第380話 協力と養殖

 シオンを新たに仲間に迎えたタウロ一行は、ラグーネの『次元回廊』と、タウロの『空間転移』を使って、カクザートの街で宿泊している宿屋の一室に戻って来た。


「じゃあ今日は、冒険者ギルドで適当にクエストを選んで、連携を深めようか」


 タウロの提案に一同は頷いた。


 特にシオンはやる気十分で、タウロ達に自分をアピールしたいようだった。


 宿屋の一階に下りていくと、丁度宿屋の料理人が宿屋の女将と話し込んでいた。


「あ、お客さん!帰ってらしたんですね。丁度良かった。うちの料理人がお客さんに用事があるってしつこくて」


 その料理人は、タウロと二人でカニ料理を作って意気投合した相手であった。


「どうかしましたか?」


 タウロも知らない仲じゃないので対応した。


「タウロさん。実はあのカニ料理をうちの売りにしたいんです。協力して貰えないでしょうか?」


「「それは素晴らしい考えだ!」」


 タウロが答える前に、そのカニ料理を味わった二人、ラグーネとアンクは賛同した。


「?」


 シオンは、知らないので蚊帳の外である。


「それはもちろん、協力するのはいいですが、具体的に何を?」


「火焔蟹の安定供給が出来ないものかと。冒険者ギルドにお願いしてみたら、タウロさん達が中心に火焔蟹討伐クエストをやっていてかなり減らしてしまったから、安定供給は彼ら次第だろうと、言われまして……」


 料理人は、どうやら頼る相手がタウロ達以外はもうないようだ。


「確かに、僕達が中心に討伐していましたが……。完全に駆逐する勢いで狩ってたので、安定供給となると今後は難しいかもしれないです。うーん、どうしたものか……」


 タウロは、その場で考え込んだ。


「そこを何とか!」


 料理人は、拝み手で目の前の少年にすがる。


「……火焔蟹はその繁殖力と討伐ランクも高く大変危険な魔物ですが、その危険性は左の大きなハサミから射出する火球なので、大きく育つ段階で切断し、生え直さない様に処理してしまえば、危険性は一気に落ちるかもしれないですね。──よし、養殖してみましょうか?」


「「「養殖?」」」


 その場にいた者はタウロの突拍子もない発想に聞き返した。


 それはそうだ、魔物を養殖するなんて発想はそう出てくるものではない。


 増殖して困らせられた火焔蟹を、養殖して安定供給できる様にしようなどと考えるのはタウロくらいだろう。


「これが成功すれば、この宿屋だけでなく町全体の名物になると思いますし、ちょっと街長邸にまだ滞在中のはずの父……領主様に相談してみます」


「領主様に!?」


 料理人は自分の宿屋で出したいだけの話が、とんでもない話になった事に、この時、やっと気づいた。


「みんな、冒険者ギルドの前に領主様に会いに行っていいかな?」


「「いいぞ」」


 ラグーネとアンクは承諾する。


「そんなにすんなり会えるものなんですか!?」


 シオンは、素直に驚く。


 それはそうだろう、いくらタウロが自分にとって英雄とはいえ、領主にとってはただの少年のはず、そんなにすぐ会えるはずが……。


 と、思ったシオンであったが、すぐ、面会許可が下りて応接室に通された。


「……!」


 シオンは、街長邸には『灰色禿鷹』の荷物持ちとして何度も来ているので見慣れているが、領主に簡単に面会できるとは全く思っていなかっただけに、驚きであった。


「シオン、ここでの出来事は他言無用だぞ?」


 アンクが、真面目な顔をしてシオンに口止めをする。


 ごくり


 シオンはこれから領主とどんなやり取りがあるのだろうと、緊張していると、領主であるグラウニュート伯爵が現れた。


「タウロ、ここ数日、街を留守にしていたみたいだが?」


 入って来るなり、フランクにタウロに話を聞く領主にシオンは驚く。


「竜人族の村に新たな仲間であるシオンを迎えに行ってました」


 ボクの話だ!


 シオンは自分が話題に上がったので、緊張する。


「おお、例の彼か」


「それが……、僕の勘違いでシオンは女の子でした」


「何?そうだったのか!ははは。タウロが男の子と言うから私もてっきり男の子だと思っていたぞ」


 グラウニュート伯爵はタウロのうっかりな勘違いに笑ってシオンを話題に話を楽しんでいる。


 というかボクの事をなんでそんなに知っているの!?それにタウロ様はこんなに気さくに領主様とお話に!?


 シオンはひとり、困惑するのであったが、ラグーネとアンクは二人の会話を微笑ましく聞いている。


 みんなにとっては、普通の事なの?びっくりしているボクが変なのかな?


 シオンは、増々ひとりで考え込んだ。


「リーダー、シオンが一人混乱しているから、この状況を教えてやりなよ、わはは!」


 アンクが、シオンがひとり真剣な表情を浮かべているので、気を利かせた。


「ああ、ごめんシオン。こちらのグラウニュート伯爵は僕の父に当たるんだ。養子だけどね」


「養子は余計だぞタウロ。──私がタウロの父だ。シオン、仲間として息子をよろしくな」


 グラウニュート伯爵はそう言うと、軽く頭を下げた。


「いえ!ボクこそタウロ様にはお世話になりっぱなしで……!あの、……はい!よろしくお願いします!」


 シオンは混乱する頭で情報を整理する事が出来ないまま、グラウニュート伯爵に慌てて挨拶するのであった。

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