第383話 超過死の危機

 『創造魔法』唱え、自分の手の平から光が漏れ出る瞬間、タウロは背筋に危険なものを感じて電流が走った。


「やばい!これは、問答無用で死ぬやつだ!」


 タウロはシオンの『双対乃籠手』作成時に危険を感じた経験がある。


 今回はそれが有利に働いた。


 とっさに、『創造魔法』の詠唱を止めたのだ。


 それでもタウロの魔力は根こそぎ持っていかれるのを感じる。


 それと同時に自分の意識も瞬時に奪われ、飛ぶ感覚だ。


 途中で中止したのに、それでも死ぬ!?


 タウロはこれまでにないほどの死への確信を覚えると、なす術もなくその場に倒れるのであった。


「タウロ様!」


 シオンは、タウロが意識を失って倒れ込むのと同時に、駆け寄るとすぐさま自分の魔力を注ぎ込み始めた。


 ラグーネは、魔力回復ポーションを口に含むとタウロの食道に注ぎ込む。


 アンクはその場で心臓マッサージを試みた。


 その場は一気に慌ただしい緊張状態に陥った。


 二階から仕事をしながら様子を窺っていた父グラウニュート伯爵もこの事態にすぐ気づいて庭へ駆け下りてきた。


 グラウニュート伯爵は、一部始終見ていたので、無駄に時間を浪費して問い質す愚を犯さず、自分の魔法使いの部下にシオンと共に魔力を注ぐように指示する。


 シオンは瞑想した状態で自分の魔力を回復しながら、魔力をタウロに注ぎ込み続ける。


「シオンに誰か魔力回復ポーションを横から飲ませろ!」


 アンクが、心臓マッサージを続けながら、グラウニュート伯爵の手の空いている部下に指示を出した。


 部下は慌てて、タウロの傍で瞑想した状態のシオンの口元にポーションを差し出し飲ませた。


 その時だった。


「……くはっ!」


 タウロの呼吸が戻った。


 そして、脳裏に世界の声が、聞こえてくる。


「特殊スキル【&%$#】の発動条件の1つ<運以上のものを手繰り寄せし者>を確認。[幸運]から[豪運]に能力がランクアップされました」


 運が、ランクアップ!?


 タウロが驚いていると、さらに『世界の声』が、聞こえてくる。


「特殊スキル【&%$#】の発動条件の1つ<死の淵を大きく飛び超えし者>を確認。[能力限界突破]を取得しました。どの能力に適用しますか?」


 というこれまでにない問いの様なものが。


 ……え?


 タウロは『世界の声』からの問いに困惑する。


「どの能力に適用しますか?」


 再度の『世界の声』からの問い。


 タウロは思わず、頭に浮かんだのは、今回の原因となったものであった。


 ……『創造魔法(弱)』?


「『創造魔法(弱)』の限界突破を確認。『創造魔法』に、ランクアップされました」


 ……。


 ……これで終わり?


 このやり取りは時間的には一瞬の出来事であった。


 周囲はタウロが生き返った事に沸き返り、シオンやラグーネはタウロに抱き着いている。


 アンクは、その場にへたり込み、疲れた表情で安堵していた。


「リーダー、今回は流石にもう駄目だと思ったぞ?」


 アンクは、タウロが目を開き、周囲を確認しているのに気づき、そう声を掛けた。


「……僕もあまりに魔力が持っていかれ過ぎて超過死オーバーキルで助からないと思ったよ……。みんなありがとう。特にシオンからの魔力注入は良かったみたい。実験場所も人がいるここで良かったな……。みんなの迅速な対応で、僕助かったよ」


 タウロは生き返ったばかりとは思えないくらいに話すと、グラウニュート伯爵はほっと安堵の息を吐き、その場に座り込んだ。


「タウロ、流石に目の前で死の淵を彷徨われると心臓に悪いぞ……」


 そう言ってタウロの頭に手を置くと続けた。


「しかし、助かって良かった。目の前で子供に死なれたら私も立ち直れないところだった」


 グラウニュート伯爵は、再度、安堵の息を吐くと立ち上がり部下達に指示する。


「タウロを寝室に運べ。午後の予定は全てキャンセルだ」


「父上、僕はもう大丈夫ですよ!」


 タウロが、これ以上は迷惑をかけられないと慌てて答える。


「馬鹿者、死にかけた人間が、大丈夫なわけがあるか。今日は、一日安静にしていなさい」


 グラウニュート伯爵の目は全く怒っていなかったが、心配は沢山しているのは伝わってきた。


「……わかりました。すみません」


 タウロは安心から泣き始めたシオンと、安堵のあまり強く抱きしめるラグーネの二人に抱き着かれたまま、反省するのであった。


 念の為担架で寝室まで運ばれたタウロはベッドで横になり、ひとりやっと冷静になって今回の能力について考え始めた。


 思わず『創造魔法』の限界突破という選択をしてしまったが、今、冷静に思うと『真眼』の限界突破が良かったのではないかと思わずにはいられなかった。


「『真眼』なら、人物鑑定とか他の能力の開眼もあったかもしれない……。選択失敗したなぁ……」


 タウロは死んだらそれどころではない話だったのだが、その事は置いておいておき、後悔するのであったが、もう選んでしまったものは仕方がなかった。


「『創造魔法』は(弱)が取れたけど、何が違うのかな……?」


 タウロは早くも実験したい気分であったが、流石に十分前の騒ぎの後である。


 毎回こんなノリで死にかけているので、今回は流石に自重する事にした。


 そして、思う。


『創造魔法』は、元々その存在からも、諸刃の剣である。


 使い方も大事になってくる。


 やり過ぎると後々面倒な事になるし、今回の様に一発即死の目に遭う危険性も孕んでいる。


 最近は加減がわかったつもりになっていたのだが、やはりこれまで通り、使うのは控えるのが一番の様だという答えに至るタウロであった。

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