第357話 決行日の話し合い

 タウロ達一行は昼食を済ませた後、冒険者ギルドに一度戻るとクエストを完了させて、受付嬢に驚かれた。


 一日がかりで行うコカトリス討伐を、ノルマの4倍の量を完了させてきたのだ。


 依頼人が欲しがっている毒も採取部位も前もって解体して収めてくれた。


 討伐証明の部位である鶏冠も綺麗に解体してある。


 仕事が丁寧で、ギルドの解体業者泣かせな程であるが、それは好意的に受け止められる。


「──はい、それでは通行許可の札の返却も確認しました。お疲れ様です。仕事が丁寧なので、依頼主も喜ぶと思いますよ。私からも依頼主にはみなさんを推薦しておきますね」


 受付嬢は、笑顔でそう答えた。


「あ、僕達の名前は出さないで下さいね?依頼主さんがどんな人か知らないわけですし、こちらの名前を一方的に知られるのはちょっと……」


 タウロは正直にそう答えた。


 想像通りなら、依頼主は暗殺ギルド関係者、もしくは領主だろう。


 さすがに『黒金の翼』の名を、耳にしている可能性は高い。


 冒険者ギルドだから、冒険者の個人情報を依頼主に漏らす事は無いと思うが、一応、口止めも兼ねて断るのであった。


「……すみません。確かにそうですね。……実は依頼主がこの街の有力者であり、お得意様なもので、つい……」


 受付嬢も悪気はなかったのだろう。


 ただ、冒険者ギルドも依頼人あっての運営であるから、大口の依頼人には、冒険者ギルドを今後も利用して貰う為に、アピールはしたいところだったのだ。


「お気持ちはわかります。もし、またクエストが来たら検討しますね」


 タウロはそう前向きな態度だが、やんわりと口止めすると冒険者ギルドを後にした。


「この街の有力者って事は、……関係者の可能性高いな」


 アンクが、具体名は上げずにそう口にした。


「今は、事細かな情報が集まるまでは、流石にバレたくないからね。まぁ、数日持てばいいだけだから」


 タウロはそう答えると、まだ、昼過ぎなので元父親ソークの足跡を辿って領都内の暗殺ギルドの施設がないか、領都を散策する事にした。




「タウロ殿、あの大きな建物は領主御用達のヒッター大商会です」


 ソークが足跡を残したひとつであるひと際大きな建物を離れた所から確認すると、マラクが通行人から入手した情報をタウロに知らせた。


「あの人が、そんな大商会と関われる理由がないので、暗殺ギルドの偽装した商会でしょう。ここも、対象に入れた方がいいですね」


 タウロが、遠回しにそう答える。


「……やれやれ。この街は本格的に悪の巣窟染みて来たな。──商会の表で掃除してる従業員、足運びが素人じゃないぜ?通行人も何気にチェックしてるみたいだし、近づかなくて良かったな」


 アンクが、遠目から商会を確認してタウロにぼやいた。


「リーヴァ先輩の能力は凄いな!足跡をここまで確認出来るとは!」


 ラグーネが、先輩竜人族のスキルに感心する。


「ふふふ。その代わりリスクもあるから、滅多に使えないけどね?今回はこれのみに、力を注いでいるから、討伐には参加できないわ、残念」


 リーヴァはそう答えると、魔力の消費量も高いのか汗を拭いて答えた。


「こうなると、小者の残党狩りは難しいくらいの規模になりそうですね。これを含めて待機してる討伐組のみなさんと話し合う必要がありそうです」


 タウロは、そうみんなに告げると、その後は夜までソークの足跡を確認するのであった。




 その日の夜──


 タウロ達一行は、カクザートの街に待機している暗殺ギルド討伐組と合流した。


「──というわけで、領都一帯が暗殺ギルドの巣窟になっていると思われます」


 タウロが討伐組の一同に説明を終えた。


 討伐組の数は50名。


 規模に対して少ない気がするが、とタウロは少し心許ない気がした。


「……なるほど。そうなると領主邸に、15人。ヒッター大商会に5人。残りは3人ずつ10か所を襲撃する形で大丈夫そうですね」


 今回の討伐組の一番の戦力である元攻略組から参加している、大勇者スキルを持つ竜人族の英雄が、簡単に地図の上に人員を分けて見せた。


「え?少なくないですか?」


 タウロが、小隊レベル以下の人員の分け方に疑問を呈した。


「マラク、ズメイ、リーヴァの情報収集能力は、竜人族の中でも随一です。王都では敵の慎重さに手間取って時間がかかったようですが、今回は相手が自分達の領域という事で油断していた事から、3人も短時間で本領を発揮できたようです。敵の戦力を見誤っていなければ、この数で圧倒できるはずですよ。問題は領主邸ですね。マラクの先程の報告通り、館は結界で覆われていますから中の情報はほぼ皆無、中にどの程度のレベルの他所の竜人族出身者がいるかわからないので、15人と多めにしてみました。他を襲撃した味方が応援に駆け付ける時間も考慮して妥当かと思います」


 大勇者は、タウロの心配に応えるべく、丁寧に答えた。


「……一応、僕達も参加していいですか?マラクさん達もいますから、戦力になると思いますし」


「……ふむ。確かにタウロ殿達も戦力として加わってくれると助かります。後方でマラク達の能力を駆使して取りこぼしを狩って頂けると助かります」


 大勇者はタウロ達を鑑定して頷くと、許可を出した。


「では、作戦はいつ行いますか?」


 タウロは決行日を確認した。


「3日後の新月の日がよろしいかと。それまでまたタウロ殿達に情報入手を続けて貰えると助かります。最後まで何が起きるかわからないのでご用心下さい」


 大勇者の案にタウロ達は頷くと、ボーメンの領都の宿屋まで、タウロとラグーネの能力で静かに戻るのであった。

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