第379話 証と勘違い

 その日、タウロ達一行は兄妹邸に宿泊する事にした。


 これは、ドラゴにお世話になったシオンの為というよりは、ドラゴとラグーネの兄妹の時間を作る為であった。


 そして、この時に、うっかり忘れていたイベントもタウロはする事にした。


 それは、チーム『黒金の翼』の一員の証であるペンダントを渡す事である。


 タウロは、ラグーネとアンクのペンダントを見せた。


 卵型の銀板に金縁、中心にそれぞれひし形と三つ葉のクローバー型の石が嵌めてあり、そこから翼が生えている様なデザインのペンダントだった。


 さらに魔法陣を崩した金模様も入っていて仕事が細かい。


 シオンはそれを見ると、


「素敵なペンダントですね!」


 と、目を輝かせた。


「シオンはどんなマークがいいかな?希望があれば言ってみて」


「え?僕も貰えるんですか!?……でも、僕なんかが貰っていいのでしょうか……?」


 シオンは、控えめな性格なのだろう。


 高価そうなペンダントを貰っていいのか戸惑った。


「チームの一員の証だから逆に持ってて貰わないと。──あ、シオンは最初から何か首から下げているみたいだけど、そっちと一緒は嫌かな?」


「あ、いえ!これは親の形見を入れているだけなので……」


 そう答えるとシオンは、首から下げた小さい袋を出して見せた。


「じゃあ、受け取ってくれる?」


「鎧や籠手まで頂いて……。──ぼ、ボクで良ければ!」


 シオンは、命の恩人タウロからのお願いに否は無く、それどころか仲間とお揃いの品を貰えるというのは、とても嬉しい事であった。


「ではボクは……、竜人族であるラグーネさんと同じ形でお願いします!」


「ラグーネと同じひし形か。なるほど、ここでの思い出も兼ねる感じかな。わかった、じゃあ、ちょっと待っててね」


 タウロは、そう答えると、銀貨と金貨、そして、族長リュウガから沢山分けて貰った迷宮核の欠片を一つ出すと手に包み込んだ。


「『創造魔法』!」


 一瞬、光が室内を包み込むとすぐに元に戻った。


 タウロが手のひらを広げると、そこにはシオンの注文通り、ラグーネと同じ形のペンダントが出来上がっていた。


「凄いです!タウロ様は何でもできるのですね!」


 シオンはペンダントが出来た事より、それを一瞬で作ってしまったタウロの方を崇拝の眼差しで見ている。


 こ、これはこれで、やりにくい……。


 タウロは苦笑いするのであったが、ペンダントを紐に通すとシオンの首にかけて上げた。


 シオンは、嬉しそうにペンダント見つめると、


「本当に、ありがとうございます!一生大切にします!」


 と、感謝の言葉を口にするのであった。


「うん、これで僕達四人はチーム『黒金の翼』の仲間として、友人として、一緒に旅する事になるからよろしくね」


 タウロが改めて、そう挨拶すると、アンクとラグーネも続いた。


「シオン、よろしくな!」


「これから背中を預ける仲間だ!」


「は、はい!ぼ、ボクもみなさんの足手纏いにならない様に頑張ります!荷物持ちは任せて下さい!」


 シオンは、荷物持ちを長い事していたので、自分の役目は荷物持ちだと疑っていないようだ。


「シオンは荷物持ちじゃないよ。四人目の戦力なんだから。それに、僕がマジック収納を持っているからその必要ないしね。ははは」


 タウロは、笑ってシオンの早とちりを否定した。


「ええ!?僕はじゃあ、何をしてタウロ様達の為に頑張れば……」


 シオンは今までの役目が奪われた事に動揺した。


「シオン、お前はスキル『光魔道僧』持ちだ。自分のスキルで出来る事をすればいいのさ。支援もちゃんと学んできたのだろう?」


「も、もちろんです!治癒、身体強化、防御魔法など使える様になりました!」


「……凄いな。それに自衛能力もあるんだろう?──リーダー、本当にシオンはとんでもないかもしれないぜ?」


「竜人族の村での修行成果は今後、見せて貰うとして、明日は朝一番でカクザートの街に戻ってクエストをやってみようか。今日はもう、遅いから寝よう」


「わかった」


「承知した」


「はい!」


 それぞれがタウロの提案に納得した。


「じゃあ、僕とシオンは同室でいいかな?」


 と、タウロが提案すると、シオンは慌てた。


「え!?ぼ、ボクは、ラグーネさんと同室でいいです!」


 うん?


 タウロは、シオンとのやり取りでよく引っ掛かるところがあったのだが、さすがにこれには反応した。


「シオン、さすがにラグーネは女性だから、男の子のシオンと一緒の部屋はマズいよ」


「うん?ちょっと待って下さい」


 タウロのこの言葉に、今度は黙って話を聞いていたドラゴが、何か引っ掛かったのか、声を掛けてきた。


「タウロ殿、いや、もしかしてラグーネ達全員、何か勘違いしていないか?」


「「「?」」」


「シオンは、女の子ですよ?」


「「「ええ!?」」」


 タウロ、ラグーネ、アンクの三人は驚くとシオンを全員で凝視した。


 シオンはみんなに見つめられると、顔を真っ赤にして下を向く。


「……ボク、女です……」


 そう答えると、シオンは首の詰まった服を脱ぎ、さらしを撒いた自分の姿を見せた。


「……ほ、本当だ」


 タウロは失礼な事だがシオンをまじまじと見つめて女性である事を確認してしまった。


 シオンは、増々顔を赤らめる。


「タウロ殿、流石に凝視し過ぎですよ」


 ドラゴが、そう注意するとタウロも慌ててシオンに服を着させた。


「はぁ、びっくりした……。シオン、何で言ってくれなかったの?」


 タウロは、自分が気付かなかった事はさておいて、そう質問した。


「俺も驚いた。てっきりリーダーと同い年の男の子かと思ってたぜ」


 アンクも、タウロに賛同して言う。


「私も全然気づかなかったぞ。男にしてはなよなよしてるなとは思ったけどな」


 ラグーネは何気に失礼な事を率直に言うのであった。


「すみません……。自分の身を守る為には、男の子の格好が一番だったので、この姿にしてました」


 シオンは申し訳なさそうにしている。


「そっか、そうだよね。シオンは自分なりに身を守る為にしていた事。僕らもそれに気づかなくてごめん」


 タウロはシオンに頭を下げた。


「いえ、ボクも言いそびれてました。ボクが女だと足手纏い扱いされると思ってたので……。本当にすみません!」


「お互い様という事にしておこうか。これで、みんなシオンを理解できたという事で、明日に備えて別れて寝よう」


 タウロは、そう話を纏めると、改めて部屋割りをして各自寝る事にするのであった。

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