第388話 染物の村での二日目
染物の村ゼンユで出発までの二日間を過ごす事になったタウロ達一行はその間の昼間、村人達とも交流する機会があった。
村長宅の庭での事である。
タウロが腕っぷしに自信のある年上のコーサを怪我もさせずに勝った事で、他の若者達はタウロに棒術を教わりたがった。
「僕は本当に棒術は専門外だから……」
タウロは集まって来る若者達にそう答えて断っていた。
「おいおい、お前ら。うちのリーダーは何でも出来るが、得手は弓矢と片手剣だぞ」
アンクがタウロと若者の間に入って、そう説明する。
「得意じゃないのに、うちのコーサに勝ったのか?じゃあ、体術を教えてくれよ!」
「確かに!あれも凄かった!コーサが一瞬で地面に倒れていたもんな!」
「俺もあれやってみたい!」
若者達はタウロが年下という事で気軽な気持ちで迫ってくる。
「お前達、私達はDランク帯冒険者チームだぞ。そのリーダーであるタウロはこの歳でも、その辺の冒険者も一目置く存在なのだ。少々失礼が過ぎるぞ」
ラグーネもタウロと若者の間に割って入った。
「タウロ様に失礼な態度は許しません!」
シオンも礼儀の無い若者達の間に入って押し返した。
「こっちの坊主も強いのか?」
間に入って来たシオンを若者のひとりが指さした。
タウロと変わらない身長でフードを目深に被り、存在感が薄いシオンである。
若者から見たら、とても弱そうに見えるのだ。
「……おいおい。リーダーの次はシオンに対して失礼な態度か?」
アンクが、さすがに頭に来たのか若者達をひと睨みした。
若者達はその鋭い目線に、
「ご、ごめんなさい」
と、思わず謝った。
「シオン、ちょっと相手して上げたら?僕なんかより体術が優れているところを、その体に叩き込ん……教えて上げたらどうかな?」
タウロは、道中こちらの指揮下に入って護衛に当たる若者達も中にはいるので、仲間が舐められたままは良くないと思ったのでそう提案した。
「体術なら俺もコーサくらいには自信があるぜ」
若者の中でも大きな体躯の若者が前に出てきた。
小さいタウロやシオンと比べたら、巨人と小人である。
コーサを相手にしなかったリーダーを務めるタウロが強いのは実際に見て認めるが、その脇で気配を殺して大人しいシオンは、確かに弱そうに見える。
世間を知らない若者達はそれだけで、自分でもDランク帯冒険者に勝てるかもしれないという幻想を抱くのであった。
「……良いんですかタウロ様?かなり弱そうですけど……」
シオンは、この体の大きな若者が余程弱く見えたのかはっきりそう言ってしまった。
「!──なら、俺を倒してみろよ!」
巨体の若者は、小さい子供のシオンに憤るといきなり掴みかかった。
シオンは、その手を軽く払いのける。
巨体の若者は払われた手が思いの外痛かったのか、顔を一瞬歪めたが、改めて掴みかかる。
シオンは今度はその掴みかかる両手をかいくぐり懐に踏み込むと、次の瞬間何をしたのか巨体の若者の体は軽く宙を舞っていた。
宙を舞った巨体の若者はお腹の中の内容物を吐き出しながら、落ちてくる。
落ちてきた巨体の若者をシオンは体を横にずらしてかわすと、片手でその若者が吐瀉物の中に倒れ込まない様に支えるのであった。
巨体の若者は、白目を剥いて気絶している。
シオンは巨体の若者を横にすると、すぐ回復魔法でお腹の治療をするのであった。
この一連の流れを見ていた若者達は、今度はシオンの下に集まった。
「あんたすげぇな!」
「体術も出来て、回復魔法も使えるって、天才か!?」
「あの宙に浮かせたのどうやったんだい!?」
若者達はシオンを触ろうと詰め寄るのだが、シオンは素早い体捌きでそれをかわし、タウロの後ろまで逃げるのであった。
「みなさん、シオンは女の子なので不用意に触ろうとしないで下さい。触った場合は僕達が容赦しませんよ?」
ラグーネとアンクが各々の武器を掴む素振りを見せて、若者達の礼儀の無さに軽く警告するのであった。
「ご、ごめん……。まさか女の子だとは思わなかったんだ。一見華奢な体であの巨体のデンを浮かせたから、とんでもない筋肉してるのかと思ったんだよ、本当にごめん」
若者達は口々にそう謝るのであった。
若者達の言う事もわかる。
シオンの怪力は想像以上だ。
タウロの場合は装備の能力も含めての怪力だが、シオンは元から備わったものだろう。
荷物持ちとして鍛えられた事にプラスして竜人族の村での修行の成果でさらにその力が増しているのかもしれない。
手加減してこれだから、本気を出したらと考えると頼もしい限りである。
「護衛任務では、みなさん僕達の指示にちゃんと従って下さいね。もしもの場合、従わずに命を落とす可能性もありますから」
タウロは若者達を見渡すとそう注意喚起するのであった。
そこに村長宅の窓越しに村長の娘が声を掛けてきた。
「シオンさん本当に強いのね!」
娘は自分の事のように喜んで拍手する。
「タウロ君もさらに強いのでしょ?みなさん本当に凄いのね!」
娘が絶賛すると、それを見て若者達はデレデレ顔になっていた。
どうやら、村長の娘は村のアイドル的存在なのかもしれない。
それが、他所の街に嫁ぐのは悲しい事だろう。
もしかしたら彼らは最後まで見届けようと護衛に立候補したのかもしれないと思うタウロであった。
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