第390話 気配を感じない相手

 村長家族にタウロ達の分の料理を売る事になり、再度料理を作り直す事になったのだが、周囲から強い視線を向けられているのに気づいた。


 それは、他の村人達を含む護衛の人々だ。


 調理していると良い香りがずっとその場で猛威を振るい、傍らでは村長家族が、


「こんなに美味い料理、食べた事がない!」


「本当だわ!初めての味よ!」


「タウロさん、冒険者ではなく料理人を目指せるわよ!」


 などと、絶賛するものだから、いよいよ空腹も相まって殺意が生まれてもおかしくない状況になって来た。


「……村長さん。護衛のみなさん達の為にお金を出す気はありますか?」


 タウロも鬼ではないが、慈善活動で振舞う気もない。


 一番は村長に費用を出させて丸く収めるのが一番だろう。


「うん?──なんだこの殺伐とした雰囲気は!?……仕方ない。食費は元々こちらの負担だ。だが、皆の者、予定の食費より高くついているのだから心して食べてくれ」


 村長が作るわけでもないのだが、そう勿体ぶるとタウロにお金を支払う。


「……賢明な判断です」


 タウロは村長に小声で言うと、改めて食材をマジック収納から大量に出して調理をし始めるのであった。


 村人達は我先にタウロの前に行列を作る。


 もちろん、順番的にラグーネ達を優先して渡していくが、そこは誰も文句を言う者はいない。


 行列の最後の方に旅人二人組の護衛と、独り者の旅人もいたのだが、独り者の方はお礼を言ったが、二人組の旅人はタウロを警戒しているのか無言で頭を下げると料理を受け取ってすぐ離れていった。


 周囲ではタウロの料理に舌鼓を打った村人達がその味を絶賛している。


 そこへタウロが、


「ご飯のお替わりなら、銅貨一枚で提供しますよ」


 と、提案すると、村人達からすぐに歓声が起こり、またタウロの前に行列が出来始めた。


「お前達、食べ過ぎて明日動けないなんて事が無いようにな」


 村長は、そう注意しながら、自分もご飯のお替りの列に並ぶ。


 いや、あんたもかい!


 タウロは内心でツッコミを入れて苦笑いしながら、ご飯のお替りをよそっていくのであった。


 途中、ラグーネ達がご飯をすぐに食べ終わり、作業を代わってくれたので、タウロもゆっくりと食事をする事にした。



 みんながお腹一杯になって満足する頃、タウロもお替りのご飯をシオンにお願いした。


「タウロ様、先に食事を済ませてすみません」


 シオンが詫びながらご飯をよそってくれた。


「ははは。僕達は仲間だよ。食べられる時に食べられる人が先に食べて交代するのが普通だから気を使わなくていいんだよ。ところでシオン、本当は様付けしなくていいんだけど……それは駄目なのかな?」


「ボクの中でのタウロ様の評価なのでこれは変えられません!」


 シオンは、自分にとっての英雄、救世主であるタウロの願いも、断固拒否した。


 そこは、一歩も引けないこだわりらしい。


 中々頑固な性格の様だ。


「うん。過大評価されてるみたいで気になるけど、わかった。今後、いつでも呼び方変えていいからね」


 タウロは苦笑いして答えると、ご飯を受け取って食事を済ませるのであった。



 明日も早いので、見張りを置いてほとんどが就寝する事になった。


 村長家族は、すでに二つのテントの中でそれぞれ寝てしまっている。


 村長の鼾が聞こえてくる中、タウロ達も最初の見張り役をラグーネに任せて各々就寝するのであった。


 その夜中、タウロが見張りの番が終わり、シオンを起こす。


「あ、僕、用を足してから寝るから」


 眠気に目を擦るシオンにそう言い残して、タウロは森に入っていった。


『気配察知』で、周囲を警戒するが、遠くに魔物の気配は感じるものの近くに感じない。


 多くの人の気配を感じて魔物の方が避けていると思われた。


 群れでも現れない限り、簡単に襲われる事もないだろう。


 タウロはそう思いながら、ズボンを下ろして用を足し始めた。


 ちょろちょろちょろ……


 用を足して身を震わせた時だった。


 ぺらがタウロの鎧の表面から突然擬態を解き、素早い動きでタウロの顔を掠めて背中側に移動した。


 そして、次の瞬間、ガキンという金属音がタウロの背後から鳴り響く。


「敵!?」


 タウロは慌ててズボンを引き上げて、背後を振り向いた。


 そこには、護衛の村人二人が、タウロに対して剣を振るう姿があった。


 その剣をぺらが体を薄く延ばして弾く。


「気配を感じなかったけど!?」


 驚くタウロ。


 まして、相手は村人二人だ。


 何かのスキルかとも思ったが、タウロには『アンチ阻害』能力があるから、阻害系で誤魔化せるわけがない。


 タウロは小剣を抜きながら、村人二人と対峙しながら観察した。


 二人とも目を瞑っている。


 というより意識がないのか、ゆらゆら動いてるのが分かった。


「操り人形みたいな動きしているけど……、もしかして操られている?」


 タウロは、村人が斬りかかって来るのを、受け流すと周囲に目を凝らした。


 そこへ剣の撃ち合う音を聞きつけたシオンが駆け付けて来た。


「タウロ様、大丈夫ですか!」


「シオンは周囲を警戒して、村人を操っている人物がいるはずだよ!」


 タウロは、『気配察知』に掛からない敵を警戒しながら、斬りかかる村人の剣を払いのける。


 ぺらは、すぐにタウロの革鎧の表面に擬態して戻る。


 もう、危機は乗り越えられたと判断した様だ。


 するとタウロは『真眼』を通した『気配察知』でずっと”察知”していたシルエットが動き出すのが分かった。


 それは、野営地で就寝している者達のものだった。


 どうやらこちらから聞こえる剣の交わる音に起きてきたのかと思ったのだが、二つの人影は自分達とは逆方向に離れていくのが分かった。


「うん?」


 タウロは、村人二人をシオンと共に、殺さない様に取り押さえている最中だったので、この動きをよく理解出来なかったが、『気配察知』から離れていくと取り押さえていた村人達の抵抗もやみ、大人しくなった。


 とういうより、寝息を立て始め、タウロの『気配察知』にも正常に察知できるようになった。


「これは……。『傀儡士』スキルの能力かな……」


 『傀儡士』とは、人や魔物を特定の条件下で物の様に操る事が出来るスキルだ。


 タウロも話にしか聞いた事がなく、初めて遭遇したので確信を持てなかったが、どうやら今回の旅の同行者にその『傀儡士』が混ざっていて、自分の命を狙ったらしい。


 狙われる理由は……、やっぱりあれかな?


 狙われる理由がハッキリ思い当たるタウロであったが、取り押さえた村人が心地よさそうに寝言をつぶやくので、気抜けするのであった。

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