第378話 一番大切なもの

 シオンを仲間に迎えたタウロ達一行は、カクザートの街に戻るか話していた。


 ぐー


 その時、お腹の音が聞こえてきた。


「す、すみません!ダンジョンに潜ってる間は、移動の際の携帯食だけだったので……」


 シオンは、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして謝った。


「あはは。ごめん、僕達もその事に気づかなかったよ。それじゃあ、カクザートの街に戻る前に、こっちで食事しようか」


 と、タウロはドラゴにも声をかけて食事に出かける事にするのであった。


 向かう道中。


 何が食べたいかと聞いてみると、ドラゴはカレーハンバーグ、ラグーネはカツカレー、アンクは何でもいいと答える中、シオンが、「カレーって何ですか?」と質問したので、タウロがプロデュースするカレー屋さんで食事する事に決定した。


 そのカレー屋さんの前に来ると、像が立っていた。


 もちろん、タウロのである。


 その像は、肩にスライムのぺらが乗り、左手にはカレー、右手にスプーンで、タウロは満面の笑みという全身像であった。


「この像の事は聞いてないよ……?」


 前世の某チキン屋さん前に立っている像を思い出すタウロであったが、なにより恥ずかしさが先立ち、顔を真っ赤にするのであった。


「……リーダーも、……大変だな」


 アンクがこれは恥ずかしいとばかりに、同情する。


「どうしたのだ?──あ、これか?カレーにとんかつが乗っていないのは、減点だな」


 ラグーネは、タウロの像を覗き込むと、そう指摘する。


「僕はタウロ様が像である事だけでも、とても素晴らしいと思います!」


 シオンは、完全にタウロ信者である。


 否定の言葉は聞けそうにない。


「……ところでこの肩のスライムは何ですか?」


 シオンは、タウロの像を指さして、首を傾げた。


「あ、シオンには自己紹介がまだだったね。──ぺら、擬態を解いて」


 タウロはベルトに擬態しているぺらに声をかけた。


 ぺらは、待ってたとばかりに、擬態を解くと、ぴょんと跳ねてタウロの肩に乗る。


「え?擬態できるスライム!?」


 シオンは、驚くとまじまじとぺらを見つめる。


「この子は、僕の相棒であるエンペラースライムの亜種であるぺらだよ。普段はこうしてベルトや鎧の表面に擬態して貰って、僕を守って貰っているんだ」


 タウロがぺらを紹介すると、ぺらは肩の上でぴょんと軽く跳ねると、シオンの肩に飛び乗った。


 そして、シオンの頬にすりすりすると、また、タウロの元に飛び跳ねるとベルトに擬態するのであった。


「凄いです!こんなスライム聞いた事が無いですよ!エンペラースライムのぺら……、格好いいですね!」


 シオンに褒められたのが嬉しかったのか、ベルトに擬態したぺらがプルンと震えるのであった。


「ぺらもシオンを気に入ったみたいだね。じゃあ、気を取り直して食事にしよう」


 タウロはやはり、像の存在が気になったが、みんなを連れて店内に入るのであった。



「こんな食べ物初めてです!」


 シオンは初めてのカレーに最初はびっくりしていたが、その味の虜になった。


「今日はシオンの歓迎会みたいなものだから、いっぱい食べてね」


 と、タウロが勧めると、シオンは喜び、お替わりをする。


 何杯もお替りするシオンであったが、ふと冷静になったのか、顔を赤らめた。


「す、すみません。ボクばかり沢山食べてしまって……」


「おいおい、リーダーが良いって言ってんだ。俺達は仲間だぞ、遠慮するなって」


 アンクが、シオンの遠慮を注意した。


「そうだぞシオン。それに私もカツカレーはこれで四杯目だ!遠慮しなくていいのだぞ!」


 ラグーネは、口の周りをカレーで汚しながら、シオンを和ませる。


 いや、ラグーネの場合、また食べ過ぎて太っても知らないよ?


 タウロは内心ツッコミを入れるのであった。


「……ありがとうございます。ボク、こんなに優しくされるのは久しぶりです」


 シオンは泣きそうになる。


 シオンは十歳過ぎで母親を亡くし、一人で困り果てているところを、心無い冒険者チームに拾われ隷属魔法で荷物持ちを強制されていた過去がある。


 その間、人の優しさに触れる事が無く生きてきたのだ。


 そして、初めて心から仲間と言えるタウロ達とこれから一緒できるのだ。


 シオンは、感無量であった。


「シオンも苦労して来たんだね。僕もそうだったから分かるよ」


 タウロも『前世の記憶』の能力に目覚めるまでは悲惨な経験をしてきたので、他人事ではなかった。


「タウロ様には感謝しきれません。これからはタウロ様の身は、この身を盾にしてお守りします!」


「ははは。それは、ぺらがしてくれるから大丈夫だよ。シオンにはこれから、チーム『黒金の翼』のメンバーとして、仲間として楽しく冒険者人生を送って欲しいかな」


 タウロは苦労して来たシオンには、これからは、自分の人生を楽しんで貰いたいと願うのであった。


「……タウロ様……。わかりました。チーム『黒金の翼』に命を捧げます!」


 いや、そうじゃないから!


 タウロは、内心ツッコミを入れるのであったが、これから考えを改めていって貰おうと思うのであった。


 そこからは、シオンの詳しい身の上話であった。


 死別した母は、病気だったそうだ。


 そして、父親の方はシオンが生まれる直前に亡くなったらしいので天涯孤独の身らしい。


 だから、シオンにとって、初めてできた仲間であるタウロ達は、一番大切なものだと言う。


 少し重いが、気持ちはわかる。


 自分もその気持ちがあるのだ。


 天涯孤独の身としては、一番信用できる仲間が大切なのだ。


 タウロはシオンがそう思える仲間として応えていきたいと思うのであった。

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