第397話 決闘の行方
ドラ息子は、開始の合図と共に、タウロに猛然と斬りかかった。
タウロは意外に俊敏で鋭い剣先に驚きながら、それをギリギリで躱す。
ドラ息子の決闘用の剣は『軽量化』が付与されているとはいえ、ちゃんと形になっていると思われる剣技だ。
「良く反応出来たな!腐ってもD+ランクの冒険者か……。だが、俺の剣の指南役はCランクの元冒険者だった男。その、指南役に俺は勝てる。それがどういう事かわかるよな!」
勝ち誇ったようにドラ息子は言った。
「その冒険者が、手加減してあなたに負けて上げてたんですね?」
タウロは本気か冗談か神妙な面持ちで答えた。
「違うだろ!Dランク帯のお前じゃ俺には勝てないって事だよ!」
ドラ息子は、宣言するとタウロの首に鋭い一撃を振るった。
それもタウロは身をかがめて難なく躱した。
「くっ!動きだけは一人前か!」
ドラ息子は、そう吐き捨てると、剣の『軽量化』能力で鋭い剣を次々に繰り出してきた。
タウロもこれには真剣な表情で決闘用の小剣を構えるとそれで防ぎ、受け流したりと、観戦者達からみると防戦一方に映った。
ドラ息子の取り巻き連中は、ドラ息子の一方的な展開に、歓声を送る。
「坊ちゃん、いいぞ!」
「こっちが圧倒的じゃないか!」
「ガキー!怪我する前に負け認めちまえよ!」
言いたい放題である。
だが、タウロは冷静であった。
観戦者達の声もはっきり聞こえていたし、動きも見えていた。
ドラ息子の剣技は大したものだが、しかし、相手が悪かったとしか言いようがないだろう。
サイーシの街で元Aランク帯冒険者の教官からあらゆる武芸の基礎を徹底的に叩き込まれて多くを学び、冒険者として実戦を重ねて、命のやり取りを日々繰り返してきた。
タウロの場合、大の大人でも経験する事が珍しい様な修羅場を、この年齢で潜り抜けて来ているのだから格が違った。
ドラ息子の剣の指南を担当した元Cランク帯冒険者は、多分、お金の為に加減して機嫌を取り、報酬を沢山貰って去ったのではないだろうか?
ドラ息子の腕前は、確かにDランク帯冒険者並みに鋭いが、それだけであった。
型はあるがそれだけで何の工夫もなく、先が読める。
合理的な動きはあっても予想通りの動きである。
タウロレベルなら、ぬるいと感じるものであった。
観戦者も最初、一方的に攻撃を繰り出すドラ息子の圧勝を信じて疑わなかったが、タウロが余裕をもってその攻撃を躱している事にやっと気づき始めた。
徐々に、この子供冒険者が凄いのではないかと、ひそひそと話し始めた。
「逃げてばかりじゃ勝負にならないぞ!」
と、挑発するドラ息子。
だが、その言葉の後には、息切れで大きく呼吸する音が聞こえてくる。
それに反して、タウロは呼吸一つ乱していない。
「じゃあ、反撃していいんですか?そうなると、結婚前に骨の一本や二本、折れる事になると思いますが?」
タウロは冷静にそう答えた。
タウロのその言葉に、ドラ息子は顔が引きつった。
自分は一方的に攻撃しながら一度も当てる事が出来ず、大きく息切れしているのだ。
自信満々であったドラ息子にも一抹の不安がよぎったのだ。
自分よりも強いかもしれない……、と。
そこへ。
「リーダー、手加減無しでいいんだぜ!医者も治療用のポーションもあっちは用意してんだ。手足の骨、砕いちまいな!」
アンクが、タウロを煽る。
「そうだぞ。タウロ!こういう奴には、格の差を思い知らせてやった方が良い!」
ラグーネもアンクの煽りに便乗した。
「そうです!タウロ様を馬鹿にする愚か者には厳しい制裁を!」
シオンはちょっと、本気な部分の方が多い気がするが、二人に同意して煽って来た。
「坊ちゃん、ハッタリだ!ガキも疲れてないわけないぞ!」
「そ、そうさ!坊ちゃんの方が強いって!」
「た、多分、勝てると思うぞ!」
段々、ドラ息子の取り巻きも雲行きが怪しく感じたのか応援する声にも自信が失われていた。
「……。──わ、わかっていると思うが、お前の護衛対象である花嫁の夫になる男だからな、俺は?」
ドラ息子は一旦、タウロと距離を取って呼吸を整えながら、タウロに警告する。
「何の関係も無いと思いますが?」
タウロは、ドラ息子に立ちはだかる様に圧力をかけながらゆっくりと近づき、そう答えた。
「俺の間合いに不用意に入ってきたな!食らえ!一の閃『小鬼斬り』!」
ドラ息子を、そう叫ぶと、これまでない鋭い斬撃をタウロに繰り出した。
「わぁー、凄い」
タウロは、棒読みな台詞で答えると、片手でその斬撃を跳ね上げた。
タウロの子供とは思えない膂力にドラ息子の剣は真っ二つに砕け、その刃先が回転してドラ息子の右肩に軽く突き刺さった。
刃先が潰されているとはいえ、勢いがあれば刺さるものである。
ドラ息子は、「ぎゃっ!」と叫ぶと、折れた剣を離して膝をついた。
「そ、そこまでだ!勝負はついた!」
痩せた神官風の男が、慌てて止めに入ろうとしたが、
「本人が負けを認めなければ、まだ勝負は終わりませんよ。腕の一本でも折らないと流石に負けを認めないでしょ」
と、タウロが、左手で神官風の男が割って入ろうとするのを制した。
「ま、待ってくれ。お、俺の負けだ!誰か早く治療してくれ、痛ぇよ!」
決闘相手の無慈悲な言葉に、顔面蒼白になったドラ息子は慌てて降参すると、タウロから見たら大した事はないと思える怪我を、大怪我でもしたかのように騒ぎ始めた。
「……え?もう終わり?」
タウロは、念入りにお灸を据えるつもりであったのだが、呆気なく勝負はついたのであった。
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