第389話 護衛で出発

 護衛任務である出発の日が訪れた。


 二日間の間に、指揮する村人達、旅人達とは、一応、段取りについては簡単に説明してある。


 護衛対象である十五歳の娘である花嫁、その家族である村長とその妻、使用人一人の乗る馬車はもちろんの事、この日の為に村長が奮発して用意した嫁入り道具を乗せた馬車、さらにこちらも村長が大金を費やして集めさせた、街長に納める品々が乗せられた馬車と計三台を、二日間護ってワーサンの街まで送り届けなけらばならない。


 正直、物を満載させた馬車を二台も引き連れるより、自分がその荷物をマジック収納で回収してしまい、護衛の人間を全員馬車に乗せて急いだ方が効率が良いとタウロは提案したのだが、村長曰く、「見栄えが良くないから、このままで良い」という事だった。


 ワーサンの街までの道すがら、通行人や、通りすがりの村々に、ゼンユの村の村長の娘の嫁入りはこんなに盛大なんだとアピールしながら進みたい様であった。


「今どき、そんな見栄を張って目立って、盗賊なんかに狙われたらどうするのかね?」


 アンクが、タウロの耳元で囁くのであったが、タウロは、


「だからこその護衛なんだよ」


 と、笑って答えた。


「自分の村の裕福さをアピールするのも村長としては大事なのだろう。あとは、娘自慢かもしれない」


 ラグーネも理解を示した。


 そんな話をしていると、村長が村人達に挨拶をすると、出発する事になった。


 馬車三台の脇を護衛であるタウロ達が早歩きで付き従う。


 タウロ達『黒金の翼』一行は、全員慣れたもので、平気であったが、他の徒歩の者達はこれだけ早いペースで歩くのは大変で、村人の護衛は、しばらくすると息が上がり始めた。


 その度に、少し休憩を入れる事になる。


「こりゃ、時間がかかるな」


 アンクが、ぼやいた。


「村長にちょっと話をしてくるよ」


 タウロは、そう言うと、休憩している村長のところまで、赴いた。


 丁度、馬車から降りて、水を飲んでいるところだ。


「村長、このままでは時間がかかる可能性が高いので、やはり、荷物は僕のマジック収納に入れて、護衛を馬車に乗せた方が早いと思います」


「いや、嫁入りはゼンユの村の力を誇示する場でもある。こればっかりは譲れんよ」


 村長は頑なにそう答えると、タウロの意見を聞き入れようとしない。


「……わかりました。まだ、しばらく様子を見てみますが、護衛に支障をきたす様であればその時は、改めて考えて下さい」


 タウロは、そう釘を刺すとみんなの元に戻っていくのであった。


「私達は良いが、村人達はこの感じだと一日でへばってしまいそうだな」


 ラグーネは歩き疲れて座り込み、休憩している村人達を見てそう口にした。


「明日の朝、また、村長に言ってみるよ。今日はなんとか村人達には頑張って貰うしかないね」


 タウロは、苦笑を浮かべると、そう答える。


「でも、まだ、お昼ですが、夕方まで持つでしょうか?」


 シオンが、村人の様子を見て、そう疑問を口にする。


「その時は、シオンの光魔法と僕の体力増加ポーションで頑張って貰うしかないだろうね」


 何も無いところで最終手段を使いたくないが、日程を考えるとそれも仕方がない。


「わかりました。疲れている人達を、ボクがサポートします!」


 シオンは、タウロに言われると、頼られている様で嬉しかったのか気合を入れた。


「ははは。最終手段だから今は、村人には自力で頑張って貰うよ」


 タウロは、シオンの快いやる気に、自然と笑いが生まれるのであった。



 その日の夕方。


 案の定というか、途中、休憩しながら進んでいたので、予定より遅れてしまい、宿泊予定であった村まで辿り着く事が出来なかった。


 これ以上は、暗い中進むことになるので、早めに野宿の準備をする事にした。


「やれやれ……。やっぱり、遅れたなリーダー」


 アンクが、野宿の準備をする村人達を見つめる中、タウロにぼやいた。


「まぁ、致命的な時間ロスではないから、まだ、大丈夫だけどね。──それじゃ、僕達も野営の準備しようか。村長達の護衛もあるから、ラグーネとシオンは護衛に残って。僕とアンクが準備するから」


 タウロは、そう告げると、マジック収納からテントや、魔道具ランタン、四人用の小さい窯に薪、調理器具、食器や、食材などを出す。


 アンクはその傍でテントを張り始めた。


 タウロが慣れた手つきで窯に火の精霊魔法で火入れをし、調理の為に材料を切り始めると、他の村人達は冒険者であるタウロの手際の良さに、感心した。


「やはり、冒険者っては手馴れてるなぁ」


「おっと、俺達も早くしないと」


「誰か火種になる枝、集めて来てくれ!」


「テントも張らないといけないんだ、誰かやってくれ!」


 村人達は要領が悪くバタバタしていたが、そこに一足早く、タウロが本格的に食材を調理し始めて、一帯にいい匂いが漂い始めた。


 これには村長家族も胃が刺激されたのか村人達を急かした。


「ほら、みなも早くしないか!」


 だが村人達の動きは鈍い。


 なにしろ日中は、ずっと馬車に合わせて早歩きして体力も限界だった。


 だから急かされても動けないのであった。


 そうしてる間も、タウロはラグーネ達の分の料理も作っていく。


 村長はタウロ達の方からのいい香りに、限界が来たのか、


「タウロ殿、その料理をこちらに売って貰えないだろうか?」


 と言い出した。


「人数分しか作っていないのでさすがにそれは……」


 タウロは護衛に付いていたラグーネとシオンを呼んで、さっさと食事を済ませようとしていたので、渋った。


「頼む!お金はちゃんと支払う。丁度四人分どうかね?」


 村長は余程お腹が減っているのか、銀貨を数枚出してきた。


 護衛の仕事はまだまだ続くのだ、これ以上渋って雇い主の機嫌を損ねたくない。


「わかりました。料理はマジック収納に保存してあった炊き立てのご飯と、作り立てのオーク肉の生姜焼きと、オークの骨と野菜などから出汁を取って味を調えたスープです。美味しいですよ」


 タウロは、そう答えて村長に出来立ての料理を渡すと、改めて自分達の料理を作り直す為にマジック収納から食材を取り出すのであった。

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