第381話 領内の名物案
グラウニュート伯爵は、現在カクザートの街の厄介者である火焔蟹の養殖案を言い出したタウロに大いに驚かされた。
「タウロよ、正気か?散々、カクザートの街の稼ぎ頭である塩の生産を邪魔していた魔物を養殖とは無茶な話だぞ!」
タウロは、説明よりも食べて貰った方が良いだろうと、マジック収納から早速カニ料理を次々に出して、父グラウニュート伯爵の前に並べて見せた。
「これは?」
グラウニュート伯爵は怪訝な顔をする。
「これが、火焔蟹を基にしたカニ料理です」
「火焔蟹を!?」
「はい。この料理が絶品だからこそ、養殖を推奨したいのです父上。──とりあえず、食べてみて下さい」
息子の勧めるものである。
グラウニュート伯爵は意を決して蟹の天ぷらから口にした。
「……!」
無言で目を見開くグラウニュート伯爵。
ただし、一切感想を漏らす事なく他の料理にも手を付けていく。
その度に頷くと、次々に味わう事の繰り返しの結果……。
「……タウロの言いたい事はわかった。確かにこれは美味い。とてつもなく美味い!これがこの街の名物料理にもなれる事もわかった。だが、問題は魔物の養殖。危険が伴うだろう?」
当然の疑問もタウロは、火焔蟹の危険性を説いた上で、処置についても説明した。
「なんと!そんなに簡単な事でいいのか!?」
「はい。これで、比較的安全に養殖できると思います。ただ、やはり、魔物は魔物ですから、安全性を保つ為にも養殖自体は、当面は伯爵家が管理し、民間に卸すという形にすると良いかと思います」
タウロが説明を終えると、グラウニュート伯爵は、一息吐くと、
「うちの子供は、本当に凄いな。ははは!」
と、笑いだした。
「父上?」
「いや、すまん、すまん。誰も塩湖の憎い魔物を食べようとは思わないし、ましてやそれを名物にしようなどと思うものはタウロ以外いないだろうと思ってな。改めてタウロを息子に出来て本当に良かった、はっはっはっ!」
余程グラウニュート伯爵は嬉しかったのかタウロの肩を叩くと、
「凄いだろううちの息子は!」
とアンクに自慢するのであった。
「へいへい。旦那の息子に収まってくれて仲間である俺も嬉しいですよ、わははっ!」
アンクはグラウニュート伯爵の親馬鹿ぶりに苦笑いしながら理解を示すのであった。
「早速、塩湖の傍に施設を造らせよう。だが困ったな……。今は、私がカクザートの街を直接仕切っているが、いつまでもそうしてるわけにもいかない。だから、代官を立てないといけないのだが……。カクザートの街は我が領の重要拠点だから、信頼に足る優秀な人材を立てたいが、そんな人物は他の街や村を任せているからな……。誰を街長に据えるべきか……」
グラウニュート伯爵は考え込んだ。
「それらも含めて、領内を僕達が巡ってみたいと思います。良い人材がいたら父上にお勧めしますね」
タウロは、そう提案した。
「そうか、それは助かる。領内巡検使として頼むぞタウロ」
「はい!──それと父上。これを……」
タウロは、マジック収納からいくつもの袋を取り出し、グラウニュート伯爵の前に置いて見せた。
「これは?」
「この領内の新たな名物になりうる農作物の種になります」
「農作物の?」
「はい。これまでにないとても甘い実がなるリゴーの実の種に、同じく甘く美味しいサツマンの芋、イイチゴの種に、トモローの種などいくつか用意しました」
「そんな物を、どうやって入手したのだ?」
グラウニュート伯爵は不思議そうにその種や芋を手に取ると見て確認する。
「以前に話しました『創造魔法』で」
「……なるほど。だが、あれは危険な魔法なのだろう?無理はしてくれるなよタウロ」
グラウニュート伯爵は手放しで喜ぶ前にタウロの身を案じた。
「はい、今回は比較的に安全に作れましたので大丈夫です」
タウロは笑顔で答えるのであったが、父親としては、タウロやアンクから聞く冒険譚の中では、度々無茶をしているのを知っているだけに心配になるのであった。
「これは、有難く受け取り領都で育てさせよう。──『創造魔法』か……。なんとも凄すぎる魔法だな。そもそも、品種改良した種を作る発想もまた、タウロ以外、使用者は思いつかないかもしれないな」
グラウニュート伯爵は、改めてまた、タウロに感心する。
「リーダーは頭の出来がその辺の奴らとは全く違うからな。わははっ!」
アンクが、頼もしい仲間を自慢する様に褒めた。
「そうだな。タウロは思いもかけない事をするから、私達も一緒にいて楽しいぞ!」
ラグーネもそう誇ると、タウロの肩を叩く。
「タウロ様は、何でも出来て素晴らしいです!ボク、どこまでもお供します!」
と、崇拝の念を強めるシオンは、タウロを拝み始める。
「みんな、恥ずかしいから止めてよ!」
タウロは、褒めらるのが恥ずかしくなり、みんなを止める素振りを見せるのであった。
あ……!今、何か思いついた気が……。
タウロは、みんなに褒められた事で、一つの可能性を見出した。
それは、固定観念に自分も囚われていたと、目から鱗の発想であった。
タウロはその事について、早く外で試してみたいと思い、うずうずするのであった。
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