第368話 完全休養の日(4)【告知あり】

 タウロは早速、袋の中から種を一つ取り出すと、地中に植える事にした。


 成功か失敗かは育ててみないとわからないからだ。


「『植物成長促進魔法』!」


 タウロがそう唱えると、地中から芽が生え、見る見るうちに大きく成長していき、それは小さい一本の木になり、数個の真っ赤に熟したリゴーの実を枝につけた。


「種一つを成長させると言っても、さすがに木を一本分成長させるのには『植物成長促進』魔法もかなり魔力を消費するなぁ……」


 タウロは疲れた表情でそう口にすると、魔力回復ポーションを一つ、飲み干した。


 そして、成長させたその木からリゴーの実をもぎると、一つをアンクに投げて渡し、もう一つは自分で噛り付いた。


 シャコッ


 タウロが噛り付いたリゴーの実は瑞々しく果汁がほとばしる程であった。


 そして何より、これまで口にして来た果物の中でも格段に甘くて美味しい。


「これは……、大成功だよ!──アンクも食べてみて!」


 タウロは興奮気味にアンクに勧める。


 様子を窺っていたアンクも促されるままリゴーの実を口にする。


「う、美味い!なんじゃこの甘さは!?果物の爽やかで酸味があるのはもちろんだが、この甘さは凄いな!一口で高級な果物だってわかるぜ!」


 アンクもタウロの興奮が一口で理解出来て驚くと解説した。


「とりあえず、実験は成功だね」


「でも、リーダー。この種はどうするんだ?一つ一つ魔法で成長させるわけにもいかないよな?」


 アンクは当然の疑問を口にした。


「成長したら美味しい実が出来る事を確認出来ればそれでOKだよ。後は農業ギルドに登録して、このグラウニュート領の農家が育てる事が出来る様になれば、この領地の名産品になるでしょ?」


「なるほど、そういう事か。──それにしてもリーダーはとんでもない事を思いつくな。創造魔法とやらを持っているだけでも凄いんだが、何よりもその発想力に驚かされるよ」


 アンクは品種改良という発想に行きついたタウロを絶賛した。


「ははは。これは、まぁ、参考になる知識があったというか何というか……。でも、成功だから良かったよ。この調子でいくつか果物の種を品種改良してみるね」


 流石に前世の知識とは言えないタウロであったが、続けて他の種もマジック収納から取り出すと、『創造魔法(弱)』で品種改良を次々に成功させていくのであった。




「さすがに一つ一つ確認する為に成長させると、きつい……」


 魔力回復ポーションを飲みながら、品種改良と植物成長促進を繰り返していたので、タウロもさすがに続けるのは止める事にした。


「大丈夫かリーダー?」


 傍で見ていたアンクがやっと一息ついたタウロに声を掛ける。


「あ、ごめんアンク。ちょっと夢中になり過ぎたよ。──もう昼過ぎだね。昼食にしようか」


 タウロは太陽の高さを確認してからお昼休憩を入れる事にした。


 タウロがマジック収納から、パンと野菜、チーズにお肉を取り出すと、同じく取り出したナイフで簡単に切り分け、パンに挟んでいく。


 それを二人で摘まみながら今後の話になった。


「シオンを迎えに一度、竜人族の村に行ってからこの領地内の冒険でいいんだよな?」


「しばらくはそのつもりだね」


「ところでリーダー。花街で聞いた噂話なんだが──」


 アンクは、タウロに関わる話だと思い、あの話を報告する事にした。


「──なるほど。その話が本当の場合、今、十四歳くらいというわけだね?」


「そういう事になるな。よくある話ではあるが、万が一の場合があるだろ?リーダーが世継ぎになった今、後から出て来て揉めるのも問題だしな」


「うーん……。それじゃあ、その現在十四歳になるという先代の忘れ形見も探す旅にしようか」


 タウロは、少し考えるとそう提案した。


「はっ!?おいおい、リーダー。違うだろ!見つけ出そうものなら、それこそ問題が大きくなっちまうぞ?」


 アンクはタウロの案に驚いて指摘した。


「でも、その十四歳の子は、グラウニュート家の片方とはいえ、由緒正しき血が流れる非嫡出子という事になるのだから、伯爵家の為にも見つけ出した方が良いでしょ」


「違うだろリーダー。そうしたらリーダーが伯爵家を継げなくなる可能性も──」


「それはそれで問題ないよ。その非嫡出子がもし、世継ぎに相応しい人物だったら父上には養子として迎え入れる様に進言するつもりだよ」


 タウロは何とでもない様に、大事な事を口にした。


「……リーダー、人が良すぎるぜ……。普通、見つけたら暗殺でもして自分の身の安泰を図っても良い様なものなのに自分に不利になる事するかね……?」


 アンクはタウロの考えに呆れた。


「ははは。どうやら僕には貴族の跡取りは向いていないという神様の思し召しかもしれないね。──それともしかしてたけど、神様の思し召しならシオンと会えたのもタイミング的にどうなのだろうと思ったんだけど……」


「……確かにシオンはリーダーと年齢も近そうだからな。俺も一瞬頭をよぎったが、産婆の話が本当ならグラウニュート伯爵に瓜二つとなると、髪の色は紫、瞳は青色って事になる。その点シオンは、青い髪に青い瞳、髪の色が違うからな。それに先代の伯爵は、髪の色は赤色だ。今の伯爵は母親似で紫色の髪だったはずだから、シオンはどちらにせよ可能性は無いな」


 アンクは新たな仲間であるシオンの可能性は完全否定した。


「そっか。さすがにそこまで都合よくはいかないかぁ、ははは。シオンは育ちが良さそうだから気になったのだけどそうなるとシオンの母親がしっかり躾けていただけなのかなぁ」


 タウロはそう答えると少し考え込むのであったが、シオンから直接聞いてみれば良い事かと判断し、考えるのを止めるのであった。


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 ここからは、書籍化情報です。


 この「自力で異世界へ!~優しい仲間と一緒に異世界生活を満喫します~」が、書籍化します。


 8月10日発売予定!


 イラストは、「えんとつ街のプペル」でメインイラストレーターを務めていた六七質(むなしち)先生が担当してくれる事になりました!


 イラストだけでも必見の価値あり!


 さらには、WEB版との違いも楽しんで貰えたらなと思います。

 詳しくは近況ノートを、一読して貰えたら幸いです。

 ↓近況ノート↓

https://kakuyomu.jp/users/nisinohatenopero/news/16817139555260469672


 予約も開始していますので、よろしくお願いします!

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