第363話 殲滅作戦終了とその処理
ボーメン子爵領領都における暗殺ギルド殲滅作戦は、一晩にして呆気なく解決した。
領都中に散らばった拠点も竜人族によって、漏れなく壊滅。
機密書類の類は、ボーメン子爵によって焼き払われてしまったが、本人を捕縛する事には成功した。
自白は難しいかもしれないが、これまで王国で長年の間、暗躍し続けた暗殺ギルドの首領の捕縛であるから、竜人族の功績は大きいだろう。
さらにボーメン子爵邸における捕縛劇は子爵本人だけでは終わらなかった。
それは、帝国からやって来たと思われる、魔法使いの一団であった。
捕縛した竜人族の者が言うには、未熟だが召喚術の心得がある術者達だという。
実際、竜人族と戦闘に入るとゴブリンキングを召喚して抵抗しようとしたらしい。
だがそこは、竜人族である。
それも一刀両断の元に片付けるとこの術者達を捕らえたそうだ。
そこでタウロは引っ掛かった。
「ゴブリンキングの召喚ですか?……もしかしてと思うけど……」
タウロがそうつぶやくと、アンクとラグーネもピンときた。
「王都近くのダントン子爵領で急に沸いたゴブリンの群れとゴブリンキングがいたな?」
「もしかしてあれも、こいつらの仕業なのか?」
二人は、タウロを代弁して指摘する。
一同が、捕らえた帝国からの訪問者?達に視線を送ると、誰も視線を合わせようとしない。
「……どうやら視線を合わせられない事情があるみたいだね。そうなると……、ズメイさん、お願いできますか?」
タウロは、金髪のズメイに話を振った。
「僕の出番かい?五人もいるなら、一人くらい壊れても問題ないよね?じゃあ、後は任せて」
金髪のズメイは、不吉な言葉を口にすると、捕らえられた術者の一人を個室に連れて行った。
金髪のズメイ。
容姿は少年の様な見た目だが、その専門は情報収集の他に、尋問という怖い特技がある。
赤髪のマラク曰く、「三人の中で実力は一番、そして、一番容赦がない」、だそうだ。
すると数分もせずに、部屋から、
「ギャー!」
という痛みに耐えられなかったと思われる悲鳴が何度も聞こえて来た。
「お願いです、助けて下さい!」
と、すぐに命乞いの声に変わる。
「い、いいます!いいますから早く死なせて下さい!」
何が起きているのか、命乞いから死にたいと思わせる様な拷問をしているのはすぐに察する事が出来た。
そして、数十分後、静かになると部屋から金髪のズメイが出て来た。
「根性ないね、彼。暗殺ギルドの連中は、まぁ、すぐ自害する選択するから自供させる事は出来なかったけど、根性はあったなぁ」
金髪のズメイをそう漏らすと、顔に付いた血を手拭いで拭き取るとタウロに報告する。
「こいつらは、帝国魔導士団の、召喚士部隊に所属する軍人みたい。タウロ殿がさっき疑問に思った通り、王都近辺でゴブリンキングなんかを召喚し、どのくらいで討伐されるかの実験したらしいです。思ったより早く討伐されてしまったので、最近帝国と繋がりが出来て人員を投入していた暗殺ギルドと合流して再実験をするつもりだったみたいですよ」
「帝国がこの国をまた狙っているという事ですね?」
「それはずっとみたいですから、驚く事ではないですよ。僕達竜人族もその辺はわかって警戒はしていましたし。ただ、北の竜人族も侵入していたのは予想外ですね」
金髪のズメイはタウロの疑問に答えた。
「ズメイの言う通り、北の竜人族が出てくるという事は、我々竜人族の村が介入する事も厭わないという事でしょうからね」
赤髪のマラクもズメイに次いでタウロに指摘した。
「竜人族の流行り病については何か聞きました?」
「それは、こいつらレベルでは知らないみたい。北の竜人族の連中を捕まえてたら、僕が尋問して吐かせたんだけど、大勇者達が仕留めちゃったから仕方ないね」
金髪のズメイが、軽いノリで大勇者の失態を指摘した。
「すまないな、ズメイ。『先祖返り』程度を切り札と豪語する者達に悲しくなってな。一思いに倒す選択をした」
大勇者がズメイと顔見知りなのか、謝罪した。
「──という事らしいよ。タウロ殿?」
金髪のズメイは、そう話を締め括った。
「それでは一度、カクザートの街まで戻り、父に一連の報告をして、ボーメン子爵とこの召喚士達の王都への引き渡しをお任せしましょうか」
タウロは、自分達の出る幕はここまでと考えたようだ。
「そうだな。リーダーの言う通り、逆賊とはいえボーメン子爵は貴族。俺達下の人間がこれ以上どうこうするのはマズいわな」
アンクが、タウロに同調した。
「我々もそれで構わないですよ。暗殺ギルドの殲滅という竜人族の当初の目標は達成されたので」
大勇者も頷いた。
「それでは、カクザートの街に戻ろう。ラグーネお願い」
タウロは、そう言うと、ボーメン子爵邸に集合して来た竜人族のみんなをラグーネの『次元回廊』とタウロの『空間転移』で次々とカクザートの街に運ぶのであった。
そんな中、ラグーネが、魔力回復の為の休憩中にタウロに一つのお願いをした。
「一度、カクザートの街に戻ったら、少し時間を貰っていいかな?」
「?」
タウロはラグーネの珍しいお願いに軽く驚いた。
「エアリスのところに顔出したいなと思ってさ。グラウニュート伯爵領からなら、ヴァンダイン侯爵領は遠くないだろ?」
ラグーネは友人であり、仲間であるエアリスに会いたくなったようだ。
「もちろんいいよ!じゃあ、あっちに戻ったら、みんなで遊びに行こうか」
「いや、私一人で行って来ようと思うのだ。エアリスの様子を確認したらすぐ戻るつもりだしな」
ラグーネは何やら考えがあるのかみんなで行く気はなさそうであった。
「……わかった。じゃあ、エアリスに会ったらよろしく伝えてくれる?」
「もちろんだ!」
ラグーネの返事にタウロは頷くと、魔力回復ポーションを飲み干して、カクザートの街への移送を再開するのであった。
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