第393話 狂戦士、活躍【告知あり】
タウロは、イーヒトンが同行を許していた旅人五人が、盗賊である事に気づいた。
そこに加わる様に、村長の護衛に付いていた旅人も合流する。
「どうやら、最初からうちは標的の一つだったみたいだね」
タウロはこの状況をそう理解すると、アンクを『状態異常回復』魔法で、回復した。
「……すまないリーダー。どうやら、木の器にしびれ薬を塗られていたみたいだ」
アンクが、油断していた事を謝罪した。
「僕もまんまと引っ掛かったから、同罪だよ」
「タウロ様、みんなも回復しますね」
シオンは、麻痺の回復魔法を心得ているらしく、治療に移ろうとした。
「いや、シオン。みんなの回復は後でいいよ。それより今は……」
タウロはそう答えて指を刺した先の森の一部から土煙が上がり、それがこっちへ向かっているのが分かった。
「騎馬で三十人程だな」
ラグーネが、土煙の大きさから数を推定した。
「何で貴様ら俺が用意した特製のしびれ薬が効きやがらない!?──おい、あいつらには飲ませなかったのか!?」
旅人五人組のリーダーと思われる男が、ずっとタウロ達が痺れて倒れるのを待っていたのだがその気配がない事に驚くと、部下に確認した。
「子供だから、飲まないというので、理由を付けてひと舐めさせましたぜ!?」
手下はそう答えて慌てた。
「それは、僕達が、耐性持ちだからですよ。その人は悪くないです」
タウロは、手下を叱るリーダーを止めた。
「た、耐性持ちだと!?特製のしびれ薬が全く効かない耐性持ちなんて聞いた事がないぞ!」
「ですよねー。僕も耐性が付くような人生歩んでる事がびっくりです」
タウロは、冗談か本気かわからない受け答えをする。
なにしろラグーネとシオンも同じ耐性持ちである。
アンクの反応がまだ、普通なのだ。
「……言っとくがリーダー。俺も麻痺系には多少は耐性持ってるからな?それでも効いたのはそのしびれ薬がかなり強力だって事だ」
アンクは、自分の名誉の為に言い訳をした。
「そうだぞ。お前らが異常なだけだ!」
敵のリーダーが、アンクを擁護する。
変な共感しないで……。
タウロが、内心でツッコミを入れていると、騎馬に跨った盗賊達三十人程が到着してしまった。
「よし、お前ら、四人程、薬が効かなかった奴らがいるが、ほぼ予定通りだ!そいつらはやっちまえ。あとは金目の物を頂いて、ずらかるだけだ!」
敵リーダーが到着した盗賊達にそう命令する。
「首領!あの小僧は、マジック収納を持っていて、村長一家の金目の物はあの小僧が預かってます。だから締め上げて出させる必要がありますぜ!」
村長の護衛に付いていた旅人が首領と呼ばれる男に知らせた。
「何?それを先に言いやがれ。そのガキは殺すなよ。拷問でもして収納してる物、全部出させろ!」
首領は本性を出して殺意満々である。
「タウロ様を拷問などさせないぞ!」
シオンは、タウロの危機とばかりに、前に進み出ると怒って見せた。
「フードのガキは、殺して構わねぇ。しびれ薬が効いている連中は、売り飛ばすから縛り上げろよ。あとはやっちまえ!」
首領がそう命令すると盗賊達は馬から降りて、思い思いの武器を手にしてタウロ達に迫って来た。
「やれやれ、この数だと手加減してる暇ないぜリーダー」
と、アンク。
「そうだな。私も同意見だ」
と、ラグーネ。
「それなら今回はボクが、代わりに戦います!」
と、シオンが一歩前に出た。
確かにシオンの得手は拳である。
剣や槍、弓矢と違って殺さずに倒す手加減が出来るのかもしれない。
だが、さすがにこの数は大変だろう。
「シオンだけに戦わせるわけにはいかないよ。多少は死人が出ても仕方ないよ。どちらにせよ盗賊行為は縛り首だろうし」
タウロが、今回の方針を決める。
「さっきから聞いてりゃ。こいつらガキが二人もいるのに舐めてやがるな。お前ら、大人の怖さを見せてやれ!」
「「「おう!」」」
盗賊達は首領の命令に応じると一気呵成に一番前のシオンに襲い掛かった。
ラグーネとアンクが、流石にマズいと思ったのかシオンの両脇を固める様に前に出た。
だが、シオンはそれに構う事なく、さらに前に突っ込んでいく。
「馬鹿!」
アンクが、止めようとした時だった。
盗賊達の真っただ中に突っ込んだシオンの姿が、見えなくなったと思った次の瞬間であった。
爆発が起きたかの様にその周囲の盗賊達が円形に吹き飛んだ。
その中央には、フード姿のシオンはおらず、大きな黒い猫の姿の何かがいた。
「あはは……。『狂戦士』発動しちゃったか……」
タウロが、状況を理解した次の瞬間、大きな黒い猫姿のシオンは、囲む盗賊連中に襲い掛かった。
シオンの一挙手一投足に敵は吹き飛び、次々に戦闘不能になっていく。
「……リーダー。あれ、手加減できてるのか?」
シオンの戦いぶりにアンクが呆気に取られて聞いた。
「うーん……。とりあえず、僕達は巻き込まれない様に、距離を取っておこうか」
タウロは、答えるとラグーネとアンクを下がらせるのであった。
見る見るうちに、敵は仲間が減っていき、逃げるのを忘れる程に、呆気なく戦闘は終了した。
タウロがシオンに、
「そこまでだよシオン!」
と、声を掛けたところで、シオンは止まったのであったが、首領と呼ばれた男は、シオンの拳が眼前で止まったところで、失禁して気を失った。
「シオンの『狂戦士』能力、凄まじいな……!」
アンクが、正気に戻ったシオンの頭をポンと叩くと、賛辞を送った。
「『狂戦士』を、操れること自体が特殊なんだが、シオンは記憶はあるのか?」
ラグーネが感心してシオンに聞いた。
「はい、記憶はありますよ。でも、怒りと高揚感でちょっとフワフワしているというか……。──タウロ様の声を聞くと、地に足が付く感じがします」
と、シオンは『狂戦士』状態の感触について答えた。
すでにシオンは、大きな猫状態から、いつものフード姿に戻っている。
「『狂戦士』状態は凄いけど、僕がいないところでは使わない方がいいかもね」
タウロは、そうシオンに忠告すると、盗賊達を縛り上げつつ、しびれ薬で横たわる人達の治療に当たるのであった。
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ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます。
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近況ノート↓
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