第364話 仲間の様子
カクザートの街に戻ったタウロ一行は、まず、ボーメン子爵と帝国軍人達を父グラウニュート伯爵の部下に引き渡した。
父グラウニュート伯爵は、急遽領都に戻っていたのだ。
部下はグラウニュート伯爵から、タウロの事について十分説明を受けていたので、タウロの指示に従い、王都へ連行して行く事になった。
そして、念の為、竜人族の者が数人それに付いて行く事になった。
「わざわざすみません。殲滅して貰っただけでも助かっているのに、連行にまで付き合って貰えるなんて」
タウロが、グラウニュート伯爵家を代表して、大勇者にお礼を言った。
「いえ、我々も気になるところではありますから。また、ここに戻ってきますので、その時は、タウロ殿に竜人族の村まで送って頂けると助かります」
大勇者はそう答えると、王都まで連行する部隊に付き従って出かけていくのであった。
「残った方々はどうしますか?」
タウロは四十人以上残った竜人族の戦士達に確認を取る。
「残って暗殺ギルドの残党討伐をする者がほとんどですが、何人かは村へ戻って今回の事を報告したいので良ければ送って頂けたら助かります」
戦士の一人が、代表してそうタウロにお願いした。
「わかりました。それでは早速、お送りしますね。──ラグーネお願い」
「ああ、承知した!」
こうして数人を竜人族の村にタウロが送り届けるのだったが、戻ってみるとラグーネの兄、ドラゴがタウロに気づいて歓迎してくれた。
「おお!タウロ殿。お久し振りですね」
「お久し振りです、ドラゴさん。今日はあちらで動いていた数人の竜人族のみなさんをお届けにきました」
「ご苦労様です」
送って貰った竜人族達がタウロにお礼を言うと、ドラゴの家から外に出て行く。
「……これは、ラグーネに『次元回廊』の出入り口の設定は外にする様に言わないといけませんな」
ドラゴは苦笑いしてタウロにぼやいた。
「そうですね。──あ、ラグーネも来ましたよ」
二人が話していると、ラグーネが『次元回廊』で戻って来た。
「兄上、元気そうだね。──タウロ、私もそろそろ出発したいからいいか?」
兄ドラゴに簡単な挨拶のみで、タウロにカクザートの街に戻る様に促した。
「ああ、わかったよ。その前にラグーネ、出入り口の設定を外にしといた方がいいよ?」
というタウロのアドバイスの元、ラグーネはスキルを得て以来、設定していた自分の部屋への『次元回廊』の出入り口を、家の庭に改めて設定し直すのであった。
「それでは戻ろうか」
ラグーネはタウロを急かした。
「おいおい、ラグーネ。兄に対して他に言う事があるだろう!それに、二人が連れて来たシオン君はどうするのだ?」
「「あ!」」
タウロとラグーネは、ドラゴの指摘に、二人は思い出すと目を見合わせた。
暗殺ギルドの討伐などですっかり失念していたのだ。
「あはは……。それでシオン君はどうですか?」
タウロが申し訳なさそうに、シオンの修業状況について話を聞いた。
「『竜の穴』での修行の最中の様です。数日に一度、様子を聞きますが、人族の子供にしては中々根性がある様で実践訓練でも非凡なものを見せているようですよ」
「そうですか。『竜の穴』って、竜人族のみなさんが地獄だと言うところですよね?」
「……ええ、まあ。我々兄妹でも思い出すと──」
「「くっ、殺せ……」」
兄ドラゴと、妹ラグーネは、綺麗にハモっていつもの言葉出てくる。
「やっぱり、地獄なんですね……。──シオン君はそこで頑張れているんですか?」
「ええ。『タウロ様の力になる為に弱音は吐けない!』と、自分に言い聞かせているようです」
「そんな事を言ってたんですか?……うーん。自分の為に頑張って貰いたいところだけど……」
「ははは。タウロ殿。人は、自分の事なら、そう頑張る必要もないかと思う者もいます。しかし、人の為になら頑張れる、というのもよくある事です。シオンはそのタイプなのでしょう」
ドラゴは、タウロが連れて来たシオンをそう評価した。
「なるほど……。動機がどうであれ、結局はその頑張りで本人が成長して、自ずと道は拓けるという事ですね」
「そういう事です」
タウロの理解にドラゴは頷いた。
「シオン君の成長具合はどうですか?」
「話では、もう少し時間が欲しいとの事です。そうすればタウロ殿のお役に立てるだろうと担当の者が言っていました」
「それでは、もう少し、シオン君をお願いします」
「はい、『竜の穴』担当官にもそう言っておきましょう」
タウロは引き続きシオンをお願いするとラグーネと共に、カクザートの街にも戻るのであった。
「それにしてもラグーネ。『竜の穴』って、そんなに凄いところなの?」
改めて、謎の修行場についてタウロは興味を持った。
「……凄いというかずっと言っているが、あそこは地獄だから……。正直、人族の子供であるシオンが、頑張れている事が異例だと思った方がいいと思う……。くっ、殺せ……」
ラグーネは思い出すと出てくるいつもの台詞がまた出てくるのであった。
「それでは、少し遅いが、私も出かけよう。多分一週間ほどで戻ると思う」
「それだとあっちにあんまり滞在出来ないんじゃない?ゆっくりしてきていいよ?」
タウロはヴァンダイン侯爵領までの距離を考えると、滞在は二日程にしかならないと思ったのだ。
「いや、タウロの元を離れ過ぎるのも良くないからな。私がいない間はアンクと二人、仲良くしておいてくれ」
男二人で仲良くというのも、微妙な話だが、ラグーネはそこまで考えていないだろう。
タウロは、そう受け止めて頷くと、ラグーネを一人旅に送り出すのであった。
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