第387話 染物の村での一日
タウロ達は、当日護衛を務めるという腕利きの旅人と、腕っぷしに自信がある村人達の合計十人と顔合わせをする事になった。
その中には棒で手合わせしたコーサも混ざっていたが、実力差を知った為か大人しくしていた。
腕利きの旅人は二人組と一人の計三人で、二人組は数日前にカクザートの街に向かう途中で村に立ち寄ったところ、腕を見込まれて雇われたらしい。
もう一人は、十日くらい前から染物に興味を持って訪れた者で、こちらも腕っぷしに自信がある村人よりは腕が立つという事で雇われていた。
「今回の花嫁の護衛の指揮を受け持つ事になり、冒険者ギルド・カクザート支部からやってきたチーム『黒金の翼』のリーダータウロと言います。僕が子供という事で不安になる方もいるでしょうが、ちゃんとD+の冒険者ですのでご安心下さい」
タウロは自己紹介をすると、ラグーネ達にも簡単に挨拶をさせた。
そして、当日の編成、夜間の見張りなどについて説明していく。
村人達は、タウロがコーサを簡単に圧倒したのを見ていたので腕については信用していたが、指揮については多少疑いの目を向けていた。
しかし、タウロが説明を始めると、とても具体的で分かり易く理に適っている様に思えたのですぐに納得し始めた。
ラグーネとアンクはその様子を見て安心して頷き、シオンは村人と一緒に、熱心にタウロの説明を聞いているのであった。
「この様な感じで、一週間近くの護衛はやっていく予定です。質問があったら今の内にお願いします」
タウロは村人達を見渡し、最後に旅人三人に確認を取った。
さっきから旅人三人の気配についてタウロは気になっていたのだ。
「……我々は問題無い」
と、旅人二人組。
「俺も、詳しく説明して貰ったから問題ないな」
と、一人の旅人。
タウロはこの三人の反応に違和感を感じるのであった。
二人組の気配は自分達『黒金の翼』の存在を知っている感じだったし、一人の方は熱心に話を聞いていたが、誰にも心を許していない感じなのが気になった。
タウロの能力『気配察知』にも限界があるので、それ以上はわからないから、今は放置する事にするのであった。
その夜、村長宅に呼ばれる事になった。
タウロ達は出発までの二日間の村での宿泊先に、空き家を当てが割れていたのだが、旅人達は三人で一つの空き家らしい。
「冒険者のみなさんには娘と顔合わせして貰おうと思いましてな」
村長はそう言うと、部屋の奥に向かって声を掛ける。
「おい、シータ。こっち来てお前を護衛してくれる冒険者のみなさんに挨拶しなさい」
「はい」
奥から返事が聞こえると、一人の娘が現れた。
歳は十五歳、透き通るような白い肌に茶色の髪、華奢だが芯のありそうな輝きを持つ茶色の瞳をしている。
相手に見初められたらしいが、確かに美人だ。
村長のアリマーも自慢の娘なんだろう、
「美人でしょう?めでたくワーサンの街長の息子に見初められたのは幸運でしたよ」
と笑って話した。
「お父さん、止めて。──え?」
娘シータは気乗りしないのがハッキリしていたが、タウロとシオンを見てびっくりしていた。
「失礼ですが二人はおいくつなんですか?」
「?──僕は十三歳、こちらのシオンは十四歳です」
タウロが代表して答えた。
「二人とも私より年下なのに立派な冒険者さんなんですね。素敵です。冒険者はやっぱり楽しいですか?」
シータは、本当にそう思っているらしく『気配察知』にもその感情が伝わって来た。
「大変な事も多いですが、僕は楽しいですよ。シオンは最近仲間になったばかりだからこれからだよね?」
タウロはシータに素直に答えるとシオンに話を振った。
「ボクもタウロ様と一緒に旅が出来る事になって楽しいですよ!」
シオンは、フードを目深に被ったままであったが、顔を上げると元気よくそう答えた。
「あら、シオンさんは女性なんですね。声でわかりました。十四歳の女の子で立派に冒険者しているなんて凄いですね」
シータは同世代の女の子がいた事に喜んだ様子だった。
「ボクは凄くないけど、タウロ様は凄いんだよ!」
シオンはシータの誉め言葉に照れながらも、崇拝の対象であるタウロの自慢話を始めた。
「ちょっと、シオン!みんなに僕の話してもつまらないから!」
タウロは慌ててシオンを止めに入る。
「いやいや、D+冒険者の話を聞ける事は中々ないですから、私も聞きたいですな!」
村長アリマーは最近塞ぎ込んでいた娘の表情が明るくなったので、喜んで話を促すのであった。
それに嬉々としてシオンがタウロの冒険譚を話始める。
タウロは、流石にシオンに話をさせると竜人族によって美化されたものがさらに誇張されてしまいそうだと止めた。
シオンはとても残念そうであったが、竜人族が関係した話をするわけにもいかないから、タウロが冒険者になったきっかけやこれまでの冒険を掻い摘んで話す事にしたのであった。
村長家族と娘シータは、タウロの冒険譚に驚き、溜息を吐き、興奮しては歓声を上げるのであった。
「なんとタウロ殿は苦労されてますな……」
村長は、一通りタウロの冒険譚を聞き終わると感心した。
「本当にそんな体験をしてる事が羨ましい。私もそんな冒険をしてみたかったわ」
どうやらシータは、性格的には活発なタイプの女性なのかもしれない。
だが、白い肌を見る限り、あまり外には出ていないと思われるから、余程大切に育てられたようだ。
「わはは!シータはこれからワーサンの街で楽しい生活が待っているだろう!」
村長は娘シータの嘆きの言葉を笑い飛ばすと、そう励ますのであった。
しかし、シータの表情から察するに、結婚を望んでいないのが伝わってきて、不憫に思うタウロであった。
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