少し根が深い問題かもしれんのだ」


「根が深い?」


 父グラウニュート伯爵の真剣な表情に、タウロも声のトーンを落とした。


「……どうやらこの薬物を製造していた組織は、冒険者ギルドや、領内の公職に付いている者、領兵などの中にも仲間がいるらしい。一部は現在発覚して尋問中だ。冒険者ギルドの方は、急な改革が行われた際に捕まってしまったらしいがな」


 あ……、それも多分、僕達きっかけです……。


 タウロは、話の腰を折らない為に声に出しては言わなかったが、カクザートの街の冒険者ギルドが原因で冒険者ギルドの組織全体が、改革と称して一新した事で各支部で捕まる者が出たのだが、どうやらその一部だった様だ。


 父グラウニュート伯爵は続ける。


「地下の下水施設はこの領都最新の設備。つまり、私の部下の誰かがあらかじめ施設を作る際に報告にあった仕掛けを作っていた事になる……」


「施設はいつごろに作られたのですか?」


 タウロは下水施設について確認した。


 父グラウニュート伯爵が言う様に、王都でもまだ存在しない最新設備である。


 それがこの領都にある事自体が驚きであったから、興味があった。


 もちろん、いつ頃出来たかによって犯人の特定にも繋がるかもしれない。


「私が爵位を継いで最初にやった政策の一つでな。そこから十年くらいかけて作られたものだな」


「結構前ですね。当時の資料から責任者や関係者を調べれば、後ろで悪巧みをしている組織がわかるかもしれないです」


「そうだな。──おい、誰か。当時の資料をここに運んでおいてくれ」


 使用人は、すぐに取り掛かるべく、部屋を出て行く。


「これで、いいだろう。──タウロは、今日はどうするのだ?」


 父グラウニュート伯爵は、タウロ達の予定を確認した。


「僕達はこれから冒険者ギルドで新しいクエスト探す予定です。一か月後の事もありますし」


「そうか。くれぐれも気を付けてくれ。タウロの行くところ、何かと問題が起きる事が多い様だからな」


 父グラウニュート伯爵は、冗談交じりにタウロに注意喚起する。


 もちろん、タウロが差異に気づいてその問題に首を突っ込むからであって、問題を招き寄せているわけではない。


 だが、タウロを知らない者にとっては災いを招き寄せている様に見えなくもないだろう。


「ははは。僕は能力に『豪運』が付いてますから、大丈夫ですよ」


 本人も忘れがちな能力であるが、タウロの運は以前以上についているのも確かであった。


 ただ、自然な流れの事なので、気づかない事の方が多いのであったが……。



 タウロ一行は、グラウニュート伯爵と話を終えると、冒険者ギルドに向かうのであった。


 冒険者ギルドに到着すると、受付嬢がタウロ達に気づいて声を掛けてきた。


「『黒金の翼』さん!お待ちしてました。指名依頼が入ってますよ」


「「「「指名依頼?」」」」


 タウロ一行は、まだ、この領都での日が浅いから、指名依頼が入るとは誰も思っていなかった。


「はい。マインの村からの依頼です」


 タウロは受付嬢から依頼書を渡された。


 マインの村……、確か農作物の運搬クエストで立ち寄った村の一つだったかな?あんまり印象に残ってないけど、僕らに依頼という事は、やっぱり、運搬?


 タウロは、記憶を辿りながら依頼書に目を通した。


「村人達に戦う術を教えて欲しい?」


 変わった内容にタウロは受付嬢に確認する様に内容を読んだ。


「はい。マインの村はこれと言って特徴がない村なんですが、村長の発案で村人に専門的な技術を身に付けさせて、独自で収入を得られる村にしたいとか。先日、タウロさん達を見かけて、子供の冒険者が二人も活躍するのを見てお願いしたいと思った様ですよ」


 受付嬢が、依頼の動機について説明してくれた。


「……なるほど。それで僕達ですか。みんなはどう? 僕らじゃなくても出来そうな依頼ではあるけど……」


 タウロは、あまり乗り気ではなかった。


 というのも、一日やそこらで武芸は身に付くものではない。


 依頼内容によると、一週間を予定している様だ。


「リーダー、指名依頼なんだろ?それなら引き受けてやろうぜ。ちょっと立ち寄った俺達を見て、刺激を受けてくれたんなら、協力してやっても良いんじゃないか?」


 意外にアンクは乗り気であった。


「その村の住民にやる気があるのなら、私も良いんじゃないかと思うぞ? 断る理由もないだろう?」


 ラグーネもアンクに頷くと同意した。


「ボクはタウロ様の判断にお任せします!」


 シオンは、相変わらず、タウロ任せだ。


「うーん……。確かに指名依頼してくれたのに断るのはなぁ……。それに、冒険者として人脈作りは大事かぁ……。──わかりました。お引き受けします」


「そう? なら良かったわ! あちらからは報酬の七割の前払いがあったものだから、断られたら困るところだったの!」


 どうやらギルド的には是が非でも受けて欲しいクエストだった様だ。


 受付嬢はホッとしてすぐに手続きを始めるのであった。


 七割も最初から報酬を支払うなんて、よほど力をいれているのかなぁ……? ──あ、もしかして『豪運』が、関係しているのかな? それなら……、大丈夫か?


 タウロは、『創造魔法』での失敗から最近は気づかないうちに慎重になり過ぎているのかもしれないと、考えを改めるのであった。

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