第355話 偏っている依頼

 案内役のフリをした監視が一日経って離れるのを確認すると、宿屋でリーヴァに早速、タウロの元父親がどこにいるかを確認させた。


「……今は領都内を移動してるようです。動きが落ち着くまで泳がせておき、暗殺ギルドの場所を特定した方がいいでしょう」


 リーヴァはそう報告するとタウロに助言した。


「そうだね。あとは人目に付かない広い場所をみつけ、そこから他の竜人族のみなさんを招き入れる準備をしないと」


「それは最終段階で良いかと思いますタウロ殿。この領都内に暗殺ギルドの総本部があるのはわかっている事なので、我々だけで見つけるのも容易いかと。逆に他の竜人族を今の段階で呼んで人目に付いて怪しまれてしまっては事を仕損じるかもしれません」


 赤髪のマラクがタウロにそう指摘した。


「もちろんあくまで準備です。どちらにせよ正確な情報を入手後、一旦みんなで合流し、作戦を練らなければいけません。それをするには、やはりこちらでは目立ちますからみんなが待機しているカクザートの街での話し合いになります。それまではこちらで僕達もあまり目立つわけにはいかないので、冒険者ギルドでクエストを受注して普段通りに過ごしつつ、情報も集めるという事が大事になると思います」


「……確かに。情報を集める前にこちら側が不審な動きをしてまた密告でもされたら作戦もへったくれもないですね」


 マラクがタウロに賛同して頷く。


「では明日から、冒険者ギルドで普通にクエストを受注して早めに完了し、空き時間に領都内を散策する体で情報収集しましょう」


 タウロがそう提案すると全員が頷く。


 翌日からタウロ達一行は、冒険者ギルド・ボーメン支部に登録するとクエストを受注する事にするのであった。




「……他の冒険者ギルドの依頼内容と違って、独特なの多いな……」


 アンクが、冒険者ギルド掲示板に張られたクエストを眺めるとそうぼやいた。


「確かに……。これなんて、『新毒の実験の為に毒耐性持ち冒険者募集』ってあるよ。つまるところ、人体実験だよね……、これ」


 タウロもフリークエストの掲示板を見て呆れる。


「こっちには、『耐久力に自信のある丈夫な冒険者募集※内容については依頼主と要相談』って、内容が無いような……」


 ラグーネがDランク帯クエストを手にして、本人も気づかずにダジャレを繰り出していた。


「『内容が無いよう』って、天才かラグーネ……!」


 金髪美少年系の容姿をしているズメイがラグーネの天然から飛び出したダジャレにツボった様だ。


「……ズメイさんって、これで笑うのか……」


 竜人族の笑いのセンスを少し疑うタウロであった。


「タウロ殿、無難なクエストもありますよ。フリークエストですが、猛毒持ちのコカトリス討伐です。採取部位は尻尾の蛇部分とその毒、討伐証明の鶏冠になってます」


 赤髪のマラクが、1枚の真新しいクエストをタウロに見せた。


「なるほど……。──本来、Cランク帯クエストだったと思いますが、フリーでやれるならみんなのランクアップにも繋がりそうだしいいかもしれませんね」


 マラクからクエストを受け取ると、目を通して納得した。


「コカトリスか。確か雄鶏の体に蛇の尻尾がある1m弱の大きさの魔物だったよな?そんな魔物が領都付近に生息してるのか。──にしても、毒系麻痺系の依頼多くないかこの支部」


 アンクが掲示板を見渡しながらぼやくのであった。


「だが、幸いタウロをはじめ、このメンバーはみんな耐性持ちだから比較的楽な仕事だろう」


 ラグーネがアンクのぼやきを違う意味で解釈して答えた。


「いやいや、……依頼主側の質の問題を指摘してるんだよ。毒系麻痺系なんかの素材を求める依頼主が他の街と比べたら多すぎるって話さ」


 アンクは声を落としてラグーネに耳打ちする。


「……そういう事か。言われればこの街の闇の部分が見えてくる気がする偏り方だな」


 ラグーネも声を落としてアンクに答える。


「じゃあ、みんなこのクエストでいいかな?さっさと引き受けて片付けよう」


 タウロは一同に確認を取ると、受付に持っていく。


「先程登録された『黒金の翼』のメンバーですね。六人中Dランク帯は三人、残りの三人はEランク帯……。大丈夫ですか?本来このクエストはCランク帯のものを依頼主の事情があって緊急でフリークエスト扱いにしているのですが……」


 受付嬢はD+ランクの子供リーダーであるタウロに不安を覚えたのか確認する。


「はい、大丈夫です。うちのメンバーはランク以上に優秀なので」


 タウロは自信を持って答えた。


 何しろ六人のメンバーのうち、竜人族は四人。


 そのうちの三人は攻略組に入っていないとはいえ、族長からの信頼も厚い超一流の腕利きなのは確かである。


 アンクにしても元傭兵としての実績、実力も十分で、現在のランク評価は低過ぎるくらいだ。


 それに、魔改造された装備を身に付けている事でよりパワーアップしている。


 大きな死角は無いと思っていた。


「……わかりました。それでは手続きを完了します。──もし、クエスト中、危険だと感じたら逃げて下さい。あと、わかっていると思いますが、準備は怠らないで下さいね?」


 受付嬢は念を押すと一つの札をタウロに渡す。


「これは?」


「検問所を自由に通過できるものです。冒険者ギルドが通行料を負担するという証明の札になっていますので、きちんと持って帰って来て下さい」


「わかりました」


 タウロはそう答えると、札を受け取ってみんなを引き連れ、冒険者ギルドを後にするのであった。

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