第400話 無事、披露宴を終えて

 タウロ一行は、予定を大幅に超えた日数、村長一家の護衛を務めて無事、ドラ息子と村長の娘の結婚披露宴まで確認する事になった。


 魔法士爵という貴族としては名ばかりの身分でありながらも、街長として裕福な生活を送っている様で、結婚披露宴当日は急遽にも拘らず、街長邸の庭で再度、盛大に行われた。


 披露宴中は村長が娘の嫁入り姿に目を赤くして終始鼻を啜っている状態であった。


 ところが、披露宴の中で、花嫁による両親への感謝の言葉を告げる時になると、


「本当に良かった……!お父さんは嬉しいぞ……!」


 と、村長は、娘からの言葉にそう答えて、大泣きし始めた。


 奥さんが慌てて夫である村長を落ち着かせるのに時間を要したのだが、その涙にもらい泣きしたように、護衛としてついてきていた村の若者の一部も男泣きを始めた。


 どうやら、花嫁に密かな恋心を抱いていた様だ。


 今度は泣いていたはずの村長が、その若者達を慰めて落ち着かせるという変な時間が流れたが、それ以外では結婚披露宴は滞りなく行われ、終始仲睦まじい新郎新婦の姿が印象的であった。


「何も起きずに終わったなぁ」


 タウロが、無事終了した結婚披露宴を意外そうな反応をした。


「うん?そりゃ、めでたい席で襲う連中なんてそういないだろリーダー。村長達は狙われる様な人間でもないしな」


 アンクは笑って答える。


「いや、アンク。タウロを狙った傀儡士だったか?タウロはその事を言っているのだろう。しかし、生きている村民を操るには色々と条件があるから、そうそう何度も同じ手口は使えないと思うぞ?」


 ラグーネがその博識を少し披露した。


「そうなのか?」


アンクが聞き返した。


「ああ。傀儡士だから人形を操るのが手っ取り早いのだが、それだと余程趣向を凝らした人形でない限り、あまり強くない。それに、持ち運びも大変だしな。だが、人なら操る事さえ出来れば、かなり強い傀儡として操る事が出来る事が多いのだ」


「条件ってなんですか?」


 シオンが、興味を持ったのかラグーネに質問した。


「人の場合、傀儡にするには、本人との契約を交わさなければならないんだ。自由を奪うのだからそれなりの条件で結ぶ必要があるのだが、本人の意思を無視した契約は結べない。だから、人を傀儡として操るというのは、条件的には非常に難しいんだ」


「だが、操られていた村人達はそんな記憶なかったみたいだがな?」


 アンクが、タウロを狙った後、のんきに寝ていた村人二人を思い出して指摘した。


「残党は二人組だったんだろう?きっと一人は傀儡士、もう一人は村人に無意識的に契約結ばせた何者かだったんだと思う」


 ラグーネも確信はなかったが、そう推論した。


「……無意識的に……。それって、催眠術とかでもいけるのかな?」


 タウロが、前世の知識を基に聞いてみた。


「催眠術士か!……それなら、可能かもしれない……。──そうか、そうだな。催眠術士なら、傀儡士と契約を結ぶように術をかけてしまえばいい。……なるほど、それで傀儡士は都合よく村人を操れたのだな」


「ラグーネさん。催眠術士が催眠術をかけて、タウロ様を襲わせればいいだけでは?」


 シオンがもっともな指摘をした。


「それだと、操る人は強化されないし、気配も簡単に察知されるから、奇襲の意味があんまりないのさ。傀儡士は操るものを強化出来るし、物の様に使えるから気配察知にもかからずに奇襲が出来るという仕組みだ。──暗殺ギルドはいろんな人材を抱えていたのだな」


 ラグーネは、シオンの疑問に答えながら暗殺ギルドの多種多様な人材の豊富さに感心した。


「じゃあ、また、同じ様に襲ってくる連中が現れる可能性があるな」


 アンクが、そこでやっと、人が多い披露宴会場で襲う方が理に適っていると気づいて周囲を警戒したのだった。


「ははは。大丈夫だよアンク。僕の『気配察知』に引っ掛からない人物は傀儡で操られている事になるから、今回はちゃんとそれを警戒しておいたんだ。それに、あの二人組の気配はすでに覚えているから、次、周囲をうろついたら逃がさないよ」


 タウロは、すでに対策が出来ている様だ。


「さすがです、タウロ様!」


 シオンは、タウロを称賛する。


「そうなると、あの二人組が襲って来るタイミングは、街を出る前、もしくは帰郷の道中の村などかな?」


 アンクが、帰りでのイメージを図に描いて人混みに紛れて襲ってくる可能性を示唆した。


「そうだね。もしくは、魔物を操るパターンなんかもありそうだけど、そもそも魔物に催眠術が掛かるとも思えないから、可能性は低いかな?」


 タウロも、アンクの指摘に納得しながら、色々な可能性を考えてみた。


「どちらにせよ。傀儡士が操るものの距離は短い。タウロの『気配察知』にかからない距離で襲うのは不可能だから、今度は決死の覚悟で来るかもしれないぞ?」


 ラグーネが、警戒する様に指摘する。


「そうですね!ボクもタウロ様が危険に晒されない様に十分警戒します!」


 シオンは鼻息荒く気合を入れる。


「シオンは、それよりも催眠術士に催眠術を掛けられる可能性が高そうだから気を付けて」


 タウロが笑って冗談を言った。


 ガーン


「タウロ様!ボクがそんなに単純に見えるんですか!?……くっ、生きる!」


 シオンは、思いの外ショックだったのか、密かに口癖になっている言葉を口にした。


「ははは!シオンは、本当に変な口癖が付いてしまったな!」


 ラグーネが、そんなシオンをからかうのであったが、


 いや、君の「くっ、殺せ!」の方が、よっぽど変だよ?


 と、タウロが内心ツッコミを入れるのであった。

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