第399話 二人の行方

 娘とドラ息子の結婚は延期になった。


 これは、決闘騒ぎの噂を知っていた住民達は内心納得であったが、結婚式予定の当日、そのまま、ワーサン魔法士爵家と村長一家の盛大なパーティーが開かれたので、誰もが不思議な状況に陥っていた。


「どういう事だ?盛大に祝っているが?」


「結婚流れたんじゃないのか?」


「違うって、延期だとよ」


「どちらにせよ、今日は、祝う事何もないだろう?」


「なんでも、両家が意気投合したとかいう話だぜ?」


「そんなんでいいのか?」


「まあ、めでたいならいいさ。俺達もあやかりに行こうぜ!」


 こんな感じで、よくわからない盛大なパーティーに近隣の住民達も参加して、この日のパーティーは、飲めや歌えのどんちゃん騒ぎになるのであった。



 その翌日の昼。


 タウロ達は、ドラ息子をボコボコにしていた。


 何があったのかというと……。


 パーティーの席でワーサン魔法士爵に、この街に滞在している間、ドラ息子の根性を叩き直すべく剣の稽古の相手をして欲しいと頼まれたのだ。


 とはいえ、タウロ達『黒金の翼』の雇い主は村長であるから、断ろうとしたのだが、村長をはじめ、嫁入りする予定である娘からも強くお願いされた。


 その為、断る雰囲気で無くなり、現在に至っている。



「ほら、治癒ポーションで回復したら、また、一から始めるよ!」


 最初、ラグーネやアンクも一緒に教えていたのだが、この二人、教えるのが下手くそであった。


 というより加減があまりできない。


 ドラ息子は、事前に用意していたポーションでは回復が追いつかないぐらいこの二人に叩きのめされたので、タウロの自前で作った中級ポーションで回復させていた。


「お願いです……。もう許して下さい……」


 ちょっとした刺し傷で騒いでいたドラ息子である。


 二人から受ける負傷はドラ息子にとっては拷問に近かった。


「何事も慣れだよ。慣れたらこのくらいの怪我、快感に変わるかもしれないよ?って、それは駄目か……」


 タウロは自分でノリツッコミを入れながら、ドラ息子を治療する。


 現在のタウロは光魔法の制限がないので治癒魔法系も使えるのだが、マジック収納内にはタウロが日々練習で作ったポーションが大量に余っているので使う事も無いから、治療はポーションで行っていた。


「それは笑えないぜ、リーダー」


 アンクが、タウロのノリツッコミに笑いながら、ツッコミを入れた。


 一人シオンは、その様子を見学している。


 シオンは打撃系の攻撃を使うので、ダメージが内部に効く為、ポーションでの治療が難しいのだ。


 その為、ドラ息子をボコボコにす……、特訓には向いていない。


 だから、見学なのだが、シオンは村長の娘の友達を自負していたから、かなり参加したがっていた事は言うまでもない。


 ドラ息子は、悲鳴を上げながらも、何だかんだタウロ達の特訓に耐えていた。


 弱音は吐くが、逃げ出さない。


 改心した部分があるのだろうか?


 父であるワーサン魔法士爵や、結婚延期したとはいえ見放さないでくれた娘の言葉に心動かされたらしい、というのは聞き及んでいたので、どうやら本当なのかもしれない。


 ドラ息子は、ここから一週間、タウロ達の特訓に耐え、自分が心を入れ替え、変わろうとしている事を全員に示す事になるのであった。


 そんなある日。


 娘が、見学に来た。


 最初、ドラ息子がフルボッコにあっている事に心痛めながら見ていたが、落ち着かなくなり、タウロの手からポーションを貰うと、そのポーションを手にして甲斐甲斐しく治療に当たる様になった。


 どうやら、頑張る姿に娘も義務ではなく心が動かされたようだ。


 これなら、結婚しても上手くいくかもしれない。


 タウロとしては愛の無い結婚というのに抵抗があったのだが、この姿を見て少し安堵した。


 娘もそんな自分に納得したのかタウロやシオンに無言で頷いて笑顔を見せた。


 この二人については最早、お節介の必要はないだろう。


 タウロとシオンはそう確信した。


「でも、特訓は別だけどね?」


 タウロは、そう告げると、治療が終わったドラ息子にすぐ、剣を構える様にと促すのであった。



 こうして、一週間が過ぎ、早くも再度結婚式が計画される事になった。


 なんでもドラ息子が、娘に改めて結婚を申し込んでOKを貰えたらしい。


「わずか一週間でも嫌いな相手から、運命の人に変化する事があるんだねぇ……」


 恋愛には疎いタウロであったが、この二人の経緯を見てしみじみとそう思うのであった。


「タウロ様は、どうなんですか?」


 シオンが、フード姿を解いて、猫耳姿を現すとタウロに聞いた。


「どうって?」


「運命の人いないんですか?」


「運命の人?うーん、どうだろう?その時が来たらどんな気分になるのかわからないから、気づかないうちに運命の人が通り過ぎてるかもね」


 タウロは笑ってシオンの質問に明確に答えず笑って有耶無耶にしようとした。


「エアリスさんという人は?」


 どうやらシオンはラグーネ辺りからエアリスの事を聞いたのだろう、気になっている様だ。


「エアリスか……。そう言えばどうしてるんだろうね。彼女は侯爵令嬢としてその義務を果たす為にと、このチームを後にしたから」


「ラグーネさんが言うには、元気にしているそうですよ」


「そうらしいね。双子の弟妹が出来て毎日が楽しいらしいよ。でも、シオンはなんで会った事がない人を気にしてるの?」


「ボクとしては、タウロ様には幸せになって欲しいですから!」


「?」


「……エアリスさんと……」


 さすがにシオンも踏み込み過ぎたと思ったのか言葉を濁した。


「?──僕は、今も十分幸せだよ。シオンやラグーネ、アンクという仲間に囲まれて冒険が出来ているからね」


 タウロはシオンの意図する事がわからなかったが、笑顔でそう答えるのであった。

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