第367話 完全休養の日(3)
ラグーネがヴァンダイン侯爵領に旅立って数日が経っていた。
カクザートの街に残ったタウロとアンクは思い思いの日々を過ごしていた。
「アンク、今日も花街通りで過ごすの?」
タウロが何気なく今日の予定を確認する。
「り、リーダー!?何でそれを知ってるんだよ!?」
タウロは、いくらしっかり者のリーダーとはいえ、十三歳の子供なのでアンクは花街通いは内緒にしていたのだ。
「ははは。そりゃあ、女性ものの香水の匂いや、化粧の香りをさせて帰ってくれば、気づかないわけないじゃない」
タウロは、自分の鼻を指さしてそう言ってのけた。
「ちゃんと風呂には入ったのにな……。──あ、別れ際の時か……!」
身に覚えがあったのかアンクは思い出して顔を覆う。
「別に責めてるわけじゃないよ?男ならそれが健全だと思うし、僕も興味がないわけじゃないから。ははは」
タウロは、アンクが自分や仲間に気を使ってくれていた事に感謝しつつ、男同士の会話として済ませた。
「まあ、リーダーも男だからな……。それにラグーネがいるところで話す事でもないから、これまでは中々話せなかったが。……男なら仕方ないよな」
アンクもタウロの理解に乗っかるとこれまでの我慢を口にするのであった。
「ラグーネはどこにでも付いてくるからさ。男の俺としては、大変だったわけだ。エアリスがいる時は二人で行動する事もあったからその時は何とかなったんだがな?わはは」
アンクは下ネタは嫌いじゃないらしい。
タウロが、男の問題について理解を示した事でそれがよくわかるのであった。
「ところで今日は、試したい事があるのだけど……」
「お?そりゃ、例の創造魔法の実験ってやつかい?」
アンクが察しよく聞き返す。
「うん。これまではエアリスに付いて貰って、万が一の場合に備えて貰っていたからさ。今日はアンクに頼もうかと思ったんだけど、花街通りに行くならまた今度でもいいけど?」
タウロはもう、ネタの様にアンクの花街通いをいじり始めた。
「勘弁してくれリーダー!もちろん、リーダーに付き合うさ。俺もそんなに毎日、花街に通うつもりはないぜ?」
アンクは苦笑いすると、タウロの実験に付き合う事にするのであった。
タウロとアンクは、塩湖の傍に広がっている畑の傍までやって来ていた。
「畑以外、何も無いところだが、こんな目立ちそうなところでいいのかい?」
アンクは、タウロの実験と言えば、武器なんかを派手に作って倒れ、死にかけるという話をエアリスから聞いている。
「今日は、そんなに派手な事をするわけじゃないからね。あ、後日、するかもしれないけど……」
「するのかよ!──まぁ、仲間がいるところでやる分には、大丈夫だと思うが、あんまり無茶はしないでくれよ?──で、今日は何をするんだい?」
アンクは、毎回突拍子もない事をするこのリーダーが楽しくて好きであった。
子供の発想だから可能なのか、いや、大人以上の考えを巡らす事がよくあるだけに、この一見ただの少年としか思えないタウロには毎回驚かされてばかりなのだが、今回も期待出来そうであった。
「今回は、ちょっと僕らとはあんまり関係ないんだけど……」
そう言うと、タウロはマジック収納から小さい袋をいくつか取り出した。
「?」
比較的軽そうにタウロが持っているので、お金などではなさそうだ。
アンクは、中身が何か想像できなかった。
「……これは、植物の種だよ」
タウロは、アンクの疑問そうな表情を察して答えた。
「植物の種?それを何の実験に使うんだい?」
「僕の『創造魔法(弱)』って、使い勝手が悪いから、魔力はもちろんの事、材料なんかも必要なんだけどね?品種改良は出来ないかなと思ったんだ」
「品種改良?」
「うん。より人間に有用な品種を作り出すことだよ。それを創造魔法で出来ないかなと思ってね」
「例えば?」
アンクは、まだ、ピンとこないらしい。
仕方ない、この世界ではそういう言葉がないのだ。
「例えば、この種は果物であるリゴーの実のものなんだけど、これをより、糖分の強い甘くておいしいリゴーの実が出来る種にしてみるとかかな」
「そんな事が出来るのか!?──いや、確かにそれが出来たら、一儲けできそうだ。だが、気の長い話でもあるよな。育ててみないと結果はわからないって事だろ?」
アンクが、鋭い指摘をした。
「そう、アンクの指摘はごもっとも。僕もその辺は考えたんだけど最近、面白い魔法を思いついたんだ」
「面白い魔法?」
「うん。今、僕は闇の精霊魔法と光(聖)の精霊魔法の制限解除がされているのだけど、それを『多重詠唱』と『魔力操作(極)』の能力を使った組み合わせで新たな魔法を思いついたんだ。それが、これ」
タウロはそう答えると、実際にやるところをアンクに見せる事にした。
「『植物成長促進魔法』!」
タウロがそう唱えると、畑の一部から、植物が見る見るうちに生え、成長するとひとつひとつに実が出来始めた。
「……おいおい。これは最早、神の領域じゃないのか……?」
アンクが、呆然として、畑の一部を見る。
「……ちょっと頑張り過ぎた」
タウロはそうつぶやくとふらつくと膝をついた。
「だ、大丈夫かリーダー?」
アンクが、歩み寄る。
「……ちょっと、広範囲やり過ぎたけど、これで種を成長させて成功したか確認できるわけ」
タウロは、マジック収納から魔力回復ポーションを取り出すと一気に飲み干した。
「……こいつは凄いぜ、リーダー。その品種改良とやらより、この『植物成長促進魔法』とやらの方が、百倍凄い気がするぞ?」
アンクは目の前の奇跡の魔法にこそ呆れるのであった。
「そうかな?これには魔力限界があるから、無理は出来ないんだよ。それよりは、これから実験する『品種改良』の方が、将来的にも良いと思うんだよね」
タウロはそう言って、種の入った袋を手のひらで包む様に持つと、
「『創造魔法』!」
と、唱えた。
一瞬、タウロの手元が輝いたが、すぐに収まった。
「……大丈夫か、リーダー?」
一瞬の出来事にアンクが、タウロの様子を窺う。
「……大丈夫だけど、魔力もそんなに使った感じしないなぁ……」
タウロは珍しく自分が失敗したかもしれないと不安になるのであった。
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