第413話 気楽なお仕事
タウロは、このクエストが通常の冒険者ではかなり大変そうだという事に気づいた。
というのも、今回のクエストの条件としてマジック収納の条件は(中)、もしくはそれ以上。
マジック収納付き魔道具でも可、だった事を考えるとこの倉庫の量を考えると、周辺の街や村への出荷作業で、この村との往復は何度も行われるはずだ。
前任者はきっとこのクエスト専門で冒険者をやっていたのかもしれない。
それくらい往復だけで大変そうであった。
「出荷する数日分は、全て今の内に全部回収しておきますね」
タウロはそう答えると、倉庫にぎっしりと入っていた農作物全てを一度で全て収納してしまった。
これには、村長も驚き過ぎて地面に座り込んでしまった。
「た、たまげた……!あんた、マジック収納(大)持ちだったのか……!前任者の冒険者はマジック収納能力は(中)持ちだったが、それでも珍しいから重宝して長い事うちと専属契約して貰っていたんだが、あんたらうちと専属契約する気ないかね?」
村長は、まだ、仕事ぶりを確認していないのに、契約を持ちかけてきた。
そこへ村長の息子らしき人物がやってきた。
「親父、新しい冒険者の人達かい?って……、倉庫の品が無くなっている!もしかしてこの人達、マジック収納(中)以上を二人も持っている人がいるのかい!?」
息子はまさかマジック収納(大)以上を持っている人物はいないと思ったのか可能性が高い方の解釈をした。
「……それが違うのだ、この冒険者さんはマジック収納(大)を持っているみたいだ」
「ほ、本当に!?──あんたらうちと専属契約を結んでくれないか!?」
この辺は親子と言ったところか、同じ申し出をしてきた。
「まあまあ、そう焦らず、まずは仕事ぶりを確認してからでしょう?」
なぜか雇われている側のタウロが宥めるという変な展開になるのであった。
「いや、マジック収納(大)持ちなんて、長い事探してきたが出会った事が無い!これはきっと神の思し召しだ、ここで契約を結ばないでどうするかね!」
村長は、立ち上がるとタウロの手を取る。
「なんなら、この村に家も用意しよう。そうだ、この村のあんたの好みの娘と結婚して貰って定住して貰うのも悪くない話だ!──どうだね?冒険者を辞めてうちの専属にならないかね?」
村長の目は本気である。
そして、その後ろの息子の方も本気である。
タウロは、その二人の雰囲気に気圧される気分になったが、そこは断った。
「僕達にも予定があるので、専属契約はお断りします……」
タウロは仕事を始める前から断るという変な流れに戸惑うのであった。
「そうか……、残念だのう……。まあ、仕事の間、考えておいてくれ。息子よ、街や村のお客さんが待っている。早速、出発してくれ」
「お、おう!わかった。──では、あんたら、馬車に乗り込んでくれ。近くの村に寄りつつ、出荷が遅れているところにも早く届けたいからな」
息子は、準備してあった馬車にタウロ達一行を押し込むと、自らは御者を務めて馬車を出発させるのであった。
「何か展開が早いな」
アンクが、呆れ気味に、ぼやいた。
「すまない。ここのところ、ただでさえ人手不足で出荷が遅れて迷惑を掛けているところがいくつかあってな。うちは、農作物の大量出荷から、他所の街や村から出荷される物もついでに運んだりもしているから、うちが動かないと各街、村の物流が止まるんだよ」
御者を務める村長の息子が、アンクのぼやきを聞き逃さず、謝罪する。
「そうなんですね。確かにマジック収納(中)持ちの人がいたら、誰もかれも頼りますよね」
タウロは村の事情を察して理解を示した。
「マジック収納ってやつは、農作物を新鮮なまま運べる利点が大きいからな、重宝されるんだわ」
村長の息子は馬に鞭を入れながら、背後のタウロ達に説明した。
「その気持ちわかるな。私も出来立てのとんかつがいつでも食べられるマジック収納は重宝している」
ラグーネが、村長の息子に理解を示した。
「そっちの娘さんもマジック収納が使えるのかい!?こいつは驚いた!本当にうちと契約結んでくれないか!?」
村長の息子は御者も忘れて、振り返りタウロ達の専属契約に拘った。
「危ないから、前を向いてい下さい!」
タウロは苦笑いして村長の息子に注意した。
「このクエストが終わったら、僕から提案があるのでそれで納得して貰うしかないです」
タウロが、意味ありげに告げた。
「提案?なんかいい案でもあるのかい?」
「そんなところです。今は、遅れを取り戻す為に、仕事に集中しましょうね」
タウロは、そう答えると、村長の息子に御者の仕事を集中させるのであった。
夕方近く、近隣のそこそこ大きな村に到着した。
「おお、マーファ村のところの、ガーデじゃないか。今回は遅れるんじゃなかったのか?」
村の中に馬車を進めると村内の村民が村長の息子ガーデに声を掛けてきた。
「ああ、新しいマジック収納持ちが見つかってな。他も一気に回りたいから、早めに来た」
「そりゃあ良かった!それじゃあ、いつもの品をいつもの量、村長宅に頼む」
「わかった。今日は、ここに泊まるから宿屋の部屋も空けておいてくれ」
ガーデは、いつものやり取りを、いつもの住民とやり取りするのであった。
村長宅に到着すると、ガーデの指示で、タウロがマジック収納から大量の農作物を村長宅前に出して見せた。
「……いつも通りだな。ご苦労さん。──そうだ、ガーデ。うちの村の卵をまた、他所で捌いて貰いたいんだが大丈夫かい?」
村長はガーデと取引の話をし始める。
「いつものか?わかった。価格はいつもの値段で大丈夫だな?」
「ああ、よろしく頼む」
取引はそれで終了であった。
出荷した分のお金を村長から貰うと、それもタウロのマジック収納に預ける。
これが、このクエストの主な仕事の様だ。
馬車一台と、御者兼村長の息子であるガーデの護衛と、荷物の運搬とお金の管理がタウロ達の今回の任務であった。
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