第422話 気になる隣の村
タウロが気になる少年との出会いの翌日。
その少年が住む隣村の村長の使いが、うちの村に訪れてくれる様にと、依頼してきた。
タウロ一行は、マイン村の依頼で一週間指導する事が約束なので、この依頼は断ろうとした。
すると、マイン村の村長が、やって来た。
「よろしければ、隣の村に行って頂けませんか?」
マイン村村長が、突然そう切り出してきた。
「え?……あと数日、ここで教えるのが依頼のはずですが?」
タウロは、他所の村を優先させようとする村長の願いがイマイチ理解出来なかった。
「隣の村にうちは恩がありましてな。あちらの村長が、みなさんを招きたいというのならば、その願いを無下にするわけにもいかないのです。もし、うちとの契約を考えて迷っておられるのなら、うちは大丈夫ですよ」
初日の熱意はどこへらと思う程の手の平返しにタウロも疑問しか思い浮かばなかったが、当人が良いと言っているのならば仕方がない。
「……わかりました。隣村の案内に応じましょう。そちらの用事がすぐ済む用でしたら、また、戻ってきて続きをお教えしますね」
タウロは、マイン村村長にそう約束するとラグーネ達に確認後、隣村に向かう事にした。
隣村は、意外に近く徒歩で一時間ちょっとという距離であった。
不思議なのは、この村は、隠れる様に森の奥にひっそりとあり、隠れ里という印象を与える雰囲気のある村であった。
その為タウロは念の為、ラグーネ達に目配せして警戒態勢を取り、村長宅に案内された。
「ようこそ、おいでになりました。私は、この村の村長を務めている、ガゼと申します。みなさんの事はマイン村の村長や、村民達から評判は聞いています。とても信用のおける腕利きの冒険者さんとか」
村長ガゼは、タウロ達のご機嫌を伺いながら挨拶をした。
冒険者相手に腰が低そうだ。
タウロは、早速、用件を窺う事にした。
案内する村人から少し聞いたが、自分のところでも指導をして貰いたいとの話に、マイン村と近いから、通いでも良いと思うタウロであった。
「こちらの村でも身を守る術の指導をお願いしたいという事でしょうか?」
「まぁ、そんなところです。うちにはクロスという男がいて、その者が以前は村人に剣や弓などを教えてくれていたのですが大きな怪我を負いましてな……」
それはきっとハクの父親の事だろう。
タウロは、村長ガゼの説明を聞きながら、そう判断したのだが村長の話には何か引っ掛かるものがあった。
だが、今の段階ではそれが何なのかわからない。
断るのは簡単だが、そのクロス、ハク親子の事も気になるし、タウロは村長の話の続きを待った。
「……その為、現状この村にはみなさん程戦える者がいない状態です。うちの連中には戦う術を早く学んでもらい、この村と子供を守って貰いたい。それまでの間、みなさんには、この村の護衛兼指導をやって頂きたいのですがどうでしょう?もちろん、報酬は弾みます。──マイン村の二倍は払いましょう!」
「そりゃあまた、うちも高く評価されたな!」
アンクが、報酬の良さに機嫌を良くした。
「……だが、不思議だな。そんなにこの村は何かの危機に瀕しているのか?」
ラグーネの疑問ももっともだった。
マイン村にしろ、この辺りがそんなに治安が悪いようには思えなかった。
もちろん、クロスというハクの父親が魔物に襲われたこの村を守る為、大怪我を負ったというから、強い魔物も出たのだろうが、今のところ、タウロの『気配察知』では、大した魔物は周囲にはいないようだ。
だから、そこまで危機感を感じる状況にあるとは思えなかった。
「世の中には、それとわからない敵がいるものです」
村長は急に意味ありげな事を言った。
「?」
タウロは増々、それが何を意味するのかわからなくなった。
そして、はっきりさせようと詳しく聞く事にした。
「あまりに表現が抽象過ぎてわからないのですが、何かこの村に危機が迫っているという事でしょうか?」
「……あなた方は、マイン村村長から信用できそうだ、と聞き及んでおります。だからこそ雇ってみて、それをまずは確認したい。みなさんの当初の予定の一週間まであと二日。その二日間、ここに滞在して考えて貰えませんか?」
村長は真剣だ。それはわかる。
だが、タウロにはなぜか疑わしく見えた。
それに、マイン村の村長と、このガゼ村長はかなり近い関係の様に思えた。
深く勘繰ると、マイン村長のところから依頼が来たのも、ガゼ村長の意志が働き、たまたま以前訪れたうちの様子を確認して、白羽の矢が立ったのではないかと。
だが、その理由がわからない。
信用できそうな者を探しているのは、伝わってくるのだが……。
「……マイン村の村長には許可を貰っているんですよね?」
タウロは、改めて確認した。
「ええ、もちろん!」
この返答で、タウロはガゼ村長とマイン村長が結託している事がはっきりわかった。
最初からやり取りしていないと、この答えは出てこないはずだからだ。
だが、ガゼ村長は真剣であり、信用出来る者を探している事はわかったので、二日間だけ、という事でOKする事にしたのであった。
村長宅を一旦出ると、そこにはハクが父親らしき男と待っていた。
「タウロ先生!うちに残ってくれるのですか?」
ハクはタウロの姿を見つけるなり、そう質問して来た。
「ハク、客人にいきなりそんな質問をするものではない。──息子が失礼しました。私は、クロスと言います」
クロスと名乗る男は、足を引きずりながらタウロに近づくと挨拶した。
「冒険者チーム『黒金の翼』のリーダーをしているタウロです」
タウロは、足の不自由なクロスに気を使い自分からも歩み寄って、握手を交わした。
「今日はどこにお泊りになる予定ですか?良ければうちにお泊り下さい。息子がみなさんとお話をしたいようですし」
クロスがハクの肩に手を置いて、タウロ達にうちへ来るように誘うのであった。
そこへガゼ村長がやってきた。
「クロス、あんたは体が悪いんだ。あまり動き回らない方が良いぞ。彼らはこれから二日間、この村で村民達の指導に当たって貰うから離れの空き家に止まって貰う予定だ」
会話からは、村長がクロスを心配してる様に聞こえたが、タウロの『気配察知』からはクロスに対して厄介者と思っている雰囲気を感じた。
ハクの話では、クロスは村の人々から尊敬されているはずなのだが……。
タウロは、噛み合わない言葉と気配に増々、この村の状況が把握できないのであった。
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