第382話 未知の植物の創造

 タウロは父グラウニュート伯爵との面会を終えると、その街長邸の庭を借りて実験をさせて貰う事にした。


 父グラウニュート伯爵は、仕事が忙しいので立ち会えない事を残念そうにしていたが、執務室の窓から時折こちらを見ているのがわかる。


 逆に仕事が捗らない様な……。


 タウロは、父の視線を感じながら実験を始めた。


「まずは、一通り素材を出して……っと」


 タウロは、実験の準備に必要な素材をマジック収納からいくつも取り出した。


「実験って『創造魔法』を使用するものなのか?」


 アンクが、タウロの準備した素材を眺めながら聞いてきた。


「うん。あ、シオン。もしもの時に備えて、僕に魔力の補充ができる様に準備しておいてくれる?」


「え?は、はい!タウロ様、いつでもお任せ下さい!」


 シオンは、指名されたので頬を上気させつつ、タウロの傍に来て、身構えた。


「じゃあ、やるね」


 何をしようとしているかと言うと、タウロはこの世界に存在しない植物の種を作れないかと考えたのだ。


「『創造魔法』!」


 いくつもの素材を抱きかかえてタウロは魔法を唱えた。


 普段よりもまばゆい光がタウロの手元で発せられるとタウロの手元には、いくつもの種らしき粒が、抱えられていた。


「……出来た!」


 タウロは、完成した種を抱えた脇からいくつもこぼしながら、興奮気味に言葉を漏らした。


「タウロ、それは何の種何だい?」


 ラグーネが、タウロの手元を覗き込むと、種をひとつ指で摘まんで眺めて見せた。


「その種はね?僕のイメージ通りなら、醬油の実が出来る種なんだ」


「ショウユ?」


「そう、この世界には存在しない僕が考えたオリジナルの植物の種だよ」


 タウロはそう説明すると、魔力回復ポーションで魔力を回復しながら、説明する。


「ゼロから、イメージでだけかよ!?……リーダー、さすがにそれは大丈夫なのか?」


 アンクが、恐る恐ると言う感じで種を摘まんで確認した。


「試しに一つ、育ててみよう。──『植物成長促進魔法』!」


 タウロが、魔法を唱えると、地中に埋めた醤油の種が大きくなり、芽を出すと成長していく。


 蔓が伸びて地面に這う様に広がると、等間隔を置いて実が出来ていく。


 そこでやっと、タウロは魔法を止めた。


「……ふう。結構魔力使ったかも……」


 タウロはすぐに魔力回復ポーションを使って魔力回復する。


 その間、シオンはずっと緊張状態で身構えていて、タウロに何かあった場合に備えている。


「あ、シオン。もう、大丈夫だよ?ありがとう」


 タウロがそんなシオンに気づくと笑って労った。


「……これで、この実から醤油が出てくれば成功だけど……」


 タウロは、コブシ大で卵型の茶色い実を蔓から一つもぎると手にした。


「お、硬い。これも、イメージ通り。じゃあ、先を斬り落としてと……。──おお!醤油の香りがする!成功だ!」


 タウロは、実の中から漂う醤油の香りに成功を確信した。


 味見もしてみると、そのまま醤油である。


「……どれどれ。──しょっぱいなこれ。でも、深みがあってちょっと甘い気がする。これ、何に使うんだリーダー?」


「料理だよ。アンクは興味がないだろうけど、調味料として醤油はいろんなものに使えるからね。喜ぶ人は多いと思うよ。それにこの種の良いところは、この塩湖の地でしか育たない事かな」


「塩湖の周辺は潮風が強すぎてあまり作物が育たないんじゃないのか?」


 カクザートの街にもう何日も滞在しているのでラグーネも詳しくなっている。鋭い指摘だった。


「その通り、塩害で作物が育ちにくいからこそ、それに強いオリジナルの植物を作れると良いなと思ったんだ。醤油は塩分が多く含まれているからね。地中から塩分を吸い上げて実にする形なら植物として成立するかなと思ったんだよ」


 タウロは、出来の良い醬油の実に満足するのであった。


「発想の仕方がとんでもないが、それで実際に出来ているんだからとんでもないな!」


 アンクがタウロの創造力に感心する。


「タウロ様、流石です!」


 シオンはちゃんと理解しているのかどうか怪しいが、タウロが偉業を成したと思ったのか賛辞を贈るのであった。


「カクザートの街の新たな名物の誕生だな」


 ラグーネはタウロの説明で、この醤油の実の重要性を理解した様であった。


「じゃあ、この成功例を基にさらに新たな実験がしたいのだけども……」


 タウロがまた、マジック収納から『創造魔法』の素材に使う物を出し始めた。


「リーダー、今度は、何を試すんだ?」


 アンクが、タウロの手元を覗き込んだ。


 そこには、金属らしき欠片と、媒体になるであろう種が一つだけあった。


「この金属は竜人族の村で貰ったオリハルコンの小さい欠片と醤油の種で、金属が実る植物の種を作れないかなと」


「な!?──マジで言ってんのかリーダー?」


 アンクが、タウロの次から次に出てくる突飛な発想に聞き返した。


「うん、水に溶けきれなくなった二酸化ケイ素が結晶化したものが水晶。まあ、他にも色んな事が起きて水晶って育って大きくなるんだけど、そんな感じの植物が作れるといいなと思ったんだ」


「それで、金属が実る種?」


 ラグーネが、タウロの大胆な発想に対して、冷静に聞く。


「これが完成したら、凄くない?」


「とても凄いと思います!」


 シオンはもう、成功する前から賛辞を送り始めた。


「じゃあ、試しにやってみるね。今回は流石に種一つを作るイメージで挑戦してみるよ。小さい種一つでも魔力は相当使うだろうし」


 タウロも多少は無謀なチャレンジだという自覚はあるようだ。


 だが、醤油の実が出来た以上、可能性はかなり高くなっている。


「じゃあ、始めるね。シオン、万が一に備えておいてね?」


「は、はい!」


 シオンは、また、タウロの傍に行くと身構える。


 タウロは、それを確認すると、『創造魔法』を唱えるのであった。

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