第419話 一応の解決?

 追跡した悪党グラドが辿り着いた倉庫で一部始終を聞いたタウロは、一人で突入する様な愚は避けて、一旦みんなの元へ戻る事にした。


 タウロは冒険者として任務中だからだ。


 最初は責任者の男を追跡する事を考え、実際そうしたのだが、男はボスのところに直接行くのではなく、人通りの多い場所に向かった。


 そうなると、姿隠魔法で姿を隠していては、人にぶつかり易くなって騒動になりかねない。だから姿を現して追跡に移った。


 責任者の男は、大きな通りまで歩みを進めるとひとつのお店に入っていった。


 それは伝達代行屋だ。


 手紙や用事を代わりにいち早く目的の相手まで伝えてくれる職種である。


 基本は、手紙の代行や口伝を、人を使って伝えるが、他にも各地と魔道具を使って簡単なやり取りができる。


 ただし、高いお金がかかる上に、機密性があまりあるとは言えない為、利用方法が限られる。


「お店に入られると、これ以上は追跡ができないなぁ。……みんなのところに戻った方が良さそうだ」


 タウロはこうして追跡を諦め、ラグーネ達と合流すべく待ち合わせ場所に向かったのだった。


 タウロが城門傍の兵の詰め所に到着するとラグーネ達が捕縛した悪党の引き渡しを領兵と行っていた。


「丁度良かった。──隊長さんちょっといいですか?」


「どうしたんだい坊や?」


 領兵を連れてきた隊長の男が、子供であるタウロに話しかけられて優しく対応してきた。


「あ、僕はこういうものです」


 タウロは、説明よりも実物を見せた方が良いと、領内巡検使の証を隊長に見せた。


「こ、これは!?──失礼しました!それで、何の御用でしょうか、巡検使殿……!」


 隊長は、タウロがただの坊やではない事がわかって、敬礼すると、返答を待った。


「実は──」


 タウロは一部始終を隊長に説明する。


 隊長は、神妙な面持ちでタウロの説明を聞いていたが、すぐにその内容に驚き、問題がどうやらただ事ではない事に気づいた。


「──わかりました……。その倉庫に警備兵を向かわせましょう。それで巡検使殿は?」


 隊長はこの自分より格段に偉い子供であるタウロがどうするのか気になった。


「領都での事はみなさんにお任せします。僕は、用事があるので……。──ラグーネ、アンク、シオン!もう行ける?」


 捕縛した悪党の引き渡しを済ませてこちらの様子を窺っていたラグーネ達に、タウロは声を掛けた。


「ああ、こちらは終わったぞ。タウロも追跡は終わったのか?」


「じゃあ、隊長さん、あとはよろしくお願いします。──うん、ラグーネ。あとはこちらに任せるから大丈夫だよ。それより、ガーデさんと合流しよう。僕達の仕事はまだ、終わってないから行こうか」


 隊長に倉庫の件を任せると、タウロはまだ、冒険者としてクエスト中であるから、ガーデと合流する為に移動するのであった。



 この後、領都の治安を守る警備兵が、一隊を率いて現場に出動、タウロの証言があった倉庫を囲んで突入した。


 現場には有害な薬の製造の証拠や、その実物もうず高く積まれていた。


 そして、そこには一度逃亡を図っていたグラドもおり、再度逃亡を図ろうとしたが、領兵達に取り押さえられた。


 だが、一番捕らえなくてはいけない責任者の男は、その場にいなかった。


どうやら、事前に気づいて逃げた様であった。


 警備兵達は物的証拠を押さえられたので、自慢げであったが、その報告を後で聞いたタウロとしては、この件はまだ解決には程遠いと思うのであった。


 その後、タウロ一行は、取引相手に農作物などを納品したガーデと合流。


 数日ぶりのマーファ村にガーデを送り届け、クエストを無事完了させるのであった。


 それと同時に、マジック収納(中)付きバッグの正式なレンタル契約も結んでタウロ一行は領都の冒険者ギルドに戻って報告、クエスト完了の確認を受けてようやくみんなは一息つく事になった。


「城館に戻る前にご飯でも食べようか。何が食べたい?」


 タウロがラグーネ達に希望を聞いた。


「私はやはり久しぶりにとんかつが食べたいな」


 と、いつものをラグーネが希望すると、


「俺は、みそ肉が食べたいがこっちには無いからなぁ」


 と、アンク。


「ボクはタウロ様と同じものがいいです!」


 と、シオンは相変わらずのタウロ信者ぶりだった。


 と、三者三様、それも、領都では食べられない物ばかりである。


「……じゃあ、竜人族の村に行こうか?」


 みんなの希望を叶えられるのは、竜人族の村しかなかった。


 味噌も、タウロが持ち込んでいたから、竜人族の村では独自の製法で作られ始めている。


 そして、新たなメニューが誕生していた。


 それが、味噌カツである。


 タウロがどちらも持ち込んだ品であった事から、タウロプロデュースのカレー専門店にいつの間にか新メニューとして増やされていた。


「ナゴヤの味がこんなところで!?」


 そう、タウロが持ち込んだお味噌を基に竜人族の料理人が作ったお味噌は八丁味噌だったのだ。


 そして、当然の組み合わせの様にとんかつと合わさり、味噌カツが完成されたのだ。


「ナゴヤってなんですか、タウロ様?」


 味噌カツを前に驚くタウロをシオンが不思議そうに聞いてきた。


「この味噌カツが食べられている本場の事だよ」


 タウロは、思わず前世の地名を口にしてしまったので、そう説明した。


「そうなのか!?こんな美味しそうなもの、もっと早く教えてくれてもいいじゃないか!」


 ラグーネが、味噌カツを前によだれを垂らさんばかりに待機している。


「確かに味噌の良い香りが美味しそうだな」


アンクが匂いを嗅ぐ素振りを見せてそう評した。


「あはは……。竜人族が八丁味噌を独自で作るとは思っていなかったからね。さすが、「1」教えたら、「2」や「3」どころか「10」にするんだもんなぁ」


 タウロは感心すると、みんなで「頂きます」と手を合わせ、味噌カツを堪能するのであった。


 ラグーネもアンクもシオンもこの新メニューに舌鼓を打ち、お替りをする。


 タウロも前世ぶりの料理を味わって、みんなと今回の長いクエスト完了の締めとするのであった。

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