第384話 支部長からのお勧めクエスト
タウロ達『黒金の翼』は、改めて新メンバーであるシオンとの連携を確認する為、冒険者ギルドにやって来ていた。
「あ、タウロ君達、ちょっと待ってて下さい。支部長が大事な用事があるそうなので」
受付嬢のアーマインがタウロ達に気づくと、急いで支部長を呼びに行った。
するとすぐに支部長室からスキンヘッドが煌めく支部長が出てきた。
「『黒金の翼』はこっちの部屋に来てくれ」
支部長はそう告げると、タウロ達を応接室に手招きする。
「……悪い事じゃないよね?」
タウロが何となく警戒する。
「先日のお礼だろ?支部長も就任したばかりのギルドであんな事起きたから忙しそうにしてて俺達と何も話せてないからな」
アンクが、タウロの心配を否定した。
「ああ、そっちか。てっきりギルド内で殺傷沙汰起こした件が問題化したのかと」
タウロは苦笑いすると、支部長が手招きする応接室に入っていくのであった。
「『黒金の翼』には、色々とこのギルドは迷惑を掛けてすまなかった」
支部長は、頭を下げると額を机に付けた。
「いえ、支部長さんは就任直後ですし、副支部長の犯行は止められなかったと思います。僕達は偶然巻き込まれた感じというか首を突っ込んだというか……。そんな感じなので支部長さんが頭を下げる事ではないですよ」
タウロはそう答えると支部長の頭を上げて貰った。
「そうか、すまんな。こちらとしては『黒金の翼』にD+ランクからC-ランクに上がれる様に良いクエストを用意することぐらいなんだが、知っての通り、この支部は周囲に魔物が少なく比較的平和な街だから冒険者の平均ランクも低い事で有名だ。うちで高ランクのものと言ったら、暗殺ギルドの残党狩りクエストなんだが、なぜかこの手のは冒険者登録もしていない余所者が解決していてな。このカクザートの街は特に街長邸に捕らえられた残党がよく届けられるらしい」
支部長が話を脱線させてそう語った。
あ、竜人族のみなさんだ……。
タウロは竜人族の族長リュウガからの伝言をカクザートの街にいる竜人族に伝えたのだが、この街にも暗殺ギルドの残党を狩る為に、一人二人残っている様だ。
他の竜人族は各地に散って同じように残党狩りをするというので、冒険者登録を勧めておいた。
だから近い内に、凄い新人冒険者現る、という噂が各地から聞こえてくるだろう。
暗殺ギルドの残党さん、ご愁傷様です……。
タウロは、内心でちょっと同情するのであった。
「それでご用件は?」
タウロが支部長に本題に入って貰う様に続きを促した。
「ああ、それでひとつ割のいいクエストがあってそれを『黒金の翼』に勧めたいと思ったんだ。依頼主はギルドで一番腕の良い冒険者を派遣して欲しいという事でもあるし、どうだ?」
「どういった内容でしょうか?」
「このカクザートの街近郊にある村の村長の娘が同じく近隣の街長の下に嫁ぐ事になったらしいから、その護衛任務だ。フリークエストの格付けなので受けてくれるなら色々と融通しよう」
それはつまり、クエストを完了した暁には昇格に必要な貢献値を沢山付けるという事だろう。
「融通の方は大丈夫です。特別扱いはしなくて結構ですよ。それよりも──」
タウロは、ラグーネ達に視線を送る。
「護衛クエストか。こういのは実際、何も起きずに往復して終わりというのが普通だよな」
アンクが、暗につまらないクエストと指摘した。
「ふむ……。だが、カクザートの街周辺のクエストならば、タウロの任務にも向いているのではないか?」
と、ラグーネが指摘した。
「任務?」
シオンは何の事かわからずに不思議そうにしている。
「ラグーネの言う通り、周辺を巡ってみたいというのはあるから渡りに船かな」
「そういう事なら仕方ないか。刺激は少ないが、リーダーの勉強にはなるか」
アンクも納得する事にした。
シオンはまだ、理解出来ずに不思議がっている。
シオンには詳しく言い忘れていたので、あとで自分が領内巡検使を任されている事を説明しておこう。
「それじゃあ、みんないいかな?」
タウロは確認を取るとみんなが頷いた。
事情が分からないシオンも、みんなに釣られて何度も頷いている。
「では、支部長さん。お引き受けします。詳しく聞かせて貰っていいですか?」
「それでは──」
そこから詳細を説明して貰った。
どうやら、その村の村長の娘が街長の息子に見初められ、結婚話になったらしい。
領内でも一番の染物で有名な村という事で、裕福らしいが街長と村長では格が違う。
村長としては街長のところに娘を嫁がせて男の子でも生まれれば儲けものである。
それで大きな街で一番の冒険者を護衛に付けて奮発しようというものだった。
少しでも箔をつけたいというところだろう。
聞けば嫁入り道具も周辺から派手に取り寄せているとかで、その護衛も含まれている。
タウロはマジック収納を持っているから、その辺りはベストな人選だろう。
他にも護衛は村人や現地で雇った腕利きを付けているらしいが、それらもまとめて欲しいらしい。
聞けば聞くほど面倒が多そうではあったが、アンクが指摘したつまらない事にはならなそうであった。
「──それでは、明日朝一番で、その村に赴きたいと思います」
タウロは支部長との質疑応答でクエストを把握すると頷く。
「だが本当にいいのか?貢献度は高く設定できるのだが?」
「それなりに大変だった時は、お願いします」
タウロはそう冗談を言うと退室するのであった。
「その嫁入りの娘は、十五歳か。リーダーやシオンと歳は変わらないのになぁ。まあ、田舎ではよくある事だが」
アンクが、親父臭い事を言い出した。
「ふふふ。アンクも親になっててもおかしくない歳だから、そう思うのも仕方がないな」
ラグーネが珍しく人をからかう様に言う。
「おいおい。確かに俺の歳ならそうだが、今どきは成人してもすぐに結婚する事は少なくなっているんぞ?それにいつ運命の出会いがあるかわからんのに──」
「あはは。アンクの口から運命の出会いという言葉が聞けただけでも、驚きだね」
今度はタウロが笑ってアンクをからかう。
「ボクはタウロ様とは運命的な出会いだったと思ってますよ!」
シオンは、興奮気味にタウロの前に出て鼻息荒く告げる。
「はははっ!みんな運命の出会いだったんだよ。その出会いの結末がどうなるにしてもね」
タウロはそう答えてシオンのアピールを煙に巻くのであった。
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