第358話 危険な薬
決行が三日後の新月の夜になったタウロ達一行は、その日まで目立った行動は取らない方が良いとの判断から、普段通り冒険者ギルドに足を運んだ。
「あ、『黒金の翼』のみなさん。丁度良かった。昨日のクエストの成果を依頼主が甚く気に入った様で、また、クエストをお願いしたいそうですよ」
受付嬢がタウロ達一行に気づくと声を掛けて来た。
「また、コカトリス討伐ですか?」
タウロは、少し警戒しつつ聞き返した。
大丈夫だと思うが、依頼主は暗殺ギルドに関わっている可能性もあるので警戒はしておいた方が良いだろう。
「それが今回は採取系のクエストでして、これがリストになっています」
「何でまた僕達に採取系を?」
タウロはリストを受け取りながらそう聞くと内容を確認する。
その内容にタウロは依頼主の目的をなんとなく理解する事が出来た。
タウロには能力に『植物の知識』があり、さらにポーション作りで培った薬学の知識もある。
その事から、依頼主がある生物に対して、強力に効果があると思われる薬を作ろうとしている事がわかったのだ。
依頼主の目的はある種族に対して効果的な劇薬を作ろうとしている。
もちろん、求めている量からかなりの量を作るつもりだろう。
それに、採取する植物はどれも貴重なものばかりで、採取の仕方ですぐ駄目になってしまう繊細なものばかりである。
「依頼主が言うには、みなさんの仕事が丁寧だったので、採取も同じように丁寧に集めてくれるだろうと期待しての事だそうです」
受付嬢は、この仕事をタウロ達に受けて欲しいのか積極的だ。
「……この依頼主は冒険者ギルドにとって、かなり大口のお得意様みたいですね」
タウロが、相手を確認する様に聞いた。
「誰とは言えませんが、特に最近、うちはお世話になっているんですよ。以前はうちとは縁があまりなかったんですけどね」
受付嬢は依頼主が凄い人物である事を匂わせつつ答えた。
「……わかりました。リストを見る限り、数日はかかると思います。それで良ければ、お受けしますよ」
タウロは、そう答えて引き受けた。
「ありがとうございます!それではクエスト手続きしますね!」
受付嬢は肩の荷が下りたと思ったのかほっとすると、急いで手続きを完了させた。
「じゃあ、みんな行こうか」
タウロは、一行を引き連れて有無を言わさず冒険者ギルドを後にした。
「タウロ、私達に確認しないで引き受けるなんてどういうことだ?」
ラグーネが、タウロの行動を不審がって聞く。
「ホントそうだぜ?それにタウロなら、採取系クエストは数日も時間かけなくてもすぐ完了出来るだろう?『真眼』と『植物の知識』であっという間じゃないか」
アンクもラグーネに同調しつつ、指摘した。
「……何かそのクエストが重大だと感じたんですね?」
赤髪のマラクが、タウロが考え無しに受けるとは思っていないのでそう問うた。
「……僕の予想が確かなら、この採取を元に作られるものは、対竜人族用殺傷薬です」
タウロは緊張した面持ちで静かに答えた。
「「「「え!?」」」」
ラグーネをはじめ、赤髪のマラク、金髪のズメイ、青髪のリーヴァは驚いて固まった。
「どれもこれも劇薬に用いられる植物ばかりで、それ単体でも強力な薬ができますが、これを配合すると蜥蜴族や竜人族系に対して絶対的な力を発揮すると思われます」
タウロが、続けてそう答えた。
「タウロ!何でそんなクエストを引き受けたのだ!私達を殺す為の薬なんて手伝いたくないぞ!」
ラグーネが激高した。
「落ち着いて、ラグーネ。だからこそ僕達が引き受けなきゃいけないんだよ」
「……もしかして」
青髪のリーヴァがタウロの考えを察した。
青髪のリーヴァが気付いたようなのでタウロは歩きながら説明する。
「決行の三日後までこのクエストを引き延ばす為だよ。他の冒険者が引き受けて、決行日前にその危険な薬が少しでも作られたらどうする?それこそ危険でしょ?」
「……なるほど、俺達が引き受ければ、その心配がなくなるわけですね」
マラクが、タウロの深い考えを理解した。
「依頼主は多分、領主、もしくはそれに近い者、組織、団体だと思う。暗殺ギルドの可能性が一番高いけどね。王都で暗殺ギルドの拠点殲滅した相手が竜人族だと報告で知って急遽作る事になったんだと思う。そこへ僕達がたまたまクエストを引き受けて期待以上にこなしたから、あちらはまさか関係者とは思わず、この依頼をして来たんだと思う」
「……ごくり(唾を飲み込む音)。──だがタウロ殿。僕達は竜人族だ。いろんな耐性を持っていて多少の状態異常は効かないと自負してるんだけど、そんなに強力な薬なのかい?」
金髪のズメイが、薬の効果を確認した。
「それは僕にもわかりません。ですが、少なくとも敵のトップは効果があると考えてその材料を集める事にしたのだと思います。材料はどれも新鮮な状態で調合して完成させる事で効果を発揮させるものですから、冒険者ギルドを頼ったのかと」
「……なるほど。効果があると信じるに値する理由が相手にはあるのかもしれませんね。──つまり相手には竜人族関係者がいる可能性が相当高い」
赤髪のマラクが、核心に触れた。
「……ええ。僕もそうだと思います。僕達が偶然引き受ける事になって良かったです。──もしかしたら能力の『幸運』が、仕事をしてくれたのかもしれない」
タウロは、つい忘れがちになる自分の能力を思い出してほっと一息つくのであった。
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