第391話 道中の話

 深夜の思わぬ奇襲で慌てたタウロであったが、ぺらのお陰で無事難を逃れる事が出来た。


 襲ってきた村人二人は、タウロを襲った記憶などあろうはずもなく、目が覚めた場所がテントではなく、森の中だった事に驚いたくらいであった。


 野営地に戻るとラグーネとアンクもさすがに目を覚ましていたが、何が起きたのかタウロに確認を取って来た。


 一部始終を説明するとラグーネが、


「それはタウロの想像する通り、『傀儡士』の可能性が高いだろうな。操られている間の人や魔物は、物の様に気配が無くなるので感知系だと中々気づかない事が多いから、暗殺などに使われる事が多い。ただ、操るにしても条件が色々あるから、使い勝手は良くないと思う。欠点としては比較的に近距離での操作になるから、『傀儡士』自身が見つかる可能性が高いのだけど、今回は護衛の中に紛れ込んで操作してそれを避けた感じなんだろうな」


 と教えてくれた。


 タウロはすぐ、護衛の中から誰が消えたのか調べると、二人組の旅人がいなくなっていた。


「あの二人か!リーダーを知ってそうな感じがあったからな。当初の目的地もカクザートの街だと言っていたみたいだから、リーダーの暗殺が目的の残党だった可能性が高そうだ」


 アンクが、二人組の旅人を思い出してそう推測した。


「タウロ様の命を狙うとは許せません!」


 シオンは怒り心頭といった感じである。


「今回もぺらに助けられたよ。ありがとうね、ぺら」


 タウロは革鎧の表面に擬態しているぺらを撫でると、その表面がプルンと震える。


 褒められて嬉しい様だ。


「まあ、だが、これで内部の問題は解決したって事でいいんじゃないか?狙ってきた二人組は今後近づいてきたらさすがに気づくだろうし」


 アンクは問題が取り除かれた事を良い方に捉える事にした様だ。


「そうなんだけど……。僕の当初の想定では違う人が問題を起こすと思っていたんだよね……」


 タウロは、意味ありげに言うと首を傾げた。


「どうしたのだタウロ。何か問題がまだあるのか?」


 ラグーネが、タウロの言葉に聞き返した。


「もしかしてもう一人の旅人の方か?あれは確かにちょっと小者っぽい雰囲気出してたまにきょろきょろしてるよな」


 アンクが、挙動の怪しい旅人を思い出して指摘した。


「でも、実際に問題を起こしたのは二人組の方でしたから、思い過ごしだったという事ですね」


 シオンが、そう言ってまとめた。


「みたいだね。最近ちょっと『気配察知』が、ちゃんと仕事してくれないや」


 タウロは笑ってみんなにそう答えると、明け方まで時間があるのでそれまで仮眠する様に促すのであった。



 そして、朝。


「まさかあの二人が、お尋ね者だったとは……」


 村長のアリマーは意外だったのか驚いていた。


 昨晩は、騒ぎに気付かず熟睡したままだったのだ。


「はい、二人は逃げてしまいましたが、今後の事もあるので見かけたら警戒して下さい」


 と、タウロは、忠告する。


「うむ、わかった。──まじめな男達だと思っていたのだがなぁ。どうやら自分には見る目がないらしい」


 村長は、そう言って溜息を吐くのだったが、次の瞬間には気持ちを切り替えたのか、出発準備を告げるのであった。


「ではみなの者。今日はさすがに遅れを取り戻さないといけないから、昨日以上に早めに進む予定だ。気合を入れてくれよ!」


 村人達は、昨日以上と聞いて顔が青くなる。


 昨日の段階で限界な者が多かったのだ。


 そこへ今回の村人達のリーダー格であるコーサが、前に出て村長に懇願した。


「村長、さすがに昨日以上の速さで進むのには無理がある。せめて交代で半数くらいは馬車に乗せられないか?」


 村人達はコーサの意見に賛同して頷く。


「嫁入り前のうちの娘と一緒に乗せられるわけがあるまい!他の荷台の馬車にはそれぞれ荷物が載せてあるんだ乗れるスペースなどないぞ」


 村長は村長で引く様子がない。


「村長、出発前にも話しましたが、荷物に関しては僕がマジック収納を持っていますので、そちらに一時収納しますよ」


 タウロも村人達の味方をする事にした。


 どう見ても昨日より速いペースで進んだら脱落する者が出て来るは目に見えている。


「それでは、途中に通過する村々の連中に対する面子が……」


 見栄を張りたい村長は、タウロの案に異を唱える。


「それならば、通過する村の手前で荷物を戻し、その時だけみんなには歩いて貰いましょう。それならば、予定が狂う事なく進めるのではないでしょうか?」


「うーん……。だが、通行人もいるからのう……」


 村長はそれでも考え込むのであったが、コーサが、


「村長!村人とあんたの面子とどっちが大事なんだ!それが嫌なら俺達は残念ながら引き返すぞ!そうなったら、それこそ村長の面子は台無しじゃないのか?」


 と、言って迫った。


「それは駄目だ!……わかった。タウロ殿の案で進む事にしよう。──さぁ、みんな時間が惜しい、急いでくれ!」


 村長の言葉に村人達はわっと歓声を上げる。


 タウロがマジック収納で馬車内の荷物を一瞬で収納すると、「おお!」と、驚きの声が上がり、そしてその馬車に村人達は続々と乗り込んでいく。


「それでは、出発するぞ!」


 村長は、タウロに確認すると、御者に馬車をすぐ出す様に促すのであった。



 それからの進行速度は速かったが、通過する村の手前では下車して、自分の村の裕福さを示す様にゆっくりと進んでいく。


 村人達もその辺は村一番の美女である村長の娘の為でもあるので、堂々と胸を張り、物々しく歩いて見せるのであった。


「村長の娘の嫁入りでこれだと、貴族とかはもっと大変なのかな?」


 タウロはこの行列の先頭を進みながらそう思うと、貴族の養子になった自分の将来をちょっと心配するのであった。

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