第412話 領都のクエスト

 領都で平穏に数日過ごしたタウロ達は、冒険者ギルドでのクエストも数件完了して評判は上々であった。


「領都周辺の村などに出張するクエストはありますか?」


 領都の冒険者ギルドはひと際大きく、その依頼の数から掲示板に張り出されているクエストの量は多い。


 ましてや数日前まで余所者だったタウロ達である。


 アンク以外、土地勘はほとんどないので、掲示板で探すより、タウロは手っ取り早く受付嬢に聞く事にした。


「周辺の村にですか?珍しいですね。このグラウニュート支部に最初来た方達は大抵、『都会のクエストが良い!』って言うんですが……。ふふふ、──そうですね……。近くでしたらこれなんてどうでしょう?領都近郊の大きな村の依頼です。ただし、達成報酬が少し低いですけど……」


 受付嬢は珍しい注文をする新参者の冒険者チームに、誰も請け負う者がいないクエストを勧めてみた。


 その差し出された依頼書の内容は、「農作物などの運搬、警護。マジック収納、もしくは、それが付与された魔道具を所有する者が条件。Dランク~Eランクまで。販売の為、周辺の村を回るので長期間の移動あり」と、書かれていた。


「これってDランクでもD-~E-ランク用のお仕事ですよね?」


 タウロは、文字が消えかけている依頼書を目を細めて確認した。


 自分達はD+冒険者だ。


 もうすぐCランク帯になりそうな気もしているだけに、そんな冒険者がこの低い報酬で請け負うと冒険者ギルドの威信に関わらないだろうかと思ったのだ。


「……そうなんですけどね。以前受けていた冒険者チームが引退してしまって、今の冒険者さん達は引き受けてくれないんです……。冒険者ギルドとしては、報酬は低くてもお得意様なので、極力受けておきたいんですよ。──お願いします」


 受付嬢は、タウロが人が良さそうだと思ったのか、祈るポーズをするとお願いした。


「……みんなどうする?」


「いいんじゃねぇか?俺達の目的にも合致するし」


 と、アンクは賛同した。


「そうだな。別に問題ないだろう。仕事内容は楽だが、領都周辺の村を回れるのは、良いのではないか?」


 ラグーネも反対する気は全くない。


「タウロ様が良ければ、ボクは良いと思います!」


 シオンは最初からイエスマンなので、答えは予想できた。


「じゃあ、引き受けようか。──このクエストでお願いします」


 タウロは、みんなに頷くと受付嬢に手続きをお願いした。


 すると、今からすぐ、向かって欲しいらしい。


 何でも現在、その依頼内容の通り、各村を巡る為にも新鮮さが売りだから早く来てもらい、マジック収納に農作物を収納、保存して欲しいのだ。


 タウロはその話を聞くと、まず、用事を済ませる為に一度、魔道具通りで買い物をしてから、その依頼主である村へと向かうのであった。




 その村は、領都の郊外という事もあり、田園風景が一面に広がる長閑な雰囲気であった。


「結構大きな村だな。それに景色が綺麗だ」


 ラグーネが沢山の風車がある村を見て感心した。


「確かこの村は、農作物を各地に出荷して財を成しているところだったかな」


 アンクが、以前に来た事があるのか、記憶を辿る様に言った。


「本当に景色が綺麗ですね。あんな大きな風車も初めて見ます!」


 シオンが、初めての景色に感動して心躍らせている。


「へー。確かに畑も大きいものね。それにしても人口の多い領都以外にも出荷しているのは珍しいね。他の村は自給自足が基本だと思っていたけど」


 タウロが、村長宅を目指しながら疑問を口にした。


「普通はそうだわな。だが、ここの村は見ての通り、領都の食糧庫と呼ばれるほどの量を生産しているからな。沢山生産している分コストも下がって、安く卸せる。他の村にしても自給自足でも生産できない農作物はあるし、安くて美味しいものが手に入るならそっちを選ぶだろう?」


 アンクが、以前の知識を思い出したのかスラスラと説明して見せた。


「なるほどね。僕達はその沢山の農作物を各地の村に出荷する役割なのか」


 タウロはアンクの説明に納得して、依頼内容を理解した。


 そんな会話をしながら小高い丘を上がっていくと、村長宅があった。


 大きい倉庫がいくつも軒を連ねた傍に建つ大きな建物だが、そこまで贅を凝らした雰囲気はない素朴な家だ。


 タウロ達が来るのが見えたのだろうか、その家から一人の男性が現れた。


「もしや、依頼を受けた冒険者のみなさんですかな?」


「はい、D+冒険者チーム『黒金の翼』と言います。依頼主の村長さんですか?」


 老いてはいるが、しっかりとした足取りと精気溢れる目にタウロは、予想を付けて聞いてみた。


「おお!来てくれましたか!私がこの村の村長を務めている者です。早速、うちの倅に付いて村を巡って貰いたいのですがいいですか?」


 余程待ち焦がれていたのか、挨拶も早々に、仕事の話に入ろうとした。


「ええ!?早速ですか?」


 すでにお昼を回っている時間である。


 さすがにこのせっかちさにはタウロも驚いた。


「ところでマジック収納はもちろん、(中)以上でしょうな?助かりましたよ。うちの人間はみな農作業に出ていて出荷まで手が回らないので人手不足で困っているんです。馬車を何台も出すのにもお金はかかりますからなマジック収納持ちの冒険者さんがいるとかなり助かるのですよ」


 村長はそう言うと、隣接する倉庫にタウロ達を導いた。


 倉庫の扉を村長が開くと、中には農作物が詰まっている袋の山が所狭しとびっしりであった。


「まずは、この倉庫のものを収納して頂けますかな。本当なら昨日、他所の村や街に出荷する予定だったものなんですよ。これをまずは、出荷して戻って来て貰ったら、次々とお願いしますぞ」


 村長は安堵からか嬉しそうにお願いする。


「……この量はすげぇな」


 アンクが一同を代表してそう感想を漏らした。


「……思ったよりもさらにスケールが大きなクエストだね」


 驚くアンクにタウロも同意して大きく頷くのであった。

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