第356話 食事休憩
竜人族の3人が加わったタウロ達『黒金の翼』にとって、ボーメンの領都近郊でのコカトリス討伐クエストは容易なものであった。
タウロ、ラグーネ、アンクの出る幕がほとんどない程、赤髪のマラク、金髪のズメイ、青髪のリーヴァの働きは感嘆の極みであった。
コカトリスは、一時的ながら空も飛ぶし、俊敏で状態異常攻撃も複数使用してくる難敵のはずなのだが、この3人は鳥小屋の鶏を捕まえる様に、簡単に見つけ出して来ては、すぐに絞め殺し、依頼の採取部位である尻尾の蛇を斬り落として猛毒を採取、討伐証明の部位である鶏冠も斬り落とした。
もちろん、魔石も取り出す。
「タウロ殿、本当に他の部位も捨てずに持ち帰るのですか?」
赤髪のマラクがコカトリスの血抜きをしながら、タウロに確認した。
「はい。コカトリスのお肉は美味しそうなので、今後の食料に取っておきたいと思います」
タウロの想像通りなら、コカトリスは鶏肉だろう。
ましてCランク帯の討伐対象の魔物である。
滅多に食べられない代物だ。
タウロはお肉の質を確認する為に一羽のコカトリスを捌き始めた。
「ここで調理するんですか?」
青髪のリーヴァが驚いて質問した。
「試しに少し食べてみましょう。想像通りなら美味しいと思いますよ。──弾力が強いな……。そうだ、串焼きにしよう」
タウロは、ぶつ切りにコカトリスを捌くと、マジック収納から串を取り出し刺していく。
アンクとラグーネもそれを真似して刺し始めた。
「お肉の味をしっかり確認したいので塩胡椒のみで」
タウロはそう言うと、下味を付けていく。
金髪のズメイもコカトリスの味が気になるのか、食べる事に賛同してすぐに魔法でコの字型の簡易かまどを作り始めた。
「……お昼時ですし、まあ、いいか」
赤髪のマラクは、そう納得すると、周囲に落ちていた木の枝を拾ってかまどに入れると火魔法で火入れをした。
そこへリーヴァが串打ちされたコカトリスの肉を焼き始めた。
マラクもそれに加わる。
「……じゃあ、みんな作業しながら聞いて。街の方では誰が聞いてるかわからないので、この森の方で話す方が安全だろうから」
タウロは串打ちをしながらそう話すと続けた。
「……やはり暗殺ギルドには、竜人族以外の竜人が関わっている可能性があると見ているんですか?」
タウロが誰に確認するでもなくそう口にした。
「……はい。王都での暗殺ギルド拠点殲滅戦では、以前も申し上げた様に竜人族の血が流れる者も確認、討伐しています。それに我々竜人族に伝わる秘術なども、一部形を変え、人族でも使用できる劣化版が伝わっています。元々はタウロ殿を助ける為に動き始めましたが、今は、竜人族の誇りの為にも暗殺ギルドの殲滅は必須事項になっています」
赤髪のマラクが、半ば確信をもってタウロに竜人族を代表して答えた。
「……わかりました。そうなると僕達が足手纏いにならない様に動かないといけないですね」
「そこは我々が同行してますから大丈夫です。暗殺ギルドの本拠点の正確な位置さえわかれば、元攻略組を中心に竜人族の精鋭が突入しますから」
マラクがタウロにそう答えると、金髪のズメイと青髪のリーヴァもそれに賛同する様に頷いた。
本当に文字通り、”殲滅”するんだろうな……、可哀そうに……。
タウロは竜人族の強さを一番知っている人族であるから、少し暗殺ギルドに同情するのであった。
「それにしても、竜人族の血を受け継ぐ奴が、暗殺ギルドに深く関わっているというのは、謎が多いな」
アンクが、最大の疑問を口にした。
「そうなんだよね。下手をしたら数百年前の血筋の可能性もあるし、もしかすると暗殺ギルド創設前の話になるかもしれないから。殲滅はもちろんだけど、その辺りの調査も族長からは命令されているのさ」
金髪のズメイが、焼けたコカトリスの串焼きを手にするとかぶりつきながら答えた。
「ズメイ、そんな事まで言わなくていいのよ」
青髪のリーヴァが、金髪のズメイの口の軽さを注意した。
「……そういう事で、今回の暗殺ギルド殲滅作戦は我々竜人族にお任せ下さい」
マラクが、タウロに向き直るとそう告げた。
「わかりました。──それでは先にズメイさんが食べ始めたので、みんなも食べましょう」
タウロは串焼きを手にするとみんなに配って、その味を確認するのであった。
コカトリスの肉を美味しく堪能していた一行であったが、リーヴァがピクリと何かに反応した。
「……どうやら、タウロ殿の元父親は領主邸に入っていったようです。これで、領主も”黒”ですね」
タウロの元父親ソークは、マラク達にずっと泳がされ、暗殺ギルドの拠点を本人も知らないうちに教え続けていた。
ソークが暗殺ギルド内で信用を得れば、その分、出入りする場所が増え、それがソークに『目印』を付けて監視しているリーヴァに確認されるという具合である。
王都の拠点殲滅もそれが原因で発覚、殲滅に至ったのだが、敵はもちろん、ソーク自身もまだ気づいていない。
ソークは今回も、王都殲滅からその特殊スキルの才能を見込まれて極秘書類を託されると、それを持って脱出した事で、ソークの評価は暗殺ギルド内で高くなっていた。
そんな事実は知らないタウロ達であったが、領主邸に訪問している時点で、それが想像出来るというものだ。
「それが、確認出来たのであれば、今晩にもみなさんが待機しているカクザートの街に戻って話し合いをしましょう」
タウロは最後の串肉を食べると、そうみんなに告げるのであった。
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