第415話 挑発

 山村の収入源である作物が、どうやら違法薬物の原材料になる植物っぽい事にタウロは気づいてしまったから、色々と聞かないわけにはいかなくなった。


「ちなみにさっきの葉っぱの出荷先はどちらですか?」


 タウロが、村長に率直に聞いた。


「?何だいこの坊やは?ガーデのところの丁稚でっちかな?」


 丁稚とは商家などに年季奉公する幼少の者を指す言葉であるが、ガーデのところで働いている子供だと思われた様だ。


「違うさ。うちが臨時で雇った冒険者さ。以前の冒険者は引退しちまったからな。新しく雇ったんだ」


「その歳で冒険者なのかい!へー、それは凄いな……。出荷先は……、──おっと、余所者には話せないなぁ」


 村長は、子供相手と思って油断しかけたが、答えるのを止めた。


「まさかと思いますが、領都に運び込まれていませんか?」


 タウロは、断る相手を気にも留めず、話を続けた。


「なっ!ど、どうして……。いや、さっきも言ったが、うちの大切な収入源だ。話せないと言っているだろう!」


 正直者の村長である。


 タウロにとってはそれだけで十分であった。


「タウロ君、村長も困っているから追及するのは止めてくれないか?」


 ガーデが慌てて間に入った、そして続ける。


「……それじゃあ、これから取引だ。村長、いつもの量でいいかな?」


「あ、ああ。そうだな、いつもの量で頼む。それと──」


 村長が、ガーデとまとめ買いの取引を始めると、そこに新たな客が現れた。


「うん?村長、これは何ですか?今日は、うちとの取引のはずでは?」


 目つきの鋭い商人の格好をした細身の男と、護衛を兼ねているのか剣を腰に佩いた体格の良い男を五人引き連れていた。


「これはこれは、グラドさん!こちらはいつもは数日後に来て、農作物を届けてくれているガーデです。──ガーデ、こちらはグラドさん。うちの救世主である商人だ」


 ガーデは、相手が商人と判って笑顔で握手を求めた。


 商人のグラドは、その握手を無視する。


「村長、今日はうちとの取引の約束をしてあるんだ。ちゃんと優先して貰わないと困るな。それとも、いつでも買える農作物欲しさに、うちとの取引を止めたいのかな?」


 グラドはガーデを見下す様に一瞥すると、高圧的に村長に問い質した。


「申し訳ない!そんなつもりはないんだ!このガーデとは長い付き合いだし、食糧関係では昔から世話になっているから無下にもできないから……。もちろん、グラドさんには感謝こそあれ、取引を止めるなんて事考えた事もないですよ!」


 村長は、大慌てでこの横柄な態度を見せる商人を弁解した。


「わかったか?うちはこの村にとって一番大切な取引先だ。あんたらはとっととその農作物を置いて消えるがいい。うちも時間が惜しいのでな」


 商人のグラドは、ガーデと子供まで混じっているタウロ達を馬鹿にして追い払おうとする。


「それはあなた方がここで仕入れた植物で有害な薬を沢山作りたいからですか?」


 タウロは、何を思ったか駆け引きもせず、相手の核心を突く質問をした。


「!?──何の事だ小僧……?よく見れば、子供が二人も混ざってる冒険者みたいだが、こんな山中の村で行方不明になっても知らんぞ?」


 グラドは、図星を突かれて少し動揺を見せたが、数と質で勝ると判断したのだろう、高圧的な態度は変えず、それどころか引き連れている屈強な男達に視線で合図した。


 屈強な男達は商人の合図で、ゆっくりとタウロ達を囲む様に移動し始める。


 意外に、その動きは素人ではない。


 腕利きの連中の様である。


「……図星ですか。毒も使いようによっては薬になるから、手っ取り早く挑発してみましたが、悪い利用法の方で残念です……」


 タウロは溜息を吐く。


 ラグーネ達は、タウロの考えを察して武器に手をやる。


「村長。この事は誰にも口外しない事だ。さもないと村が災害に遭う事もあるからな」


 商人の男グラドは、これから行う事の口止めを村長にした。


「あわわ……!」


 村長は、どうしたらいいのかわからず、動揺する。


 ガーデもそれは同じで、殺気の飛び交うこの状況に、腰を抜かしそうな状態であった。


 そして、屈強な男達は五人は、それぞれの武器を抜き、構えた。


 剣が二人、槍一人、弓矢が一人、短剣が一人だ。


「大剣の男と、槍の女を先にやるぞ!ガキ二人は、後衛が片付けろ!」


 屈強な男達のリーダーと思われる、剣を握る頬に傷のある男が、仲間に命令して、大剣の男、アンクに斬りかかった。


 そこに、もう一人剣の男が加わる。


 槍の男はラグーネに槍の勝負を仕掛けた。


 弓の男は、サポート魔法を使われると思ったのだろうフード姿のシオンを狙ってすかさず矢を放った。


 それと同時に短剣の男は、小剣を腰に佩くタウロを狙って来た。


 タウロ一行は、各自、すかさず応戦する。


 タウロは短剣の男が小回りを生かして接近攻撃するのを敏捷に躱す。


 と言っても、内心ではこれが中々冷や汗ものであった。


 この人達、結構強い!


 タウロはそう思いながら、小剣を抜くと、短剣男の突きに合わせて短剣を握る手首に軽く斬り付けた。


 短剣男はこのタウロの神業のような反撃の動きに対応できず、負傷すると短剣を落とした。


 タウロはすぐさま、男の懐に踏み込むと、小剣を相手の右足に突き刺し、戦意を奪うのであった。

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