第394話 自慢の冒険者
村長達一団と、イーヒトン商会の一団が、しびれ薬から治療されて目を覚ました時には、タウロ達『黒金の翼』が、盗賊達を一網打尽にして、ひっ捕らえた後であった。
目を覚ますと三十人近い盗賊が縛り上げられている状況に、村長達とイーヒトン商会一同はただ非常に驚き、そして、その為に活躍したであろうタウロ達に思いつく限りの謝意を述べた。
「さすが、カクザートの街一番の腕利き冒険者チームですな!」
村長は、タウロ達を絶賛すると、とても満足そうであった。
なにしろ雇ったのは自分であり、ついでだが、イーヒトン商会の代表も助ける事になったのだ。
それはつまり、雇い主である自分の手柄だと、頭の中で都合よく変換した様だ。
「こちらもみなさんのお陰で助かりました、感謝します。──まさか、あの者達が盗賊だったとは……。うちの護衛達からも忠告は受けていたのですが、己の不明を恥じるばかりです」
イーヒトン商会代表は、そう言って恥じ入った。
「それで、この盗賊達の処置ですが、近くの街に人を走らせて領兵を連れて来て貰うか、途中までこちらから連れていくかですが……」
タウロ達は村長達一家の護衛なので、傍を離れるわけにはいかない。
「それは、困るな……。こちらは嫁入り前の娘を連れている身だ。それに時間も惜しい。近隣に人を走らせ、領兵がくるのを待っている余裕はないし、ひっ捕らえた盗賊を引き連れていくなど縁起が悪い……。──ひと思いに殺してしまうか?」
村長は意外に容赦がない事を言う。
「村長さん、それはそれで花嫁入り前の娘がいるのに、殺傷沙汰で血を流すのはそれこそ縁起が悪いですよ」
タウロは、村長の極論に異を唱えた。
「それならば、私共がこの盗賊達を近くの街にでも届けましょう。こちらも命と財産を救われましたから。──そうだ、盗賊討伐は、名誉な事、引き渡す時に、みなさんの事も伝えないといけません。お名前をよろしいですかな」
イーヒトン代表は、感謝と共にそんな役割を引き受ける事を進み出て、タウロ達の素性を知りたがった。
タウロ達は自分達の自己紹介を簡単にした。
「……なるほど。カクザートの街の冒険者さんですか。『黒金の翼』、よく覚えておきましょう。それにお礼もしなければなりませんな。この盗賊達に賞金もかかっている可能性もありますから。これをお納め下さい」
イーヒトンはそう言うと、お金の入った大きめの袋を、タウロに渡した。
「こんな大金受け取れませんよ!」
タウロは驚いて、突き返した。
「ははは。タウロ殿、こう言っては何ですが、私はイーヒトン商会の代表です。もし、ここで命を失っていれば、もっと大きな損失を出していたと思います。だからこれでも少ないくらいですよ。それともし、何か困った事などありましたら、近くの商会の支店にお声をお掛け下さい。いつでも協力できる体制を作っておきますので」
イーヒトンは、タウロにそう答えると、改めて大きめの袋を渡すのであった。
「雇い主である私も鼻が高いな!わはは!」
村長のアリマーがここぞとばかりにイーヒトンにアピールする。
「村長さんにももちろん感謝しておりますよ。これからはそちらの村との取引にうちの者を派遣しましょう。よろしくお願いします」
「おお、それはいい!訪れる商人が多いに越した事はないですからな。わはは!」
村長の言う通り、出入りする商人が増えれば、それだけ村は活気づく。
そうなれば、村長の株も大いに上がるというものだ。
タウロは村長の逞しさに舌を巻くのであった。
イーヒトン商会の一団と別れる時、タウロは村長に気づかれない様に、イーヒトンにこの伯爵領の巡検使である事を名乗り、その証拠の品も見せた。
「なんと!グラウニュート伯爵直属の巡検使様だったとは知らずに失礼しました!」
イーヒトンは、膝をついて謝ろうとするので、タウロは慌ててその行為を止めた。
「こちらも言いそびれました。領兵には、僕の名前を出して頂ければ、すぐに盗賊の引き渡しの手続きは済むと思いますので」
「わかりました。引き渡しの際は、そう告げておきます!」
そんなこんなで捕らえた盗賊達をイーヒトン商会に任せると、タウロ達花嫁御一行は目的地であるワーサンの街に向けて旅程を進むのであった。
その日、到着した村。
村長の娘である花嫁が、この夜、タウロにお礼が言いたいと面会を求めてきた。
嫁入り前の娘に会って良いものかとも思ったが、みんなで会う分には構わないだろうという事で、会う事にした。
「今回は全く被害を出す事なく私達を助けてくれてありがとうございました」
娘は、深々とお辞儀する。
そして、使用人が、隣で静かに立っている。
「いえ、僕達は雇われている身として、仕事を果たしただけですよ。あと、今回活躍してくれたのは、シオンなので、彼女に言って上げて下さい」
タウロは、シオンを前に出してそう答えた。
「シオンさんが?凄い!私と歳が変わらないのに、三十人近い盗賊をどうやって倒したんですか!?」
娘は目を輝かせてシオンの手を握って詰め寄る。
彼女はやはり、元々活発な性格なのだろう。
シオンが、慌てながら少しずつ説明する様子に、興奮しながら聞き入り、シオンの身振り手振りに自分も真似したりと活躍に心打たれている様であった。
「私もそんな活躍する様な冒険をしてみたかったわ……」
ひとしきり話が盛り上がった後、娘はそうポツンと漏らした。
「実は私、本当はまだ、お嫁には行きたくないんです。でも、あちらの街長の身分は魔法士爵。領主様であるグラウニュート伯爵様のお気に入りだとか……。だから、断れる話ではないんです……。父は、いい話だと手放しで喜んでいますが、私にはとても……。そうだ!みなさん、私を連れて逃げてくれませんか?婚姻の儀に出なければこの話は流れるかもしれません!……さすがにそんな事出来ませんよね。すみません、忘れて下さい……」
娘はこれまでの溜まっていたものを吐き出すと落ち着いたのか現実に引き戻されて答えると、用意されている自分の部屋に帰っていくのであった。
「……こればっかりは、どうしようも出来ないかな……」
タウロは、娘の背中を見送りながら、誰に言うでもなくぽつりとつぶやくのであった。
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