第414話 村の収入源

 タウロ達は数日、領都周辺の村々を回って運搬と販売を手伝って回った。


 ほとんどは村長の息子ガーデが行く先々で取引を行うが、計算はタウロの方が早かったので、傍で補助的な役割をした。


「驚いたよ。あんたのお陰で大きく計算を間違えないで済む。普段はおおよそで沢山の農作物を渡しているから、渡し過ぎな事もあって後で計算が合わない事があるんだ。はははっ!」


 これまではかなり適当にやっていた様だ。


 まあ、毎回、こんなに沢山の農作物を計算もままならないのに売り捌いていたらそうなっても仕方がないだろう。


 タウロは、仕方が無いので簡単な計算式を地面に書いて教えてやった。


「──こんなのがあるのか!──へー、なるほど!ここがこうなって……、本当だ、ちゃんと答えが出る!」


「これなら、石か枝で地面に書けば、すぐに計算できるでしょう?」


「あんた、本当に凄いな!ありがとう!次からはちゃんとこの計算式とやらで、正しく売り渡す事が出来るよ!」


 ガーデは素直に喜ぶと、タウロに感謝するのであった。


 それを見ていたシオンも、


「タウロ様、今度、ボクにも教えて貰っていいですか?」


 と、聞いてきた。


 どうやら、シオンは読み書き、計算は苦手の様だ。


「うん、いいよ。やる気があるなら大歓迎さ」


 タウロはシオンの意欲に頷くとガーデが村人と交渉する間は、誰かしらシオンの傍で読み書きを教える事になるのであった。


 そんな長閑な時間が流れながらの旅を数日続けていたのだが、領都から少し離れた山村に到着した。


「ここが一番、うちが取引している村の中で領都から離れているところだ」


 と、ガーデが馬車を降りて引きながら、説明した。


 そこへ、山中の村の村民がガーデの姿に気づいて村の方が騒ぎになっているのが、タウロの『気配察知』でわかった。


「あの村は?」


 タウロは、反応が他の村より顕著なので、ガーデにどんな村か聞いてみた。


「ああ、ケイシの村と言って、ここ一帯はあまり農作物が育つには良い土壌とは言えなくてな。いつもうちからまとめて野菜や小麦、あとは飼料なんかも購入してくれている村だ。きっと、俺が来るのを待ちわびているのさ」


「なるほど。……でも、それじゃあ、ケイシの村の収入源はなんなんですか?」


「よくうちは、肉や山菜と交換する事もあるが……、そう言えば最近は金払いが良いな……」


 ガーデは深く考えた事が無かったのだろう。


 タウロに聞かれて言葉に詰まった。


 そうこうしていると、ケイシの村に到着した。


「ガーデさんだったか。今回は来るのが早いから誰かと思ったよ」


 ケイシの村の若い村長が、珍しく自らガーデを出迎えた。


「ああ、村長、今回は自分の村まで往復せずに来ているから早く来れたよ」


 ガーデは、村長自らの出迎えに少し驚きながらも、笑って答えた。


「では、丁度いいから、ここで取引を始めようか」


 村長はそう言うと、村の出入り口で取引を始めようとした。


「おいおい。普段なら村長宅の前でやっているじゃないか。村の出入り口で取引は無いだろう」


 ガーデは自分達の扱いに不平を漏らした。


「う、うむ。今、うちの前は色々とあって、散らかっていてな。客人に見せられるものじゃないんだ。ちょっと待ってくれ」


 村長は慌てて他の村人に視線を送って確認する。


 他の村人は村長の無言の圧力に首を振る。


 どうやら、見られたくないものが村長宅前にあって、今、慌てて片付けている最中なのだろう。


 タウロの『気配察知』でも村の奥は村人達が忙しく動き回っているのが分かった。


「なんだい、村長。最近、付き合いが悪いな」


 村長は良く知っている仲なのだろう。ガーデは村長の不自然な態度に不満を漏らした。


「……すまないな。うちも生活がかかっているから、秘密にしないといけない事もあるんだ」


 村長は、意味ありげな事を告げた。


「──村長、片付け終わりました」


 村人が村長にそう伝えた。


「そうか!──それではガーデ、と護衛のみなさん、奥にどうぞ」


 村長は、かいてもいない汗を拭うとガーデとタウロ一行を案内する。


「……あからさまに怪しいな」


 アンクが、タウロに耳打ちした。


「……」


 タウロはアンクの言葉に頷く。だが、何も言わない。


 誰にでも秘密はあるだろう。


 もしかしたら、村の収入源についてなのかもしれない。


 タウロはあまり追求しない方が良いだろうと思いながら、村長宅前に到着した。


 タウロはそこで地面に葉っぱが落ちているのに目が止まった。


「うん?」


 タウロは、何となく拾う。


「あ、それは!」


 村長がタウロの行動に気づいた。


 タウロはその反応を見て『葉っぱ』を『真眼』で鑑定してみた。


 魔草……遠い南方の大陸で採取される幻覚草の一種。魔薬の原材料。通称『葉っぱ』


 と、表示された。


 村長は急いでタウロの手から葉っぱを取り上げた。


「何だい、村長そんなに慌てて。ただの葉っぱじゃないか……。ははん?最近、秘密にしてるのは、新しい作物を育てているんだろう?それはその葉っぱだな!道理で村の奥には見張りが多く立っていて、奥に通して貰えないと思ったんだよ」


 ガーデが意外にも核心部分を突く内容を口にした。


「!」


 村長は、あまり嘘が付けないのか、明らかに動揺している。


「ガーデ、この事は秘密にしてくれ!貧しいうちの村にやっと出来た収入源なんだ。取引相手の商人からも秘密にしておかないと誰かに真似される、と忠告されていてな。口外厳禁なんだ」


 村長は、バレたので嘘を吐くより、秘密にして貰う事を選んだようだ。


「?そんなに凄い作物なのか?最近、羽振りが良いとは思っていたが……。まぁ、秘密ならもちろん、誰にも言わないさ。それに見た事もない葉っぱ一つでは何の作物なのか俺にはわからんよ。はははっ」


 ガーデは村長の心配を一笑して約束した。


 だが、タウロは知ってしまった。


 この『葉っぱ』は、前世で言うところの違法薬物の原料だろうという事を……。


 村長がどのくらいこの事を知っているのかわからないが、領内巡検使でもあるタウロは見逃せないものであった。

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